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渕書店 BOOKSTORE FUCHIのレビュー

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掲載レビュー全87件
 
憲法くん
松元ヒロ/作 武田美穂/絵
講談社
税込価格  1,512円
 
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リストラされようとしている『憲法くん』の心もよう。
おすすめ度:
2017・6・1に記しているが、そういうタイミングだからこそ本書が生まれたよう思う。この内容に今、なんらかの感慨を持たない読者などいそうにないと想像します。日本国憲法が擬人化された、今年70歳になるがまだまだ意気軒昂である『憲法くん』が、自分(憲法)の来し方行く末について思いを馳せるというのが本書。なぜ、彼がそんなふうであるか?彼は今、「リストラされそう」になっているからである。コミカルでシリアス!本書を開いてゆくと『憲法」が本当に我々国民のものであり、制定後、意識的にであれ、無意識的にであれ、我々の行動を、ひいては政府の行動を決めていたことが分かる。『憲法』の現状をシビアに考える材料となると思うし、いろんな見解を読者に与えるという意味では悪い本ではないと思う。むろん、作者が人間である限り、作者の憲法に対しての思いが込められているわけで、いくら公平を保とうとしてもそれは叶わないし、本書もそうなっている感じがする。しかし、それはそれであっていいし、本書を読んで反対の意を唱えたって構わないわけである。ただ、そうした中にあって、毅然と『前文』のすべてが掲載されているのがすごくいい。これ一冊で憲法について考えるきっかけが得れる。−『私の初心、私の魂は、憲法の前文に書かれています。こんなふうに始まっています。・・・日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、・・・・・・』。(尚、本書は松元ヒロという芸人の一人芝居が下敷きになっている。) (2017年06月01日)
おおきな木
シェル・シルヴァスタイン/作 村上春樹/訳
あすなろ書房
税込価格  1,296円
 
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無償の愛・・・うん?愛ってそもそも無償でしょ。YES.
おすすめ度:
一人の少年が大人になって年老いるまでの人生とその人生に寄り添う「おおきな木」のラブストーリー。が、文字どおり「愛の物語」であり、恋愛の話ではない。− 献身的な「大きな木」は少年が求めるままに遊んであげたり、お金が必要な少年のために自らの体の一部である「実」を提供したり、家を建てるという少年に自分の「幹」をくれてやったり、最後は老いた老人になった少年の為に切り株になってしまった自分を「休息のイス」にしたり・・・

愛って無償と読むこと、それが相手に必ず伝わる、その時の幸せ。何も求めない。ただそこに愛があるのみ。− そういう読み方をしました。若草色の表紙が眩しい! (2017年05月28日)
たべてあげる
ふくべあきひろ/ぶん おおのこうへい/え
教育画劇
税込価格  1,188円
 
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シュールレアリズムの極。絵本にして、これを大人に隠すか !?
おすすめ度:
ものすごくシンプルなストーリーで、大人ならその結末を最初の数ページで見抜く、こともあるかもしれません。でも、なぜかしらの強引な魅力が大人をも最後のページまでピーンとした緊縛感で引っ張ってゆく。この絵の求心力ってバカみたい(笑)。こども、その子の個性によっては泣くね。こども、その子の感性によっては笑うね。どっちにしろ、残るのは・・・なんだろう?わからないです(笑)。食育とか、野暮なことをいうのだけは止しておきたいです。価値が損なわれる可能性を回避したいですから。
(2017年05月14日)
日本の歴史 集英社版学習まんが 全面新版 特価セット 20巻セット
設楽博己/ほか監修
集英社
税込価格  19,440円
 
