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明文堂書店石川松任店のレビュー

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掲載レビュー全106件
 
デビル・イン・ヘブン
祥伝社文庫 か31−1
河合莞爾/著
祥伝社
税込価格  918円
 
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有り得るかもしれない近未来の深い闇
おすすめ度:
 二〇二三年、近未来の日本で老人の転落死体が発見される。老人は、カジノ《イーストヘブン》に入り浸り借金を抱えていた。刑事の諏訪は、その老人の死に不審を感じていたが、聖洲署に異動になってしまう。東京オリンピック開催に合わせて二〇二〇年に誕生した日本初のカジノ《イーストヘブン》がある場所こそが、東京湾の埋立地である聖洲だった。架空の巨大な歓楽街を舞台に、有り得るかもしれない近未来の深い闇を描いた一冊である。
 警察小説と近未来サスペンスを融合した本書は、物語が進むにつれて現代社会の問題点を浮かび上がらせていきます。優れた社会派ミステリの要素を持った作品でもあります。これは否定的に捉える人もいるかもしれませんが、自分の想いを語る登場人物が多いのも印象的で、(どうなのかな、と思う場面がいくつかあったのも事実ですが)その想いの噴出が感動に繋がる場面が多くあり、個人的には魅力的に感じました。哀しみを帯びた壮絶なラストシーンには胸を打たれました。ストーリー自体はかなりハードですが、幻想性を持ったどこか優しさの残る文章は多くの人の心を掴むと思います。独特な味わいを持った作品です。 (2017年06月20日)
冤罪者
文春文庫
折原一/著
文藝春秋
税込価格  885円
 
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最後まで予断を許さない、騙される快感に満ちた一冊
おすすめ度:
 ノンフィクション作家である五十嵐友也のもとに拘置所にいる河原輝男からの手紙が届く。彼は今から十二年前、一九八三年に起こった《中央線沿線連続女性暴行殺人事件》の犯人とされ、冤罪を訴える男だった。五十嵐にはこの事件に関わり、婚約者の水沢舞が事件の被害者になった、という過去があった。最初は不快感を覚えていた五十嵐だったが、徐々に冤罪の可能性に気持ちが傾いていく。
 迷子になってしまい、目的地が分からない。仕方ないからと闇雲に道を進むと、もとへ戻る道さえ分からなくなって、途方に暮れる。何も分からないところへ放り込まれたような不安を読者に与えるのが、本書である。不信に満ちた物語だ。物語全体に漂う確信犯的な《嘘臭さ》が、本書を先の読めない物語にしている。癖の強い登場人物たちの複雑な人間関係によって形成される歪んだ物語の果てに、あまりにも強烈な真実が待ち受けています。最後まで予断を許さない、騙される快感に満ちた一冊です。
(2017年06月16日)
球道恋々
木内昇/著
新潮社
税込価格  2,268円
 
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野球に情熱を注いだ明治の漢たちの物語
おすすめ度:
 業界紙「全日本文具新聞」で編輯長をしている宮本銀平に一高野球部のコーチの話が舞い込む。かつて黄金時代の一高の補欠であり、現在は野球から遠ざかっていた銀平は、以前は歯牙にもかけなかった三高相手に苦しむ野球部のコーチとしてふたたび野球の世界に足を踏み入れる。本書は野球に情熱を注いだ明治の漢たちの物語です。
 大人になって過去を振り返り、当時理想としていた人物像を思い浮かべ、現在の自分を鑑みる。現在の自分にがっかりする人も多いのではないでしょうか。残りの人生を諦めたような気持ちで過ごしている人もいるかもしれません(私にも心当たりがあります)。でもたとえ理想に程遠い大人になっていたとしても、「人生まで諦めるのは早くない?」と、挫折や後悔の先にあるものを描き、苦しむ人の背中をそっと押してくるのが、本書です。といっても決して押し付けがましい人生の指南書のようなものではなく、主人公とは正反対の考えを持つ柿田や山藤といった生き方にも頷けるところがあり、人生の多様性を肯定する描き方が印象的でした。良くも悪くも登場人物たちの沸点は低く、時には幼稚にさえ感じる(それを指摘するような登場人物の台詞もある)。しかしそう思われるほどの真剣さというのも、悪くないだろうな、と羨ましくもなりました。
(2017年06月15日)
○○○○○○○○殺人事件
講談社文庫 は110−1
早坂吝/〔著〕
講談社
税込価格  713円
 
