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明文堂書店石川松任店のレビュー

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掲載レビュー全122件
 
いくさの底
古処誠二/著
KADOKAWA
税込価格  1,728円
 
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ミステリという表現形式でしか描き得ない戦争
おすすめ度:
 ビルマ戡定がなったビルマのヤムオイ村を訪れた賀川警備隊。警備隊に同行する通訳の依井は、駐屯中の村で、賀川少尉が一刀のもとに斬り殺されるという殺人事件に直面することになる。ということで本書は戦時中のビルマを舞台にした戦争ミステリなのですが、戦争を舞台にしたミステリという表現では物足りない、ミステリという表現形式でしか描き得ない戦争といった表現が似合う一冊です。
《誰が、殺したのか?》よりも、《何故、殺したのか?》という部分に重点を置いた作品であり、殺人者の告白によって明かされる動機は読者に強い衝撃を与えます(ちなみに《何故、やったのか?》という動機の問題を重視した作品のことを、《ホワイダニット》と言います。東野圭吾『悪意』などが有名ですね)。内容の重厚さと、心にずしりと来るような読後感が魅力的な一冊です。登場人物の行動と感情を強く含まない淡々とした文章が読者の価値観を揺さぶる作品です。
(2017年08月18日)
僕が殺された未来
宝島社文庫 Cは−8−1 このミス大賞
春畑行成/著
宝島社
税込価格  691円
 
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殺される未来を知った青年の片思いの行方は?
おすすめ度:
 大学のミスキャンパスで優勝した高嶺の花である小田美沙希に片思いしている大学生の《僕》は、友人の須藤健太郎とともに彼女の仲の良い後輩から彼女の行方が分からなくなったことを聞かされる。美沙希の身を案じる《僕》のもとに六十年後の未来から訪れたという十五歳の少女大塚ハナが現れる。謎めいた少女ハナは美沙希の誘拐事件に巻き込まれ殺された《僕》を救うために未来からきたことを告げる。同じく事件によって殺される運命にある美沙希を助けるために、少女からは行動を止められたものの、《僕》は未来からの情報を頼りに事件を追い始める。
 本書は第13回『このミステリーがすごい!』大賞の応募作品「未来人がきた!」を改題・加筆修正して出版された作品です(『このミステリーがすごい!』大賞はHP上で選考委員による講評・選評が一般公開されています。これ結構、他人の小説に対する考え方とかが分かって面白いです)。失礼を承知で嫌な言い方をすれば《落選作》なのですが、決して劣った作品とは思わず、私はこの作品が好きだと自信を持って言えます(こういう作品に弱い人間だということは否定しませんが……)。好感を持って読み進められる、疾走感のあるエンターテイメントです。善良さがかいま見えるユーモラスな文章も好きです。SF的な問題点を掘り下げていく話ではないので、その部分で引っ掛かる人はいるかもしれませんが、すこし不思議な恋愛ミステリとしてはとても愉しいものになっています。
(2017年08月10日)
どんどん橋、落ちた
講談社文庫 あ52−28
綾辻行人/〔著〕
講談社
税込価格  842円
 
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難題に屈する快感に浸ってください。
おすすめ度:
 本書は、作中でU君が楳図かずおを人生の師と仰いでいるのと同様に、多くのミステリ、ホラー好きが人生の師と仰いでいるだろう作家、綾辻行人の名作群の中でもトップクラスの衝撃度を誇る短篇集『どんどん橋、落ちた』の新装改訂版です。読んだことない方には是非読んで欲しい一冊ですし、旧版を既に読んでいる方はこれを機に、是非再読してみませんか、と伝えたくなる一冊です。一歩間違えれば読者の神経を逆撫でしかねない《謎解き》に屈することに快感を抱いてしまう。そんな悔しささえも魅力に変えてしまう傑作です。

(ここからは個人的な思い出話を含む、長い蛇足のようなもの。苦手な方は注意!)

