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平山書店のレビュー

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掲載レビュー全609件
 
本居宣長 上
新潮文庫 こ−6−6
小林秀雄/著
新潮社
税込価格  990円
 
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「物のあはれを知る心」という言葉は、本居宣長の名とともに私たちに良く知られている。一般に「物のあはれを知る心」とは、悲しい時には心乱れ、嘆き悲しむのが「かざらぬ真の心」という人情だとして、日本人共通の大事な心のありようを示すことだと信じられている。しかし、この言葉は本来どのようなことを言っているのだろう。宣長の説明では、「物のあはれを知る心」とは、事につけて様々に思い、動き乱れるような心をいっている。例えば、人の死が悲しいのは、別れという体験を積み重ね、そのときの悲しい感情を経験しているからこそ、究極の別離である死がとても悲しく感じられるというのだ。いいかえれば、人に共感したり同情することができるか、できないかということは、過去に自身が同じような感情経験をしているかどうかで分かれるといえよう。「物のあはれを知る心」という言葉が日本人の心の特徴とされてきたその土台には、国民共通の感情体験があるのからに他ならない。ただ、問題は幼児期から高齢期までその時期に応じて人の社会での立ち位置が変化してゆく中で、小林秀雄が言っているように、このような経験を「損なわず保持して行くことが難しい」ところにある。このことは社会とのかかわりを持ち続けることの難しさを述べたものであるが、様々な本を読み、実践してみることで「生きた情(こころ)の動き」を持ち続けることは可能であろう。(のり) (2008年10月21日)
なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日
門田隆将/著
新潮社
税込価格  1,430円
 
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「まことに、わたしはひとに同情して幸福を感ずるようなあわれみ深い人たちを好まない。かれらはあまりにも羞恥心が欠けている」(手塚富雄訳)  ニーチェ、「ツアラトゥストラ」の言葉である。犯罪被害者の方々に世間はいともたやすく同情し、慰めのことばを発する。それが本件のような凶悪でむごたらしい事件であればなおさらである。ニーチェはそのような行為を糾弾する。同情するのは他者を弱者とみなし恥じさせることで、人間として恥ずべきことであると。そうではなく、愛する対象を鍛え高める高い愛に進むべきだというのである。  だが、本作の主人公、本村洋氏の周りには素晴らしい人物たちがいた。本村氏は裁判の過程で、彼らとのやりとりを通じ、自らの使命を確信するに至る。被害者感情とあまりにも乖離した司法の世界。少年法というタブーに思考停止してしまっているマスコミの世界。これらのことを変えるべく本村氏は立ち上がったのである。本作はその詳細を、ノンフィクション作家の門田隆将氏が約9年に渡って追いかけた魂の記録である。  エピローグで著者は加害者の元少年と接見する。そこには、「本当の意味で罪に向き合ったのではないか」と著者が感じたように、死刑判決が下された高裁での差し戻し審での様子からは思いも寄らない反省した加害者の姿があった。  死刑判決後の記者会見で、本村氏は次のように語っている。「事実を認めて反省の弁を述べていたら死刑を回避できたかもしれない」と。被告はこの言葉を聞き、「救われる気持ちがした」と述べたという。  再びニーチェの言葉を引用する。「君がわたしにしたこと、それをわたしは君に許す。しかし、君がその行為を君にたいしてしたということ、そのことを許す資格がどうして私にあるだろうか」。このとき、本村氏は”超人”になった。読書子はそう確信したのである。のり (2008年10月09日)
文章は接続詞で決まる
光文社新書 370
石黒圭/著
光文社
税込価格  836円
 
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日常、感覚的にわかっている事柄でも、体系的に理論として示されると新鮮な発見があるものだ。本書はわれわれが普段使っている日本語の接続詞に焦点を当て、その意味を明らかにしようとしたものである。その意味で、本書は読書経験の豊富な読み手ほど得るところが多いだろう。接続詞という類書に無い、違った角度から物事を見ることで、日本語の読み書きの技術向上を図れる1冊である。 (2008年09月29日)
整体法はこう診るこう手当てする 整体の神髄をわかりやすく解説
Medical life
井本邦昭/著
三樹書房
税込価格  1,375円
 