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異色の皮を被った正統
おすすめ度:
《犯人もトリックも当てられなかったけどタイトルだけは当てられた――そんな、ささやかな成功体験をしてほしい。そういう思いが本書には込められている。》
 まず読者に先入観与えまくりの「読者への挑戦状」から始まります。本来ミステリに大敵である先入観をこんなにも読者に持たせて大丈夫なのかな、と不安な気持ちになるかもしれませんが、安心してください。物語を読み終えると、これが秀逸な挑戦状であったことに気付くはずです。
 多くの登場人物たちと同じように、著者自身も二つの顔を持っている。一歩間違えれば読者から嘲笑を浴びかねない態度(解説では《世の中を舐め切った作品》と表現されている)で物語を紡ぎながら、ミステリに対する姿勢はあまりにも真摯である。決してタイトルのインパクトに頼っただけの作品ではありません。謎が紐解かれてあらわになる真実は、忘れがたいものです。本書に対して異色の皮を被った正統という印象を抱きました。
(2017年06月15日)
毒殺者
文春文庫 お26−15
折原一/著
文藝春秋
税込価格  756円
 
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事実をモチーフにした、事実より奇な小説
おすすめ度:
 保険金のために愛人の高野由紀を利用して妻の美登里をトリカブトの毒によって殺害した上に、愛人の由紀も手に掛けた《M》。本書は、そんな《M》が引き起こした保険金殺人をめぐる違和感に満ちたミステリです。本来、違和感なんて無いほうが良いものですが、本書ではこの違和感を逆手に取った展開が強い魅力を生み出しています。
 あとがきに詳しいのですが、本書は実在の事件をモチーフにしています。しかし現実の事件に材を取りながら、フィクションでしか描けないような作品になっています。事実をモチーフにした、事実より奇な小説です。「こうなるだろう」という予想は簡単に裏切られ、物語は想像の斜め上を行くような展開を見せます。第三幕「悪の仮面」は、ホラーとしても印象的な内容になっています。最後まで先の読めない物語は、後味の悪さ(褒め言葉ですよ!)とともに幕を閉じます。
(2017年06月09日)
鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様
集英社文庫 し50−2
朱川湊人/著
集英社
税込価格  626円
 
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未練を残してこの世に留まり続ける死者の想いを辿る物語
おすすめ度:
《「本当に面倒で厄介なものですね、夢だの志だのというものは……いっそない方が、清々しいってもんです」》。
 大正三年の二月初め、画家志望の《私》こと槇島功次郎は、雪に覆われた無縁坂で奇妙な足跡に遭遇する。その足跡を追った先で、《私》は普通の人間とは思えないような人間と出会う。それが穂村江雪華との初めての出会いだった。そして画家志望の青年は、不思議な青年と共に、死者をめぐる事件に足を踏み入れていく。
《人間は……たとえどんな不幸にあろうと、命ある限りは生きようとするようにできているのです。本当に死にたくて死ぬ者は、この世にありません。できることなら生きたいと誰もがおもっているのです。》と語るある登場人物の台詞が印象的です。未練を残してこの世に留まり続ける死者の想いを辿る、とても物哀しい雰囲気を持つ連作集です。登場人物たち(死者も含めた)が抱える想いの中には周囲から容易に理解を得られないようなものも多くあります。その想いが迎える結末も、決して明るくはない。しかし同時に、彼らの想いの強さには温かいものも感じられます。残酷だけど、優しい。そんな一冊です。
(2017年06月09日)
僕が殺した人と僕を殺した人
東山彰良/著
文藝春秋
税込価格  1,728円
 