 私は人生の内で本書を(旧版も含めて)3回通しで読んでいるのですが、1回目や2回目の時と今回では面白さの感じ方が違っていることに気付きました(と言っても以前読んだ時の感想がはっきりと頭に残っているわけではないのですが……)。しかし内容の大部分をほとんど忘れてしまっている自分の記憶力の無さには幻滅(毎回、新鮮という利点もある、と言い訳しておきます)するのですが……。問いに対する答えへの驚きが楽しい(本書の中にある皮肉は常に感じ取れていたものの)のは今も昔も変わりませんが、小説の《僕》の姿に自身を省みたのは今回が初めてでした。
 解説では《作者は「僕」に託して、忘れそうになっていた無邪気さを取り戻したいという思いや、一方で無邪気さに浸り切ることへの違和感や、当時の日本のミステリシーンへの屈折した思いを描こうとしており、決して「原点に立ち返る」と単純化することはできない。》と書かれていますが、これはミステリ以外に当て嵌めることができるような気がします。こういった矛盾した想いというのは、(仕事を始めとする)《何か》に慣れてきた人間なら誰もが抱える想いなのかもしれません。今の自分と昔の自分の考え方を比べてしまい、小さな痛みを感じました。……とはいえ本書は昏い感情を刺激する苦しい小説ではなく、楽しい《犯人当て》ミステリです。ちょっと(いやかなり)挑発的で、挑戦的ですが。初めて読む方は、まずこの《犯人当て》の驚きに浸ってください。
(2017年08月04日)
AIに負けた夏
メディアワークス文庫 と1−10
土橋真二郎/〔著〕
KADOKAWA
税込価格  659円
 
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相手の見えない運命の赤い糸を手繰った先にあったのは?
おすすめ度:
《「……わかった。だったら約束する。AIは俺の運命の赤い糸が見えると言った。そしてそれを繋げると。でも、そのAIが作った運命に負けないと誓うよ」》。
 アンドロイドの知能学習をする会社『フレドリカ』が行う恋愛シミュレーション。恋人を女性に奪われるという失恋をした秋山明は、《成功率百パーセントの恋愛相談所》と好評のその恋愛シミュレーションに参加する。その後、実在する女性の性格がインプットされたアンドロイドとのシミュレーションで、バグが起きた、とアンドロイドのライズが彼の自宅を訪れる。秋山と唯一相性の良かった女性のデータが見つからない、とライズから聞かされた秋山は、失われた彼女を探すことになるのだが……。
 AIによって作られた運命の赤い糸に抗う青年の物語は、二転三転し、意外な結末を迎えます。本書は静かな余韻が残る恋愛SFミステリです。結末を知った後、物語前半のある登場人物の台詞を読み返すと、まったく別の意味で読み取れるのが魅力的です。それはすこしロマンチック過ぎるのかもしれませんが、嫌な感じは受けませんでした。出会えたことが嬉しくなるような、切なくて優しい恋物語です。
(2017年08月01日)
紅城奇譚
鳥飼否宇/著
講談社
税込価格  1,836円
 
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狂気と意外性に満ちた本格時代ミステリ!
おすすめ度:
 戦国時代、龍造寺、大友、島津の三氏鼎立の状態にあった九州において、その影響がいまだに及ばぬ地域があった。その地を支配する鷹生龍政はその傍若無人を絵に描いたような所業で近隣の戦国大名から恐れられていた。本書は彼の居城《紅城》で起こる異常な謎を、腹心である弓削月之丞が解き明かすという連作ミステリです。
 異常な謎の見方をすこし変えると、意外な真実が浮かび上がる。本書は解き明かされる真実の意外性が魅力的な一冊なのですが、その謎と真実には常に狂気が付きまといます。常軌を逸した城主(上司)の存在が、作中にヒリヒリとした緊張感をもたらします。しかし話が進む内に、人間関係は変化していきます。この歪んだ人間関係が作り出す結末は思いもよらないものです。『死と砂時計』や『官能的 四つの狂気』など一筋縄ではいかない作家が描く、衝撃の本格時代ミステリです。
(2017年07月30日)
探偵が早すぎる 上
講談社タイガ イB−01
井上真偽/著
講談社
税込価格  745円
 