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人間が本来もっている治癒力を引き出す。これが著者の井本邦昭氏が主張する整体法の真髄である。体調を崩すと至れり尽くせりの過剰サービスを受け健康を買った気になっているわれわれにとって、まさに耳の痛い言葉ではないだろうか。老子に「天の道は、有余を損じて、不足を補う」とある。簡単なことのようだが、普段これを実行することさえ容易でないだけに、本書の主張がいっそう重みを増して見えるのだ。 (2008年09月29日)
散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道
新潮文庫 か−50−1
梯久美子/著
新潮社
税込価格  737円
 
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硫黄島、太平洋戦争の終章が迫りつつある時期、浮沈空母としてアメリカが最重要戦略拠点といちづけ、ここを占拠すれば、東京の空襲が容易になる。事実アメリカの手に落ちたあとが、東京空襲をへて敗戦へ一直線へと坂道をころげ落ちた。 硫黄島、死守を命に受け、帰任した栗田中将は、アメリカ留学した合理的な戦略を練る異端の人であった。サイパンをはじめ、太平洋の島々で繰り広げられたアメリカとの戦闘は、「水際作戦」は悉く失敗し、短期に敵方に落ちていった。栗田中将は敵を島にに上陸させる陸地戦を決断する。地熱と硫酸ガスに悩まされながら島中に塹壕が構築されてゆく。そしてアメリカ人の中でも有名な事実として、死傷者がアメリカのほうが多かった。栗田中将の名がアメリカで殊に高いのは、その合理的思考とリーダーシップにより、多くの成果を上げたことによると思う。 (2008年09月19日)
歎異抄
講談社学術文庫 1444
〔親鸞/述〕 梅原猛/全訳注
講談社
税込価格  1,298円
 
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浄土真宗の開祖、親鸞の教えを弟子の唯円が綴った本書は、その中興の祖である蓮如により、危険な書物とみなされ、長らく門外不出とされてきた。その思想は本願寺の存在そのものを脅かしかねないものとして認識されてきたわけである。それは、功利的な動機から発する現世で善行を積むこと=寺院に寄進すること、これらの行為が親鸞の教えに背くものとされているため、教団の存在自体が親鸞本来の意思ではないとみなされることを懼れてのことだとされる。  話は変わるが、読書子には地球温暖化のニュースを見聞きするにつけ、かねてから疑問に思っていることがある。はたして人間の活動は全地球規模の自然の回復力を上回るほど偉大なのか。同時に人間の営みによって、気候を変え、人間を始めとした生物の生命を救うことは可能なのか。後者の問いに対する応答は、あらゆる場面で人類の使命感や善意といった装飾を施されて我々の前に提示される。だが、読書子は、これらの問いに正面から答えるだけの知識や能力を持ち合わせてはいないし、その自信も無い。ただ、歎異抄にある次の言葉が胸に突き刺さる。「今生に、いかにいとをし不便とおもふとも、存知のごとくたすけがたければ、この慈悲始終なし。(第四条より)」(この世の中でわれらがどんなに他の生けるものをいとおしい、かわいそうだと思っても、われわれの思いどおり、いとおしいものを救うことができませんので、そういう慈悲は結局首尾一貫しない慈悲であります:梅原 猛氏訳)。いかに手をかけても、たった一人の人間でも救い得ないことはままある。有限なる慈悲を無限であるかのように思い誤った慈悲ではないのかと。この歎異抄を綴った唯円は、苛烈なことばで浅薄な仏道修行者たちの偽善を批判している。 (のり) (2008年09月18日)
中国大乱を乗り切る日本の針路
長谷川慶太郎/著
ベストセラーズ
税込価格  1,760円
 
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いつも読んで感心するのが著者のユニークな情報だ。それが確たる情報源が裏打ちされる一級の情報だ。中国に迫る危機。それは希望的観測や偏向のかかった情報から発せられることが多い。しかし氏の分析は客観性による。オリンピック後が危ないと云う。中国に在留している邦人の脱出の方法まで事細かに書かれていると、フェイス4から5になりつつあるかもしれない。(のり) (2008年09月11日)
堂々たる政治
新潮新書 257
与謝野馨/著
新潮社
税込価格  748円
 