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唯一無二の《友情》を描く、青春ミステリの傑作
おすすめ度:
 連続殺人鬼の逮捕から物語は始まる。デトロイト、インディアナポリス、アーカンソー州リトルロック……アメリカの至るところで少年を殺し、殺害後に粗布の袋に入れていたことから袋男(サックマン)と呼ばれていた連続殺人鬼が逮捕される。取り調べで嬉々として七人の少年を殺した顛末を語ったサックマンを、いまから三十年前、《わたし》は知っていた。そして場面は一九八四年の台湾に移り変わる。兄を殺害され、両親と離れ離れに暮らすことになった《ぼく》は、居候先の兄弟であるアガンとダーダーや布袋劇(ポウテヒ)の人形師である祖父の手伝いをしているジェイと友情を育んでいく。しかしある出来事によって、彼らの関係は変わっていく……。
 帯に《少年時代は儚く、切なく、きらめいている。》と書かれていますが、その言葉通り文章によって浮かび上がる青春の煌きに圧倒される一冊である。変わらないと信じていたものが変わっていくことに気付く。そんな青春期特有のつらい現実をしっかりと描きながらも、彼らの過ごした日々はあまりにも煌めいている。浮かび上がる真相は決して優しくはないが、(少年時代も、大人になった後も)彼らの《友情》は魅力的だ。変わってしまった《友情》はあまりにも苦く、変わらぬ《友情》はあまりにも美しい。感情移入を拒もうとするかのような展開に、何度も感情を揺さぶられました。唯一無二の《友情》を描く、青春ミステリの傑作です。直木賞を受賞した名作『流』と併せて、お薦めしたい一冊です。
(2017年05月28日)
失われた少女
角川ホラー文庫
赤川次郎/〔著〕
角川書店
税込価格  648円
 
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雪に覆われた別荘、記憶喪失の少女、謎の殺戮者……。
おすすめ度:
 自身の妻を殺した犯人だと疑われた過去を持つ小説家の伊波伸二は、今は別荘に移り住み、ひとりで暮らしていた。そんな彼のもとに突然、美しい少女が現れる。自分の名前さえも分からないという少女との出会いが物語の発端になっています。暗い過去を持つ主人公、雪に覆われた別荘、記憶喪失の少女、謎の殺戮者……本書はホラーやサスペンスが好きな人にとってはわくわくするような道具立てで綴られる、疾走感のあるホラーサスペンスです。読者を不安にさせる要素が至るところにあり、互いの不信によって生み出される伊波と警察の微妙な関係が特に印象的でした。
 物語の後半、浮かび上がる真実は残酷なものですが、結末は意外にも切ない。正直に言えば消化不良な部分もあったのですが、最後、《ある人物》の哀しい姿が心に残る、好きな作品です。 (2017年05月23日)
授賞式に間に合えば 長編ユーモア・サスペンス 新装版
光文社文庫 あ1−154
赤川次郎/著
光文社
税込価格  583円
 
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一世一代の日に、災難に巻き込まれてしまった……。
おすすめ度:
 作家生活三十五年、五十八歳の竜ケ崎肇にとって《日本文豪大賞》の授賞式は特別なものだった。それは賞に無縁だった彼の初めての文学賞授賞であった。物語は授賞式当日の彼の夢から始まる。授賞は嘘だった、という《悪夢》としかいえないような夢を授賞式直前に見てしまう竜ヶ崎だったが、現実の彼に待ち受けていたのは夢のほうがずっと良かったと思えるような災難だった。
 一世一代の日に災難に巻き込まれる作家を軸に錯綜とした人間関係が魅力的な一冊です。とてもユーモアに満ちた作品ですが、時折、辛辣さが顔を覗かせます。しかしその辛辣さがあるからこそ、物語の後半で語られる人間の素敵さに嫌な感じを覚えないのでしょう。結末において竜ヶ崎は《権威》とは真逆の、ある大切なものを得ることができます。綺麗事に感じる部分があったのは事実ですが、本書の爽やかな読後感はとても好きです。 (2017年05月19日)
暗手
馳星周/著
KADOKAWA
税込価格  1,728円
 