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犯人に同情しちゃう系ミステリ
おすすめ度:
 都内の私立高校に通う十七歳の女子高生である一華は、父親の死によって得た兆クラスの莫大の遺産のために身内から命を狙われるようになる。一華に仕える橋田が彼女の命を守るために、ある探偵に依頼をする。その探偵は、起こった事件を解決する探偵ではなく、事件自体を未然に防ぐ探偵だという……。本書は、起きた事件を解決するのが探偵という読者の常識を覆すミステリです。犯罪計画はかなりえげつないものが多いのに、ユーモラスな雰囲気のためか、計画者たちに同情を覚えてしまうのが印象的です。計画者たちのほとんどは好きになれるような性格ではないが、変な感情移入を起こしてしまい、どこかで彼らの成功を願っているのに気付いた。その歪んだ応援が、徐々に加熱していく複雑な罠と探偵のせめぎ合いを魅力的なものにしているように感じました。
 設定に驚き、トリックの多さに驚き、結末に驚く。三重の驚きが仕掛けられた強烈なミステリです。常識破りのミステリが、読者を挑発します。
(2017年07月30日)
わざと忌み家を建てて棲む
三津田信三/著
中央公論新社
税込価格  1,728円
 
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曰くつき物件の集合体を舞台にした、恐怖の一冊!
おすすめ度:
《曰くのある家や部屋を一軒に纏めて建て直し、そこで人間が暮らすとどうなるか。》まったく別々の曰くつき家屋を一つに繋げて建て直したマッドサイエンティストの実験室のような建物《烏合邸》。作家の三津田信三(《僕》)は、同好の士である編集者の三間坂秋蔵から渡された《烏合邸》に関わった人々の記録を読んで(あるいは聞いて)いくのだが、記録に関わる内に読み手である《僕》の周囲でもおかしなことが起こり始める。
 前作『どこの家にも怖いものはいる』同様、虚構と現実、論理的な部分と非論理的な部分の境界が曖昧になっているのが、とても印象的です。前作以上に作中作の語り手は信頼できないものになっていて、それを《僕》こと三津田と三間坂の二人が記録の謎と怪異を紐解いていく様子はすこぶる刺激的です。しかし謎めいた部分がすべて解決される(解釈がつく)というわけではありませんが、そのすっきりとしない感覚がホラーとして強い魅力になっています。
 前作を読んでいないと愉しめない作品ではないのでそこは安心してください(ただ前作も併せておすすめです)。四つの記録の恐怖に耐えた読者の心を打ち砕くような《意外》な恐怖が、物語の終盤に待ち受けています。その恐怖に酔いしれてください。いや、酔いしれるだけで済めばいいのだけれど……。
(2017年07月27日)
星降り山荘の殺人 新装版
講談社文庫 く43−4
倉知淳/〔著〕
講談社
税込価格  972円
 
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《誰が読んでも愉しい》に限りなく近い稀有なミステリ
おすすめ度:
 中規模の広告代理店で働く杉下和夫は、後輩を庇って上司に手を出してしまったため、馘首(クビ)になることも覚悟して落ち込むが、上司の評判の悪さもあり馘首は免れる。しかしカルチャークリエイティブ部に部署が変わることになってしまう。いわゆる「芸能部」であるその部署で和夫は、《スターウォッチャー》という肩書きを持つ星園詩郎の付き人として働く事になる。和夫は、特異なキャラクターと際立った美貌で女性からの人気が高い星園とともに、仕事のために埼玉県渡河里岳にある山荘を訪れる。本書は閉ざされた雪の山荘で起こる殺人事件を描く、王道のような物語でありながら強い個性を併せ持つ、倉知淳の代表作の新装版になります。
 趣味嗜好なんて十人十色ですから、誰もが楽しめる小説なんていう紹介をすることはできないですが、怪しげでユニークな登場人物、伏線が物語の自然に溶け込む読み心地の良い文章、意外な真実……と、本書はこれからミステリを読みたいと思っている人、ミステリが好きな人の8〜9割が満足できる傑作だ、と思います。愛らしさ(あるいは憎らしさ、あるいはその両面)を持つユニークな登場人物たちのやり取りもユーモアとシリアスのバランスが良く、とても好感が持てます。《誰が読んでも愉しい》に限りなく近い稀有なミステリだと思います。 (2017年07月21日)
避雷針の夏
光文社文庫 く20−1
櫛木理宇/著
光文社
税込価格  713円
 