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自民党総裁選挙の真っ只中、主役の一人与謝野氏の上梓。派手さはないが朴訥とお話になられる、そのままの文体でかかれている。現在直面してる日本の諸問題を取り上げ 明確に答えておられる。注目の選挙を別の面から見ることが出来る一助となるでしょう。 (2008年09月11日)
苛立つ中国
文春文庫 と17−2
富坂聡/著
文藝春秋
税込価格  628円
 
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筆者は北京大学に留学した経歴をもっている。中国語を話せ、人脈もあり、それに裏付けられた情報が豊富にあり、分析をしている。ニュース(中国政府の公式)からは分からない現実が描かれている。2005年の反日デモは北京でも計画されていて、それは政府によって阻止された。反日デモが政府転覆に向けられることを恐れた政府の強い意志であったと、政府高官のインタビューを採っている。現在中国の底流に流れる動きがわかる好著。 (2008年08月24日)
若きウェルテルの悩み
新潮文庫 ケ−1−1
ゲーテ/〔著〕 高橋義孝/訳
新潮社
税込価格  649円
 
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1774年、当時25歳のゲーテが自身の恋愛体験を基に綴ったあまりにも名高い作品。ゲーテを一躍有名作家に押し上げた1冊である。主人公のウエルテルは人妻のロッテに恋し、その遂げられぬ思いのあまり自ら命を絶ってしまう。この作品は発表当時、従来の小説の枠をはみだして人間の生き方そのものを描いたという話題性もあり、大反響をもって受け入れられた。また、一方で自殺擁護の作品ではないかと受け止められ激しい賛否両論の渦を巻き起こした。だが、この意見はゲーテの本意とは異なる全くの誤解である。主人公の意識はひたすら自身の内へ内へと向かい、社会との折り合いをつけ、そこで自己の生活を築き上げることを知らずに自殺してしまう青年の悲劇がそこにはある。この主人公に決定的に欠けているのは、現実の社会に生きる人びとに対する想像力であることを読み取らねばならない。最近、世を騒がせている若者の引き起こした事件の動機に、人を殺せば死刑にしてもらえると思った、というものを聞くたび胸が痛む。若いうちは若いようにしか生きられない。世の中には必ず師たるべき人物がいる。悩んだとき救いを求めるのも良いではないか。書物の師はあなたを喜んで迎えてくれることだろう。 (2008年08月22日)
行きずりの街
新潮文庫
志水辰夫/著
新潮社
税込価格  649円
 
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短大を4年生大学へと移行させることによって、動く利権、裏の処理をする理事、秘密を握られ、操り人形と化した学長や理事長。主人公が教え子を救うという一身で大きな悪の正体を暴いてゆく。展開のすばらしさ、台詞の冴え、元妻とのやりとりなどなど。息をつかせないすばらしさ。ぜひ一読のお奨め。 (2008年08月08日)
モンスターペアレントの正体 クレーマー化する親たち
シリーズCura
山脇由貴子/著
中央法規出版
税込価格  1,430円
 
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現代人は忙しい。ましてや子どもをもつ親たちはなおさらだ。その忙しさからくるコミュニケーションの不足が、この問題の原因だと著者は指摘する。戦後、わが国は二度のオイルショックにもめげず、奇跡的な復興を遂げたのは、利便性の追求と徹底した効率化によるところが大きい。しかし別の側面から考えてみると、失ったものもまた大きいことに気付く。家電製品の普及により主婦が家事に割く時間と労力は大幅に減った。しかし、そのことで、女性は家を出て働くようになり、地域や学校とのコミュニケーションは減少した。利便性の追求と効率化がもたらしたものとは、当初期待された生活の「ゆとり」ではなく、皮肉なことに増えた時間にあまりにも多くのことを詰め込みすぎたことによる「忙しさ」だったのである。 (のり) (2008年08月02日)
暴走する「地球温暖化」論 洗脳・煽動・歪曲の数々
武田邦彦/著 池田清彦/著 渡辺正/著 薬師院仁志/著 山形浩生/著 伊藤公紀/著 岩瀬正則/著
文藝春秋
税込価格  1,676円
 
