商品内容
要旨 |
天才と呼ばれた美術学校生と、そのモデルを務めた少女の悲恋。大正ロマンの旗手による長編小説を、表題作の連載中断期に綴った関東大震災の貴重な記録とあわせ、初単行本化。挿絵97枚収録。 |
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4-86182-933-X
岬 附・東京災難画信
竹久夢二/著
作品社
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BK
出版社・メーカーコメント
どうぞ心配しないで下さい、私はもう心を決めましたから 天才と呼ばれた美術学校生と、そのモデルを務めた少女の悲恋。大正ロマンの旗手による長編小説を、表題作の連載中断期に綴った関東大震災の貴重な記録とあわせ、初単行本化。挿絵97枚収録。 葉山はお幹を帰してから、長椅子に腰かけ一つ所を見詰(みつめ)ながら、坐っていた。葉山は若い娘の泣くのをはじめて見た。洪水のような彼女の涙に誘われて一所に押流されそうだった自分を、危く踏止(ふみとど)まった、生れて始めての経験について自分を省みた。(…) 葉山は、自分の無力を自ら責(せめ)はしたが、実はこの上彼女の運命にたずさわる事を、ただ彼の弱い心が恐れたのだ。その上、相手が若い娘である事が、葉山の心をぎこちないものにしたのでもあった。 それにしても、彼女が画室を出る時「私もう決心しています」と言った言葉を、葉山はふと思い出した。「お幹は死ぬかも知れない、それはもう理窟ではない、これは放ってはおけない」そう思いつくと、葉山は弾かれたように椅子から飛上がって、そこそこに着物を着換(きがえ)て外へ飛出した。お幹が、彼から遠く遠く去って行ったであろう路を歩きながら、彼は非常に感傷的(センチメンタル)になって路を急いだ。(本書より)