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嫌を煮詰めた物語が、自身の嫌な部分を浮かび上がらせる。
おすすめ度:
 北陸の豪雪県にある田舎町、睦間町。殺人を犯した男が英雄扱いを受け、強烈な男尊女卑が蔓延り、よそものは徹底的に嫌われる。そんな睦間町に住む人々の鬱屈とした想いが綴られていきます。中心人物である梅宮正樹を始め、描かれる人々のほとんどに好意を持つことは難しいと言えます。しかし彼らの歪んだ感情を他人事にできないのは、(解説でも言及されていますが……)彼らの負の側面に感情移入してしまうからでしょう。これは自身の中にある嫌な部分を浮かび上がらせる、とても怖い小説なのです。
 嫌を煮詰めたような物語であり、気が重くなるような不愉快さはずっと続きます。しかし物語の終盤に(詳しくは書けないのですが……)ある家族の意外な真実が明かされます。その行為は客観的に見れば許されるものではないのですが、この物語の良心に触れたような気がしました。
 人間の心の弱い部分に触れてくる本書は、心地のよい物語では得られない満足を与えてくれます。イヤミス、ホラーサスペンスといったジャンルが好きな人におすすめしたい作品です。負の側面への感情移入……、その恐怖に震えてください。 (2017年07月19日)
ドローン探偵と世界の終わりの館
早坂吝/著
文藝春秋
税込価格  1,296円
 
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予想外の真実に、思わず呆然!
おすすめ度:
 原因不明の発育不全によって十九歳だが、身長が百三十センチで体重が三十キロしかない飛鷹六騎はドローン探偵(本人は《黒羽を継ぐ者》と呼ばれたがっている)として活躍していた。大学生ではないが北神大学の探検部に所属していた六騎は、(足を怪我していた六騎自身は途中で車内に残り)ドローンを使って部員達と共に北欧神話に強く影響された資産家が田舎に建てた豪邸《ヴァルハラ》へと部活動のために向かう。そして複雑な人間関係によって不穏な空気が流れる中、事件が起きる……。
《本書には、ドローンという最先端の科学技術を使ったトリックが仕掛けられている。今回諸君らに取り組んでいただくのは、そのトリックが何かを当てるということである。》本書は現代的な道具立てを使うことでしか成立しない、思わず呆然としてしまうような真実が魅力的な作品です。しかしその部分のインパクトのみに頼った作品、というわけでは決してありません。複雑な人間関係、探偵の事件を通しての成長など、独自のキャラクターが思い悩む姿には、妙に心打たれました。特に探偵とドローンの関係が印象的でした。一見ふざけているように見える部分にも、著者は大真面目に向き合っているのかもしれない。そう思うと、とても好感を覚えました。 (2017年07月16日)
さよなら神様
文春文庫 ま32−2
麻耶雄嵩/著
文藝春秋
税込価格  745円
 
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犯人は一行目で明かされる!?
おすすめ度:
 当然のことだが、倒叙ミステリのような例外的な形式を別にすれば、基本的に謎が解かれる前に犯人の名前が明かされることはない。もしこれからミステリを読もうとしている人に犯人の名前を教えれば、ネタバレは厳禁だ、と罵られてしまうことだろう(その友達と縁を切りたいならば逆に言うのも……)。
 本書は、一行目に自称《神様》の鈴木から犯人の名前が明かされるという衝撃の冒頭で始まる。明かされる犯人の名前は常に残酷であり、そして既に犯人の明かされている物語が辿り着く結末はさらに容赦がない。一話ずつ進んでいくごとに、人間関係は歪んでいき、物語は壊れていく。小学生同士とは思えないような大人びた(「最近の子供ってませてるのねぇ」なんていうレベルではない)会話のミスマッチさや優しさや希望を持たない物語は《誰にでも薦められる》というタイプの作品ではないかもしれませんが、《普通》に対して飽きのようなものを感じている方、《過剰》に飢えている方には、是非とも読んでもらいたい作品です。物語が壊れていく様は、あまりにも歪で、しかし愛おしくも感じます。
 前作の『神様ゲーム』とは直接的な繋がりはない(と思う)のですが、本書が面白かった方は絶対に気に入ると思います。本書が気に入った方は、是非、お薦めです。 (2017年07月14日)
その犬の歩むところ
文春文庫 テ12−5
ボストン・テラン/著 田口俊樹/訳
文藝春秋
税込価格  886円
 