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いま、地球温暖化をはじめとする環境危機論が盛んである。巷の店頭は「地球にやさしい」などと銘打った商品で溢れかえり、いったい何がどう”やさしい”のか、我々消費者はその実情を知ることが無かった。本書は、このような風潮のカラクリを明らかにしようとするものである。読書子は本書のような環境問題懐疑派の書と初めての出会いが、池田清彦氏の「環境問題のウソ」であった。その後、薬師院仁志氏の「地球温暖化論への挑戦」、ロンボルグ氏の「環境危機をあおってはいけない」を読むにいたり、現在サミットで議題となるほど世界的な課題となっている地球環境問題に、かなり胡散臭い偽善の匂いを感じるようになった。われわれは、もっと知るべきである。誰に対しても耳障りの良い言葉の裏には、功名に偽善が隠されていることを。(のり) (2008年08月02日)
出家とその弟子
新潮文庫
倉田百三/著
新潮社
税込価格  572円
 
メーカーより取寄せ
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教養小説としてあまりにも有名な倉田百三の名作である。しかし、なぜ今になって『出家とその弟子』なのか。 2008年7月19日、愛知県岡崎市の東名高速道路で14歳の少年によるJRバスジャック事件。報道によれば、少年は男女交際のことで両親ともめており、犯行の動機として「家族をめちゃくちゃにしたかった」などと述べているという。 さて、話は本書に戻る。遊女のかえでと恋仲になった弟子の唯円は、師匠の親鸞を騙し、先輩に勤めを欠くようになる。そこで親鸞は次のように唯円を諭す。「恋人を愛するがゆえに他人を損なうようにならないことだ。恋の中にはこの我儘がある。これが最も恋を汚すのだ。」と。 発表後1世紀近く経つが、いまだにこの作品の輝きは失われていない。惜しむらくは、この少年に本作品と出会う機会を与えたかった。しかし、近年の読書離れは著しい。親から子へ、教師から生徒へと読書を薦める機会は失われつつある。少ない機会だけに、そこで良書を選びたい。小欄がいささかでもその本選びに貢献できれば、それに越したことはない。 (のり) (2008年08月02日)
孤宿の人 下
新人物ノベルス
宮部みゆき/著
新人物往来社
税込価格  968円
 
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丸海藩に災禍をもたらすと恐れられた、元勘定奉行加賀殿の素性と狂気の沙汰に到った経緯が明かされる。単なる災害を、加賀殿の所為にして納得しまう庶民は読者ではないかと、作者の戒めを感ずる。その中、歳はもゆかない主人公が生き抜いてゆく。一番早く、費えてしまいそうな主人公が生き残ったのは何か考えさせられる。それは「素直さ」か。運命と言ってしまえば、我らが生きていくうえで、教訓にはなりえない。やはり「素直さ」しかないと思う。加賀殿の所作がよく描かれている。そこに理想の人物像が描かれている。多くの人物が登場するが、一人たりとも無駄な人物がなく、尚且つ個性豊かに描かれたいる。 (2008年07月27日)
西の魔女が死んだ
新潮文庫
梨木香歩/著
新潮社
税込価格  649円
 
