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百花遊歴

講談社文芸文庫 つE10

出版社名 講談社
出版年月 2018年11月
ISBNコード 978-4-06-513696-6
4-06-513696-2
税込価格 1,870円
頁数・縦 329P 16cm

書店レビュー 総合おすすめ度: 全1件

  • 呪術的な言語感覚と怜悧な批評精神

    「詩歌は花花によつて綴られ、花花は詩歌人の人生を反映し、代代の歌人は一莖一花におのが魂を託して來た。」
    本書は二十四の花々を取り上げ、万葉集、古今集から現代の作品まで、その花々を詠んだ膨大な詩歌を引用し、詩歌人たちの思いを紐解き、花と言葉それぞれの持つフェティッシュな美を描き出す、精緻な箱庭のような一冊。紫陽花、晝顏、木槿、桔梗など、茶花として親しまれるものも登場します。歌人が花に向けた眼差しは、利休が「野にあるやうに」と茶室に生けた花へのそれを連想させます。
    著者は、文語体と正字正仮名にこだわりながら伝統的な韻律を逸脱していく呪術的な言語感覚と怜悧な批評精神で、新しい短歌の美を世に示したモダニスト。伝統と前衛、形式と逸脱を往還するその振る舞いは、茶道の精神とも響きあうのではないでしょうか。
    また歌人は植物学、博物学にも精通し、その浩瀚な知識で、本書に重層的な魅力を与えています。(久禮)

    (2020年4月8日)

商品内容

要旨

花は歌人を象徴する。晶子の蓮や牡丹、茂吉の苧環に通草、牧水の櫻、そして白秋の植物園的多彩性―“馬醉木”“椿”“菫”“罌粟”“薔薇”“勿忘草”“ジギタリス”花を愛し、本草学にも深く通じた博学の前衛歌人が、十数年の歳月をかけ分類・精選した二十四の詩歌庭園。古今東西の偉大な言語芸術から、真実の言葉を結晶させようと心血を注いだ名エッセイ。

目次

馬醉木―花馬醉木風にかわきてうつしみは編目弛びし悲しみの籠
椿―一人の刺客を措きてえらぶべき愛なくば水の底の椿
菫―すみれ咲く或る日の展墓死はわれを未だ花婿のごとく拒まむ
罌粟―罌粟播きてその赤き繪を標とせりはるけきわざはひを待つ家族
薔薇―薔薇、胎兒、慾望その他幽閉しことごとく夜の塀そびえたつ
勿忘草―少年の戀、かさねあふてのひらに光る忘れな草の種子など
茴香―青春は一瞬にして髭けむるくちびるの端の茴香のoui!
百合―ダマスクス生れの火夫がひと夜ねてかへる港の百合科植物
ジギタリス―赤い旗のひるがへる野に根をおろし下から上へ咲くジギタリス
泰山木―泰山木雪白の花ふふみたり青年を棄てて何を愛する
燕子花―かきつばたこの夜男は亂闘に敗れたる衣胸に飾らむ
海芋―花屋には海芋蒸れつつクー・デタァこころ戀ふわが皮膚呼吸
梔子―くちなしの實煮る妹よ鏖殺ののちに来む世のはつなつのため
紫陽花―人は幼き日より老いつつあぢさゐに晝たまゆらの〓とどまらず
ダリア―買手きまらぬ庭園の隅 贅肉のごとき白ダリアを放置せり
朝鮮朝顏―棄てたる愛否や朝鮮朝顏のあたり明るむ七月の闇
晝顏―不惑とてなに惑はざるひるがほのゆふべ咲きのこれる一つ花
木槿―別離燦爛たるこの刻よ〓年の肘白妙の木槿にふれて
夾竹桃―褪紅に霧ひ敗戦記念日をななめい立てり夾竹桃は
合歡―ひる眠る水夫のために少年がそのまくらべにかざる花合歡
蓮―わが修羅のかなた曇れる水のうへに紅き頭韻の花ひらく蓮
曼珠沙華―いたみもて世界の外に佇つわれと紅き逆睫毛の曼珠沙華
鳥兜―愛を病むものらなべてに鳥兜咲けり慄然たる濃むらさき
桔梗―桔梗苦しこのにがみもて滿たしめむ男の世界全く昏れたり

おすすめコメント

櫻、紫陽花、曼珠沙華…豪腕アンソロジストが愛する花花を題材に、古今の名歌を厳選し、魅力溢れる解釈と鑑賞で織りなす至高の詞華集

著者紹介

塚本 邦雄 (ツカモト クニオ)  
1920・8・7〜2005・6・9。歌人、評論家、小説家。滋賀県生まれ。歌誌「日本歌人」(前川佐美雄主宰)に入会。1951年、『水葬物語』で歌壇に登場。60年、岡井隆、寺山修司等と「極」を創刊。85年、歌誌「玲瓏」主宰。反リアリズムの前衛短歌の雄として精力的に活動。『日本人靈歌』で現代歌人協会賞、『詩歌變』で詩歌文学館賞、『不變律』で迢空賞、『黄金律』で斎藤茂吉短歌文学賞、『魔王』で現代短歌大賞を各々受賞。97年、勲四等旭日小綬章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)