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犬と人間の触れ合いを描く、感動の一冊!
おすすめ度:
《ギヴという名の犬の旅を追うことがこの物語の核となる。ギヴは9・11とハリケーン・カトリーナとイラクを体験したアメリカを旅した。音楽と映画のアメリカを旅した。犯罪と美、愛と悲哀、神と善意、さらに永遠なる人間の贖罪と癒しのアメリカを旅した。これはギヴがその旅で出会った人々の物語だ。ギヴが触れた人生、それらの人生が互いに与え合い、さらにギヴにも与えたものについて書かれた物語だ。》
 本書は数奇な人生を辿った《ギヴ》という名の犬を巡る物語だ。《ギヴ》と《ギヴ》に関わった人々との触れ合いは、(時に残酷だが)とても愛おしい。悲しくも優しい物語は、やがて強い希望を指し示します。
 本書は読者の感動を誘うエピソードが所々に鏤められています。と言うと身構えてしまう読者もいるかもしれません。安易な良い話なんか読みたくないぞ、と(どちらかと言えば私にもそういうところがあります……涙脆いくせに)。しかし決して安易さを感じさせない気高く、美しい文章には天邪鬼気質な人の心さえも揺さぶる力強い魅力があります。人間と犬との関わり合いを描いた物語はやがて深く壮大なテーマを浮かび上がらせます。感情を共有することは何も恥ずかしいことではありません。泣いたっていいじゃない。涙腺の緩い人は、思う存分、泣いてください。犬好きの人はもちろん、そうでない人(私もそうでした)にも読んでもらいたい小説です。きっと《ギヴ》の虜になるはずです。
(2017年07月11日)
どこの家にも怖いものはいる
中公文庫 み50−1
三津田信三/著
中央公論新社
税込価格  713円
 
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恐怖は意外と身近に……。
おすすめ度:
 中学生の頃から三津田信三の作品の愛読者であったことが切っ掛けで仲良くなった編集者の三間坂秋蔵から、三津田信三に届けられた《家》に関する二つの怖い話。時代や人物の異なるその話には、奇妙な類似性があった。さらに似た話は増えていき……。三津田と三間坂の二人は、話の共通点を探っていくのだが……。
《対象が不条理な存在だからといって、こちらまで非論理的に対処していたら、何も生まれないし少しも進まない》《怪異譚に何らかの解釈を下すなど、本来は野暮な話だ。そういう行為には風情がない。だが、この場合は別だ。むしろ見えないミッシングリンクを捜すことで、隠れている真の怪異が顔を現すのかもしれない》という台詞が物語の中盤に出てくるのですが、本書は怪異に対してミステリ的なアプローチをしながらも、そのアプローチは綺麗な解決に繋がらず(というよりも、謎の解明を求める小説ではない)、意外な共通点を突き止めても恐怖は晴れないままです。
 私の家やあなたの家にも、もしかしたら怖いものがいるかもしれません……。恐怖は意外と身近に……。現に、真夜中に本書を読んでいた私は、聞き慣れぬ音を耳にしました。あれが怪異なのか幻聴なのか、それとも全然関係ない音なのか、は分かりません。だけど、ちょっと音が……。いや、止めておきましょう……。これ以上言えば、私は……。
(2017年07月05日)
一九三四年冬−乱歩
創元推理文庫 Mく5−1
久世光彦/著
東京創元社
税込価格  864円
 
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虚構が現実と絡み合う異様な展開が魅力的な一冊
おすすめ度:
 最初に告白しておきたいのですが、私は江戸川乱歩にそこまで詳しくはありません。代表的な作品をいくつか読んだことはある、という程度のものです。しかし本書は知識が無いと愉しめない作品ではないように感じました(知っていれば、なお愉しい作品であることは間違いなさそうですが……)。
《あれは、仲秋の名月が震災前の十二階の真上にかかっていた時節だったと思います。梔子姫が、海を見たい、と口に咥えた筆で書いたのです。》昭和九年冬、四十歳になったばかりの江戸川乱歩は、「新青年」で連載していた『悪霊』の執筆に行き詰まり、周囲から姿を消す。翁華栄という名の美青年のボーイが働く長期滞在用ホテル〈張ホテル〉に隠れた乱歩は、そのホテルで『梔子姫』という小説を書き始める。本書は著者が乱歩に成りきって一から創作した作中作「梔子姫」という虚構が現実と絡み合い、何が現実なのかが分からなくなってくる異様な展開が魅力的な一冊です。そして虚構と現実の二つが絡み合う展開も魅力的ですが、作中作の「梔子姫」自体が幻想的な恋愛小説として強く印象に残るものです。
 格調高い美文の所々にユーモアがあり、著者の物語の中で生きる乱歩はすこし情けなくて、とても愛らしい。凄い人なのに、親しい知人のような気がしてくるから不思議です。江戸川乱歩だけではなく、多くの作家と小説に言及する本書は、他の作品への興味を喚起する上でも優れています。謎が論理的に解明されるタイプの、いわゆるミステリらしいミステリとは言えないかもしれませんが、ミステリ(探偵小説)というジャンルが無ければ描かれなかった小説であり、ミステリが好きな人に是非おすすめしたい作品です。
(2017年07月02日)
ほうかご探偵隊
創元推理文庫 Mく2−9
倉知淳/著
東京創元社
税込価格  713円
 
