武蔵国忍藩の領地・秩父に不穏な気配がある―。南町奉行大岡越前に探索を命じられ、秩父に赴いた将軍吉宗の密偵・呑蝮。そんな呑蝮を待ち受けていたのは、里外れの庵に若い尼僧二人と住む美貌の庵主だった。忍藩前藩主阿部忠秋の孫だという庵主は、秩父神社で毎月行なわれる絹市に立ち会う忍城の役人を歓待し、籠絡する役目を担っているらしい。藩主の血筋を引く者が何故そのような境遇に…。不審を覚えた呑蝮が秩父陣屋を探るうち、庵主の背後には母娘三代にわたる悲劇の過去が隠されていることが明らかになってきた…。秩父藩創設の野望の渦に身を投じ、藩主一族への復讐を狙う女。その数奇な運命に加担する呑蝮が逆手斬りの切っ先を向ける相手とは。