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血と犯罪に彩られた世界で、壮絶で純粋な《想い》が暴走する
おすすめ度:
《死ねばいいじゃないか――時々、そう思う。おれには夢もない。希望もない。生きる意味も失った。//それなのになぜ生きているのか。他人の血を啜りながら生き長らえているのはなぜか。//いつも答えを探している。//おまえがおまえだからだ――いつも頭に浮かぶのはそんな答えだった。》
 性格的にシリーズ作品や前作がある作品は順番に辿っていきたい人間なのですが、実は『夜光虫』の続編ということを知らずに読み始めてしまい、後でそのことを知りました。ただ前作を読んでいない状態で読んでもとても愉しめました(読んでいないことをわざわざ語るのは申し訳なく、言い訳っぽく聞こえるかもしれませんが……)。力強い物語に心を掴まれました。
 暴力は嫌いだし、犯罪なんて憎らしいだけだ。できるなら近くに置いておきたくはない。見なくて済むなら見たくない。そして、まるで臭いものに蓋をするかのように見ないふりをする。暴力や狂気が存在する事実から逃げる。初めて著者の作品(おそらく多くの人と同じように、あの作品です)に触れた時、そんな私の弱い心を糾弾するかのように物語が胸に迫ってきたのを覚えている。そして同時に引き込まれていた。決して美化されない暴力と狂気に彩られた世界の隙間から聞こえる、事実から目を背けようとしない声に、私のような弱い人間は強く惹かれるのだ。
 イタリアの黒社会とサッカーの八百長をめぐる本書においても研ぎ澄まされた鋭い言葉が自身の心の弱い部分を抉り続ける。繰り返される自問自答が自身の負の感情を揺さぶり続ける。始まりはどこか静けさが漂うが、徐々に感情が激していく。やがて血と犯罪に彩られた世界で、壮絶で純粋な《想い》が暴走する。 (2017年05月16日)
緋い猫
祥伝社文庫 う7−1
浦賀和宏/著
祥伝社
税込価格  583円
 
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閉鎖的な村社会を舞台に、強烈な読後感を残す戦慄の一冊
おすすめ度:
 昭和二十四年、建築会社の社長の娘である高校生の浜野洋子は、現在は堅気ではあるがヤクザ者の粗暴な空気を振りまく父親への反発から小林多喜二『蟹工船』や葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』といったプロレタリア文学へ傾倒していくようになる。プロレタリア文学を好む、共産主義の大学生や労働者が出入りする喫茶店に通うようになった洋子は、仲間内の中でリーダー的な存在である佐久間という工員に惹かれ、やがて恋人関係となる。しかし意外な形で二人の破局は訪れる。仲間内の二人が殺されるという事件が起こり、佐久間が姿を消す。青森の実家に来て欲しい、という佐久間からの伝言を受けた洋子は青森の農村へと赴く。そこで洋子を待ち受けていたのは、村人からの敵意と執拗な監視だった。
 閉鎖的な村社会を舞台に、強烈な読後感を残す戦慄の一冊です。正直言って、後味は良くない。爽快さは欠片もない。しかしこの不快な読後感は魅力でもある。すべての真実が綺麗に明かされるわけではないところも独特な雰囲気を生み出していて、魅力的です。
 最後の光景は(普通に考えれば)とても歪んでいるはずなのだが、どこか美しい。衝撃の問題作という言葉が似合う作品です。
(2017年05月14日)
放課後はミステリーとともに
実業之日本社文庫 ひ4−1
東川篤哉/著
実業之日本社
税込価格  669円
 
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ミステリとギャグと野球への愛が溢れ出る一冊
おすすめ度:
 私立鯉ケ窪学園高等部に通う《僕》こと霧ケ峰涼は、その名前から小学校時代のあだ名がエアコンだった。そんな《僕》は中学の頃、ある先輩から福音を与えられる。《「広島カープのエースと名探偵の名前は漢字三文字がよろしい」》と。それ以来、カープファンのミステリマニアとなった《僕》は、探偵活動を行うことを趣旨とする鯉ケ窪学園の非公認サークル「探偵部」(決して「探偵小説研究会」ではない)で副部長をしている。本書はそんな霧ケ峰涼が出会う事件の数々を、とてもユーモラスに描いた連作集になっています。
 小説の読み方は他人に強制されるものではありません。最後のページから最初のページへと遡って読もうが、本を逆さ向きにして読もうが、偶数ページだけ読もうが、個人の自由です(そんな奇特な人がいるかどうかは知りませんが……)。それでも勧める側としては、損はさせたくないな、という想いがあります。作品の仕掛けを考えると、是非とも第一話「霧ケ峰涼の屈辱」から読んで欲しいと思うのです(本書の中でも、その旨の注意書きが記されています)。のんびりとした雰囲気とは裏腹に、ミステリとしての意外性はあまりにも鋭いものとなっています。
 ミステリとギャグと野球への愛が作中から溢れ出る、とても愛おしい気持ちになる作品です。 (2017年05月11日)
幻視時代
中公文庫 に18−6
西澤保彦/著
中央公論新社
税込価格  756円
 