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不用物は、なぜ消えた?
おすすめ度:
 要らない物が次々と消える《不用物連続消失事件》。描いた本人さえ興味の無い絵、人気の無いニワトリ(不用物と言ってしまった《僕》は、学級委員の吉野明里に怒られてしまったけど……)、不細工な募金箱の招き猫、解体されたたて笛の真ん中部分……使わなくなったたて笛を盗まれた被害者の《僕》は龍之介くんに誘われ、探偵活動を始める。
 本書は元々《かつて子どもだったあなたと少年少女のための》を掲げた講談社の《ミステリーランド》というレーベルから誕生した大人も楽しめるジュヴナイル・ミステリです。不用な物をめぐるミステリですが、ミステリとして不用な文章はあまりにもすくない。不用に見えた文章は謎を解くための重要な手掛かりだったと、謎が明かされた時に気付かされる。おおらかな雰囲気を醸し出しながら、実はとても計算されたミステリになっています。悪意は驚くほどすくなく、結末はとても優しい。悪意や不愉快さはミステリにとって強い魅力となる要素ですが、無理やり持ってきたような感じを受けると居心地が悪くなってしまいます。本書にはそれがなく、居心地がとても良い。丁寧で落ち着いた、好感の持てる物語です。 (2017年06月30日)
忘却のレーテ
新潮文庫 ほ−24−1 nex
法条遥/著
新潮社
税込価格  637円
 
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記憶をテーマにした、恐怖と意外性に満ちた傑作ミステリ
おすすめ度:
 轢き逃げにより両親を喪ってしまった女子大生の笹木唯は、製薬会社オリンポスの役員だった父が横領していたということを父の同僚から知らされ、その返済のためにオリンポスが行っている新薬《レーテ》の臨床実験に参加することになる。記憶を忘れる薬の実験の参加者となった唯だったが、その実験は違和感に満ちていて……。
 本書は記憶をテーマにした、恐怖と意外性に満ちたミステリであり、徐々に深まっていく謎や大きくなっていく違和感の真相が明かされた時の衝撃は抜群です。そしてこの衝撃は強い毒を含んでいて、優しさなどとは無縁なものです。登場人物に対してあまりに非情な作品であり、読後感も決して良くはありません。しかしそんな非情さや残酷さが恐怖を盛り上げる展開が魅力的です。登場人物たちの記憶に関する議論も印象的です。後半の内容に踏み込めないのが残念なのですが、ミステリとしても、ホラーとしても秀逸な作品です。私はきっとこの作品を忘れはしな――、
 ……あれっ? 『忘却のレーテ』? 法条遥?
(2017年06月24日)
デビル・イン・ヘブン
祥伝社文庫 か31−1
河合莞爾/著
祥伝社
税込価格  918円
 
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有り得るかもしれない近未来の深い闇
おすすめ度:
 二〇二三年、近未来の日本で老人の転落死体が発見される。老人は、カジノ《イーストヘブン》に入り浸り借金を抱えていた。刑事の諏訪は、その老人の死に不審を感じていたが、聖洲署に異動になってしまう。東京オリンピック開催に合わせて二〇二〇年に誕生した日本初のカジノ《イーストヘブン》がある場所こそが、東京湾の埋立地である聖洲だった。架空の巨大な歓楽街を舞台に、有り得るかもしれない近未来の深い闇を描いた一冊である。
 警察小説と近未来サスペンスを融合した本書は、物語が進むにつれて現代社会の問題点を浮かび上がらせていきます。優れた社会派ミステリの要素を持った作品でもあります。これは否定的に捉える人もいるかもしれませんが、自分の想いを語る登場人物が多いのも印象的で、(どうなのかな、と思う場面がいくつかあったのも事実ですが)その想いの噴出が感動に繋がる場面が多くあり、個人的には魅力的に感じました。哀しみを帯びた壮絶なラストシーンには胸を打たれました。ストーリー自体はかなりハードですが、幻想性を持ったどこか優しさの残る文章は多くの人の心を掴むと思います。独特な味わいを持った作品です。 (2017年06月20日)
冤罪者
文春文庫
折原一/著
文藝春秋
税込価格  885円
 
