内角のわたし
出版社名 | 双葉社 |
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出版年月 | 2023年3月 |
ISBNコード |
978-4-575-24614-8
(4-575-24614-X) |
税込価格 | 1,815円 |
頁数・縦 | 220P 19cm |
NetGalley 会員レビュー
おすすめ度 サイン、コサイン、タンジェント。歯科医でアルバイトをしている森ちゃん。その頭の中でこの3人が常に存在していて共に会話をし、時に3人の内の誰かが実世界で仕事をしている。三角形の内角が本当の森ちゃんなのか、どうなのか。森ちゃんは女性だからこその嫌な経験や出来事に敏感になっていて、常にびくびくしながら生きている。そしてプライベートではスマホアプリの農場作りにひたすら時間を費やしている。そういうアプリに私も短い一時はまった事があり、その気持ちも分かるしで、森ちゃんが一体どうなっていくのか、まるで妹を見守るような気持ち。途中から登場する歯医者の甥が、同じゲームをやっていることから、物語は少し新たな展開を見せるのだが...。誰が助けてくれるわけでもなく、誰が正解を出してくれる訳でもない。そして森ちゃんは、新しい一歩を踏み出していくのだ。一時消えたタンジェント、そしてサイン、コサイン、つまりは自分自身と共に。
おすすめ度 サインとコサインとタンジェント、内なる自分の声が三人分の感じ方や考え方で脳内がいっぱいになる状況に始終支配されている歯科助手の森さん。女性であるというだけで弱々しいと受け取られ、威圧されたり、はけ口にされたりする一方で、若くはない自分が「かわいいもの」を好み、気持ちの中に「守られたい」意識があることも自覚している。歯科医院の院長が圧倒的男性の立場で接してくる描写には、今どき、こんな男まだいたのか! とも思ったが、「すべての加害者には自覚がないものです」には心の底から同意しました。そして、ひどい連中ほど、ふつうの顔をしている。弱い(外見の)人間は標的にされやすい。標的にされたとき、その怒りの矛先を向ける相手は弱そうに見える人とは…。そうやって生きていくしかないんだよなあ。
おすすめ度 伊藤さんの作品は『きみはだれかのどうでもいい人』が刺さり、それ以来読んでいるが、読後感は重くひりひりした思いが残る。今作『内角のわたし』も、この感じ分かる、こういう人いるよねと頷きながら読んでいた。でも最後に残るのはやはりひりひりした思いだった。主人公の内側にある感情が互いにぶつかり合う。ゲームでは正三角形の形を愛でるのに、それぞれの感情は時に尖りパワーバランスも変わる。自分が定まらないとき、いつだって自分の内側では感情が揺れ、誰でも自分の内側の様々な声に戸惑うことがあるだろう。その自分のなかの感情が、個性ある声として描かれているので脳内会議の騒がしさが伝わる。主人公の過去は誰かと共有できるものなのだろうか。繊細な感情をよく言語化したなと思う。読後に残るひりひり感は、私自身の内側にいる何人もの自分の感情を揺さぶられたからだろう。 上記レビューの提供元:NetGalley(株式会社メディアドゥ) NetGalleyとは、本を応援するWEBサイトです。 |
商品内容
要旨 |
歯科助手のアルバイトをしている森。彼女の中では三人の「わたし」の意識が、めまぐるしく移ろう。相反する内側の声に引き裂かれる森は、仕事が終わるとスマホでゲームの世界に逃げ込むのが常だった。ある日、職場の「新人くん」が同じゲームをしているとわかり、彼とゲーム内で“友達”になるが…。可愛いに呪われ、強さに囚われ、諦めに蝕まれ、その果てにあるものとは―?一人の女性を通して描かれる世界の歪みはきっと、わたしたちの現在地だ。 |
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出版社・メーカーコメント
1986年生まれ、静岡県出身。2015年、「変わらざる喜び」で第31回太宰治賞を受賞。同作を改題した『名前も呼べない』でデビュー。他の著書に『稽古とプラリネ』『緑の花と赤い芝生』『きみはだれかのどうでもいい人』『ピンク色なんかこわくない』がある。