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過去の後悔をめぐる青春本格ミステリ
おすすめ度:
『水の上を歩く』で文芸誌の小説新人賞を史上最年少で受賞した女子高生作家、風祭飛鳥。一九八八年、一躍時の人となった女子高生が遺体で発見される。その不審な死の謎は二〇一〇年になっても解明されていない。そんな彼女の死後に撮られた一枚の写真に、彼女の姿が写っていた。まるで心霊写真のように……。
 あの時、こうしていれば……。本書はそんな過去の後悔をめぐるミステリである。決して記憶を美化しない物語は、やがてひとつの《真相》(厳密に言えば、真相に一番近いと思われる解答)に向かって進んでいく。その《真相》はあまりにも苦いが、登場人物たちの深い悩みが強く伝わってくるものになっている。彼らの複雑な感情には共感を覚える人も多いはずだ(行為自体は許せないものであったとしても)。過去の行為に罪悪感を覚えたことのある人(ほとんどの人がそうだと思いますが……)は、きっと心を強く揺さぶられるだろう。
 忘れたくても忘れられない謎が青春の影を際立たせる一冊だ。青春小説としても本格ミステリとしても心に残る作品です。
(2017年05月07日)
ある日、爆弾がおちてきて
メディアワークス文庫 ふ1−2
古橋秀之/〔著〕
KADOKAWA
税込価格  680円
 
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ありふれていない世界を生きる少年少女たちのありふれた想い
おすすめ度:
 空から落ちてきた自分の存在を《爆弾》だと語るセーラー服の少女は、《僕》が高校時代に気になっていたクラスメートの広崎ひかりに似ていた。彼女の胸には時計のようなものが埋め込まれてあり、それを彼女は自身の起爆装置だと語る。ドキドキ感が高まると時間が進み、十二時を指すと爆発するらしいのだが……「ある日、爆弾がおちてきて」
 風邪で学校を休んだことをきっかけに図書委員にされてしまった《僕》は、明治時代に建てられた学校自慢のはなれの図書館で気の強そうな幼稚園児くらいの女の子と出会う。トトカミと名乗る彼女は、図書館の神様であった。神様である彼女を祀る禰宜様の役割に任命された《僕》はトトカミサマの周囲のお世話をすることになり……「トトカミじゃ」
 本書は日常からすこし逸れた、ありふれていない世界を生きる少年少女たちのありふれた想いを綴ったSF&ファンタジーの傑作集になっています。軽快なテンポで進んでいくライトな装いの短篇集ですが、深刻なテーマを内包する作品が多い(その深刻なテーマによって軽快さが失われるようなことはないので、安心してください)のが印象的です。既にファンの多い作品だとは思います(本書はかつて電撃文庫で刊行されていたものの、新装版になります)が、もっと多くの人に読まれて欲しい作品です。少年少女として今を生きるきみに、かつて少年少女だったあなたへ、本書をおすすめします。
(2017年05月02日)
追憶のかけら
文春文庫 ぬ1−2
貫井徳郎/著
文藝春秋
税込価格  886円
 