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最後まで予断を許さない、騙される快感に満ちた一冊
おすすめ度:
 ノンフィクション作家である五十嵐友也のもとに拘置所にいる河原輝男からの手紙が届く。彼は今から十二年前、一九八三年に起こった《中央線沿線連続女性暴行殺人事件》の犯人とされ、冤罪を訴える男だった。五十嵐にはこの事件に関わり、婚約者の水沢舞が事件の被害者になった、という過去があった。最初は不快感を覚えていた五十嵐だったが、徐々に冤罪の可能性に気持ちが傾いていく。
 迷子になってしまい、目的地が分からない。仕方ないからと闇雲に道を進むと、もとへ戻る道さえ分からなくなって、途方に暮れる。何も分からないところへ放り込まれたような不安を読者に与えるのが、本書である。不信に満ちた物語だ。物語全体に漂う確信犯的な《嘘臭さ》が、本書を先の読めない物語にしている。癖の強い登場人物たちの複雑な人間関係によって形成される歪んだ物語の果てに、あまりにも強烈な真実が待ち受けています。最後まで予断を許さない、騙される快感に満ちた一冊です。
(2017年06月16日)
球道恋々
木内昇/著
新潮社
税込価格  2,268円
 
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野球に情熱を注いだ明治の漢たちの物語
おすすめ度:
 業界紙「全日本文具新聞」で編輯長をしている宮本銀平に一高野球部のコーチの話が舞い込む。かつて黄金時代の一高の補欠であり、現在は野球から遠ざかっていた銀平は、以前は歯牙にもかけなかった三高相手に苦しむ野球部のコーチとしてふたたび野球の世界に足を踏み入れる。本書は野球に情熱を注いだ明治の漢たちの物語です。
 大人になって過去を振り返り、当時理想としていた人物像を思い浮かべ、現在の自分を鑑みる。現在の自分にがっかりする人も多いのではないでしょうか。残りの人生を諦めたような気持ちで過ごしている人もいるかもしれません(私にも心当たりがあります)。でもたとえ理想に程遠い大人になっていたとしても、「人生まで諦めるのは早くない?」と、挫折や後悔の先にあるものを描き、苦しむ人の背中をそっと押してくるのが、本書です。といっても決して押し付けがましい人生の指南書のようなものではなく、主人公とは正反対の考えを持つ柿田や山藤といった生き方にも頷けるところがあり、人生の多様性を肯定する描き方が印象的でした。良くも悪くも登場人物たちの沸点は低く、時には幼稚にさえ感じる(それを指摘するような登場人物の台詞もある)。しかしそう思われるほどの真剣さというのも、悪くないだろうな、と羨ましくもなりました。
(2017年06月15日)
○○○○○○○○殺人事件
講談社文庫 は110−1
早坂吝/〔著〕
講談社
税込価格  713円
 
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異色の皮を被った正統
おすすめ度:
《犯人もトリックも当てられなかったけどタイトルだけは当てられた――そんな、ささやかな成功体験をしてほしい。そういう思いが本書には込められている。》
 まず読者に先入観与えまくりの「読者への挑戦状」から始まります。本来ミステリに大敵である先入観をこんなにも読者に持たせて大丈夫なのかな、と不安な気持ちになるかもしれませんが、安心してください。物語を読み終えると、これが秀逸な挑戦状であったことに気付くはずです。
 多くの登場人物たちと同じように、著者自身も二つの顔を持っている。一歩間違えれば読者から嘲笑を浴びかねない態度(解説では《世の中を舐め切った作品》と表現されている)で物語を紡ぎながら、ミステリに対する姿勢はあまりにも真摯である。決してタイトルのインパクトに頼っただけの作品ではありません。謎が紐解かれてあらわになる真実は、忘れがたいものです。本書に対して異色の皮を被った正統という印象を抱きました。
(2017年06月15日)

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