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戦争は女の顔をしていない アレクシエーヴィチ 人びとの声を紡ぐ

NHK「100分de名著」ブックス

出版社名 NHK出版
出版年月 2024年6月
ISBNコード 978-4-14-081966-1
4-14-081966-9
税込価格 1,320円
頁数・縦 173P 19cm

商品内容

要旨

プロパガンダに煽られ、前線で銃を抱えながら、震え、恋をし、歌う乙女たち。戦後もなおトラウマや差別に苦しめられつつ、自らの体験を語るソ連従軍女性たちの証言は、凄惨だが、圧倒的な身体性を伴って生を希求する。初のノンフィクションでのノーベル文学賞受賞作家・アレクシエーヴィチによる「証言文学」の金字塔。

目次

第1章 証言文学という「かたち」(「これは女の仕事じゃない」
「ユートピアの声」五部作
証言文学という創作手法
五百人を超える「声」の合唱
証言文学は「生きている」
証言が響き合い、浄化し合う
「小さな人問」の声を拾い集めて
多声性によって描かれる輪郭
「大文字の歴史」が取りこぼしてきたもの)
第2章 ジェンダーと戦争(「兄弟姉妹たちよ!」の呼びかけに応えて
銃を手に最前線で戦った女性たち
勇敢な兵士と良妻賢母、二つの顔
「身体の記憶」を書き取る
紀貫之とアレクシエーヴィチ
ハイヒールと銃弾
戦場で唯一私的な営み―恋愛)
第3章 時代に翻弄された人びと(「母なる祖国」というプロパガンダ
毎日流れる愛国の歌
プロパガンダの時代が終わっても
捕虜になった兵士を待っていたもの
わが国で捕虜になった者はいない
勝利を奪われ、差別された女性たち
検閲が隠す戦争の闇
「すばらしい顔」と「恐ろしい顔」)
第4章 「感情の歴史」を描く(歴史学と文学の違い
苦しみの言葉は時を超える
トラウマ―終わらない戦争
共感=エンパシーの力
ドイツ人へのエンパシー
動物や自然への共感
「自由かパンか」)
ブックス特別章 逆走する歴史(ウクライナへのロシアの侵攻
ディストピアにおける言葉
スターリンの“功罪”
兵力動員
後戻りする時代
時代の証言
アダプテーションの例
作家の使命)
読書案内

出版社・メーカーコメント

【はじめに】(一部改変抄録) スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは1948年、ソ連ウクライナ共和国で生まれました。父はベラルーシ人、母はウクライナ人です。生後間もなく、父の故郷であるベラルーシのミンスクに一家で移住し、七二年にベラルーシ国立大学ジャーナリズム学部を卒業。翌年から三年間、「農村新聞」紙で記者として働き、その後は「ニョーマン」誌に移ってルポルタージュ・評論部長を務めました。 『戦争は女の顔をしていない』の取材を始めたのは、この「ニョーマン」誌時代の78年です。アレクシエーヴィチは、第二次世界大戦でソ連軍に従軍した女性たちのもとに足繋く通い、戦時中の過酷な経験、忘れがたい思い出、戦後の辛い体験やトラウマなどについて、じっくり耳を傾け、録音していきました。そして五百人にものぼる人びとの声を文字で再現し、紡いで、悲しみと苦しみに満ちた壮大な交響曲『戦争は女の顔をしていない』を織りあげたのです。 その後の作品も、いずれも膨大な証言を編集して構成するという同じ手法で書かれた〈証言文学〉です。2015年にノーベル文学賞を受賞したときの理由がまさに、「多声的(ポリフォニック)な作品は、現代の苦しみと勇気にささげられた記念碑である」「入念に人間の声のコラージュを作るという独創的な創作方法を用いて、時代全体に対する私たちの理解を深めてくれる」というものでした。大部分が証言から成るノンフィクション作品にノーベル文学賞が与えられた前例はなかったので、アレクシエーヴィチの受賞は驚きをもって迎えられましたが、私は、「文学」そのものの定義が押し広げられた、画期的な出来事だったと考えています。 執筆言語は彼女自身の母語であるロシア語です。『戦争は女の顔をしていない』が単行本として出版されたのは1985年、ソ連のゴルバチョフ共産党書記長がペレストロイカを始めた年に当たります。それまで従軍女性については、ごくわずかなことしか知られていなかったのですが、『戦争は女の顔をしていない』によって初めて、約百万人もいたといわれる元女性兵たちの実態に光が当てられました。(略)

著者紹介

沼野 恭子 (ヌマノ キョウコ)  
ロシア文学研究者、東京外国語大学名誉教授。東京外国語大学外国語学部ロシア語学科卒業後、東京大学大学院総合文化研究科比較文学比較文化単位取得満期退学。専攻はロシアの近現代文学。主な研究テーマは現代ロシア女性文学、日露の文化関係、ロシアの食文化など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)