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 最初の部分は主人公が英国生まれの祖母(日本に在住)のうち預けられ、そこでの生活の描写からはじまる。メルヘンテックな童話の延長線上の小説かと思いきや、中身の濃さに驚く。自然の中で調和して生きてゆくことが、人生で必要な知恵を得てゆく。現代人が自然にかかわらず、都会化された社会で生きてゆくことがいかに多くのものを失わせたか。核家族では伝承できない知恵を子供に伝えるか問題である。野いちごからジャムを作り、鶏を飼い卵をとり、子供が取りにいかせられ、鶏につつかれないで、いかに卵を取るか子供の目線で描かれてる。一昔前の時代が描かれてる。いじめられてる少女が手軽に魔法を持ちたいというのは人情である。しかし祖母は人間形成できていない人間が魔法を望むことは危険であると教える。大人でも手軽に魔法を得たいと思っている人はいるのではないか。また死後の世界人間がどの様になるのか、いっぱい詰め込まれている小説である。(たか) 新潮文庫WEB読者アンケートで第1位。古風堂々といつも自信に満ちているイギリス人おばあちゃんと、いつも不安で自分のやっていることに自信がない中学生、まいとの交流を描く。周囲に馴染めず、孤立してなやむ、まいとの姿を通じ、作者は現代社会の病巣を浮き彫りにする。おばあちゃんの存在が、まいが自分で立ち直るために必要だったことからわかるように、この作品には、しあわせに生きるためになにが必要なのか、という問いに対するヒントが書かれているといえよう。(のり) (2005年10月28日)
孤宿の人 上
新人物ノベルス
宮部みゆき/著
新人物往来社
税込価格  968円
 
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長編時代小説、時代ミステリーで作者の得意とするところである、上巻ではキーになりそうな人物はかなり登場する。ただ謎を解くとなると、決定的なものに欠ける。下巻に期待したい。緻密な文章は作者の真骨頂 (2008年07月21日)
カラマーゾフの兄弟 5
エピローグ別巻
光文社古典新訳文庫 KAト1−5
ドストエフスキー/著 亀山郁夫/訳
光文社
税込価格  692円
 
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ここまで読み進めてきた読者の皆さんは、やっと一息つけることと思う。本書は60ページあまりのエピローグと、著者の解題から成る。それにしても、これほど親切で内容豊かな読書ガイドはまたとないであろう。翻訳者には誰でもなれるわけではないのが理解できた。著者の生涯、作品の傾向、主要テーマの変遷、当時の社会情勢等々、様々な要素が1冊の翻訳にはかかわっているのだ。わが国では、外国語が出来るというだけで尊敬を集めやすい傾向があるが、単に外国語が出来るだけでは、中身の無い瓢箪と同じである。まことに尊敬すべきなのは、本書の訳者、亀山郁夫氏のような人を言うのである。(のり) (2008年07月21日)
カラマーゾフの兄弟 4
光文社古典新訳文庫 KAト1−4
ドストエフスキー/著 亀山郁夫/訳
光文社
税込価格  1,132円
 
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この年になって、ドストエフスキーの大作を読み直すことができるとは思っていなかった。いまは、ただこの読書作業のもたらす充実感を素直に喜びたい。その過程で大切なことを再発見した。このような古典的大作には、冗長な部分が多くある。学生時代の読みでは意識していなかったことであるが、そのメインストーリーと関係ないと見える部分の位置づけが、人物の対比に気をつけながら丹念に読み込んでゆくことで、明らかに見えてきたことだ。同時に、本作品がここまで綿密に計算されていたことへ驚きを禁じえなかった。−読み返してみて本当のよさが分かる−この作品を一言で言い表せ、と言われても読書子は言葉に詰まり立ちすくむのみであろう。これほどまでに多くのテーマを含んだ大作が簡単に要約してしまえるわけもない。われわれにできるのは、作品を自身に投影し、自らを懐疑的に見つめてみる、そのことだけかもしれない。 (のり) (2008年07月21日)
退屈力
文春新書 628
斎藤孝/著
文藝春秋
税込価格  792円
 
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「退屈力」とは、なんと挑戦的なネーミングだろう。著者が現代社会を「高度刺激社会」と形容し、それに抗するための能力を提示してみせたのが本書である。唐辛子の刺激を好む人は、より強い刺激でなければ満足できなくなり、味覚が破壊されてゆくごとく、外からの強い刺激を浴び続けることは人間のもつ創造力を弱めてゆく。過剰なまでのサービスで溢れ、そのサービスを誰でも容易に享受することが可能になった現代社会への警鐘であると同時に、根本から教育というものを見直そうとする齋藤氏の気概が、とても輝いて見える1冊である。 (nori) (2008年07月21日)

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