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悪意の手記をめぐる傑作ミステリ
おすすめ度:
 大学講師の松嶋は、夫婦喧嘩がきっかけで実家に帰っていた妻を事故によって喪ってしまう。妻の父親である麻生教授は、松嶋が教鞭を振るっている明城学園大学の有力者である。そんな義父の家(妻の実家)に預けている娘の里菜の引き取り先を巡って関係が悪化している松嶋は、娘か職か、を選ばなければならない状態になりつつあった。状況的にも国文学者としての業績を必要としていた松嶋は奇妙な縁から、昭和二十年代に活動していた作家である佐脇依彦の未発表原稿を手に入れる。自殺した作家のその理由が克明に綴られた手記だというが……。そこから中篇小説くらいの分量を持つ佐脇依彦の手記が作中作として挿入される。
 悪意に満ちた手記をめぐる物語は二転三転し、やがて意外な真相を浮かび上がらせます。歪な動機は、すんなり腑に落ちるものではないですが、人間心理の不可解さを強く感じるようなものになっていて印象的です。しかし騙され続けた読者の前に現れるものは底知れぬ悪意だけではありません。丁寧な愛の軌跡や(他者への悪意に満ちた物語なのに……)それでも他者を信じたいという想いまでもが同時に浮かび上がるのです。最後まで読者を安心させない優れたミステリであることは間違いないのですが、同時に本書は死別した妻への想いが胸を打つ優れた恋愛小説とも言えるかもしれません。怖くて、切なくて、驚きに満ちた作品です。
(2017年05月02日)
蠅の王 新訳版
ハヤカワepi文庫 90
ウィリアム・ゴールディング/著 黒原敏行/訳
早川書房
税込価格  1,080円
 
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私に誇れるものがあるとしたら……。
おすすめ度:
 飛行機の不時着により、孤島で自分たちだけの生活を始めることになった少年たち。救援を待つ間、物語の世界のような状況を愉しむ少年たちだったが、不安やトラブルから徐々に彼らは対立していく。ラルフ、ジャック、ピギー、サイモン……似通ったところのない登場人物たちの心理や人間関係の変化が読者の心を鋭く抉る一冊です。
 ノーベル賞作家のウィリアム・ゴールディングが、1954年に発表した長編『蠅の王』は名作の誉れ高い優れた文学作品であると同時に、抜群の面白さを持つエンターテイメントの傑作でもあります。冒険小説やサスペンス、ホラーといったジャンルが好きな人(訳者あとがきで言及されている楳図かずお『漂流教室』、あるいは高見広春『バトル・ロワイアル』などが好きな人には特におすすめ!)にもおすすめしたい作品です。発表されてから、かなり長い年月が経っていますが、色褪せているようには思えませんでした。もし60年近く前の古典的な名作という理由から敬遠している人がいるとしたら、それはすこしもったいないような気がします。
 世の中には膨大な数の小説が存在しています。出会う小説の数より出会わない小説の数のほうが多いはずです。この小説に出会った時、私は学生でした。学生時代の私には何も誇れるものがありませんでした(今も大してないけれど……)。そんな私は、偶然、この小説(当時は新潮文庫版でした)と出会う幸運に恵まれ、何故かすこしだけ誇らしくなったのを覚えています。《自分の》物語を見つけたような気がして、嬉しくなったのだ。この小説が当時の私のような人に届くように、私はここに拙い文章を添える。
(2017年04月25日)
純喫茶「一服堂」の四季
講談社文庫 ひ58−1
東川篤哉/〔著〕
講談社
税込価格  713円
 
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笑撃にして衝撃のミステリ
おすすめ度:
 古都鎌倉にひっそりと佇む一軒の純喫茶がある。その古民家にしか見えない純喫茶には、まるで表札のような小さな看板が掲げられており、そこには「一服堂」と書かれている。その店を切り盛りするエプロン姿の女性は人見知りでアガリ性で接客が苦手。接客には不向きな性格の彼女だが、ひとつ変わった特徴がある。それは殺人事件の推理のこととなると性格が豹変することだ。自虐的な罵倒を決め台詞に謎を解き明かす彼女の名前は、ヨリ子さん。名探偵である。
 本書は喫茶店を舞台にした連作ミステリになっています。コミカルな登場人物たちのやり取りが笑いを誘う著者らしい作品でありながら、殺害方法はあまりにも残忍です。しかしその凄惨さには強い必然性があり、そこが魅力になっています。
 各エピソードの意外な真相もさることながら、本書には一冊を通して、ある壮大な仕掛けが施されています。根底を揺るがすような衝撃が結末に待ち受けているのです。ほのかな郷愁(古都鎌倉という舞台がよく似合う!)が強く心を掴む、笑撃にして衝撃のミステリです。
(2017年04月23日)
探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて
幻冬舎文庫 ひ−21−1
東川篤哉/〔著〕
幻冬舎
税込価格  648円
 
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生意気だけど憎めない少女と頼りなさが漂う青年の事件簿
おすすめ度:
 昨年まで都心のスーパーに勤めていた橘良太は、缶詰2千個の誤発注が原因で店をクビになってしまう。地元に戻って『なんでも屋』を始めた彼は、全国的に有名な探偵である綾羅木孝三郎から娘のお守りを依頼される。それがロリータ・ファッションを身に纏う小学四年生、綾羅木有紗との出会いだった。本書は、全国的に有名な探偵を父に、世界的に有名な探偵を母に持つ探偵界のサラブレッドの少女探偵と何でも屋を営む31歳の独身男のコンビの活躍を描くミステリ集です。
 ユーモアと共に綴られる、生意気だけど憎めない少女と頼りなさが漂う青年のコンビの関係性は擬似父娘(あるいは擬似兄妹)の雰囲気があって微笑ましい。有紗が切れ者なのに、泣き虫というのが印象的です(ここまで泣く探偵というのもめずらしいような気がします)。
 著者の作品を読んだことのある人にとっては、言わずもがな、かもしれませんが、登場人物たちのやり取りは奔放(褒め言葉ですよ!)ですが、謎を解き明かす手際はとても丁寧で繊細です。ミステリがキャラクターに置いてけぼりにされる作品ではないことは、声を大にして言いたい。
(2017年04月18日)
月の満ち欠け
佐藤正午/著
岩波書店
税込価格  1,728円
 
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瑠璃も玻璃も照らせば光る
おすすめ度:
《瑠璃も玻璃も照らせば光る。//ことわざの意味――つまらぬものの中に混じっていても、すぐれたものは光を当てれば輝いてすぐにわかる。》本書はいくつもの人生の中に現れる、瑠璃、という美しい女性とそれに関わる人々の物語である。
 物語はホテルのカフェから始まる。小山内の対面の席には一組の母娘が座っている。るり、という名前の娘は七歳の小学生には思えない大人の女のような姿勢で、生意気な口をきく。会話のやり取りから分かるのは、娘は小山内にとって見知らぬ少女であり、娘のほうは小山内のことを知っているようである、ということだ。そして小山内の娘の物である風呂敷に対して、平然と所有権を主張している。激することのない静かなやり取りだが、どこか噛み合わない、不穏な会話が続いた後、小山内のそれまでの人生が語られる。同郷の女性である妻との馴れ初め、七歳の時の発熱から始まる娘の異変、そして交通事故による妻と娘の死……。
 瑠璃(るり)という一個の女性を巡る、運命の愛を描いた物語です……と書いて、すこし恥ずかしくなったのですが、本書はこういった気取った言葉が嘘くさく感じないほど、真摯な恋愛ファンタジーの傑作です。シルエットにも似た謎多き《瑠璃》が、徐々に色を帯びていく様はミステリとしても魅力的な内容になっています。
 物語が迎える結末に心の琴線が触れたのを、間違いなく私は感じた。
(2017年04月16日)
もう誘拐なんてしない
文春文庫 ひ23−1
東川篤哉/著
文藝春秋
税込価格  637円
 
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組長の娘と狂言誘拐を仕組んだ青年の奮闘記
おすすめ度:
 大学生の翔太郎はたこ焼き屋(軽トラックの屋台)のアルバイト中、花園組のヤクザに追われるセーラー服の美少女を見掛ける。彼女を追っ手から救い出した翔太郎だったが、なんと彼女は花園組の組長の娘だった。勘違いから助けた花園絵里香と一緒に行動することになった翔太郎は、彼女から《下関北中央病院》に連れて行って欲しいと告げられる。そこには腎臓の病気を抱える妹が入院していた。父親と妹の複雑な関係から、父親に手術費用を求めることはできない。妹の容態の悪化に落ち込む絵里香に、翔太郎は狂言誘拐を提案する。
 ……と、内容自体は結構深刻なのに、やり取りはとてもコミカルな作品です。このコミカルなやり取り(もちろんやり取り自体、面白い)が、謎を解き明かす上で重要な意味を持ってきたりするので、侮れない。すこし滑稽な登場人物たちに感情移入していればしているほど、浮かび上がる真実の味は苦くなる。しかし最後までユーモアを忘れない物語はとても微笑ましい。愉快な気持ちになる傑作です。
(2017年04月11日)

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