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本巻のおもしろ度が読者の近代化感覚を測るものさしとなる巻か?
おすすめ度:
明治維新から始まる本巻。初めて姓を得る権利を庶民が持つ。「四民平等」の名の下、@公家・大名・・・華族 A武士・・・士族 B百姓・町民・・・平民という具合に国民を区分する。平等ならで例えば平民が華族と婚姻することもできるというわけである。’大衆’で括られていた人々に’個人’の性格が与えられたということになるだろう。他国に負けないようなるため海外を広く視察。その結果、近代化・軍力が必須であると考え、そのために必要な’人々への教育’を国が与えるインフラが整備される。現在の義務教育の元となるのだろうか「学制」が政府から出た(初期就学率30%)。肉を食べる食習慣や西欧の建築様式を取り入れる。それを模倣した(?)銀座が出来る。その他、気になったのは「廃刀令」が出たこと。現代への流れに乗じるとそれが契機で(無論、西南戦争という銃や大砲の戦いもあったが)板垣退介が言論による戦いという方法を唱えたように思える。政党政治の始まりもここに有るよう思われた。「大日本帝国憲法」という東アジア初の憲法ができたのもこの辺りで、特徴は天皇に武力を含め全ての権限が与えられる(天皇大権)にあるように思われる。非常に刺激的であり、日本の『近代化』が始まったことが描かれたエポックメイキングな巻です。 (2017年04月01日)
何様
朝井リョウ/著
新潮社
税込価格  1,728円
 
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突破、成長、変化ー 普通の生活の中に現れる一コマ。
おすすめ度:
卒業間近の高校生、会社の人事部の新人、恋人を見つける、身近な人の人生に衝撃的に触れる、不倫ー今までと違う自分を作ることの勇気が本短編集に通底しているテーマだと思いました。いろんな状況設定での生活のひとコマなのですが、その主人公誰もが成長や突破の瞬間を経験する、そんな・・・。気取りがないとても素直な文章でどんな読者の要望にも応えられる、広く行き渡る作品集だなという感じです。
(2017年02月02日)
りゆうがあります
わたしのえほん
ヨシタケシンスケ/作・絵
PHP研究所
税込価格  1,404円
 
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笑いが止まらないかも知れないけどぼくは本気だよ。えへん。
おすすめ度:
う〜ん、ふふふふふ・・と、ニヤニヤしながらしか読めないピースな絵本。おかあさんの注意するわるい癖にはひとつひとつ理由がある、と男の子。そうです、なにも普通の理由ならニヤニヤして読みません。彼が説明するのはこどもならではの空想力にみちみちた笑いを誘うものばかり。そういうのがいくらでも出てくる、出てくる。こどもの底知れぬおそろしさを、いえ、たぶん、大いなる可能性の素晴らしさを、体験できます。おかあさんはたいへんだ!! (2017年01月17日)
なつみはなんにでもなれる
ヨシタケシンスケ/作・絵
PHP研究所
税込価格  1,080円
 
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ああ、こどもって、自由自在・・・はは。
おすすめ度:
洗濯物をたたむおかあさんに向かってわんぱく女の子なつみ選手がモノマネごっこでかまってもらいたがります。ただのモノマネレパートリーじゃない!あさりに、ポットに、(おかあさんがよくやる)ゆですぎたブロッコリー?・・・あきれるおかあさんを尻目に果ては「気持ち」の真似?・・・ああ、すごいな、こども。全力投球の毎日が想像され楽しくなりました。 (2016年12月30日)
最後の秘境東京藝大 天才たちのカオスな日常
二宮敦人/著
新潮社
税込価格  1,512円
 
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藝大は読者の期待を全く裏切らない大学!バンザーイ!!
おすすめ度:
現役藝大生を妻に持つ作家の僕が藝大を取材。著しく個性的な人々と本書を読むことで出会うことができ、読者にとって常識から解放される稀有な体験となった。期待を裏切らない藝大の藝大らしさ、と書くと説明になっていないが、つまり一般に考えられる藝大への偏見をそのまま引き受けてくれる内容。

そんな彼らのオリジナリティーに圧倒されるエピソードをいくらでもここに紹介することはできるのだが、それは作者の仕事。つまり読んでこそってとこ。そして・・・許していただければ本書は笑いの宝庫という紹介もできる。笑いで体がずり落ちる。例えば著者が准教授と交わした下記の会話。
「見学かい?今、鉄を切ってるから見てく?」
「いいんですか?」
「鉄はいいよねえ」
「鉄の何がいいんですか?」
「硬いところだね」
「硬いところ・・・ですか?」
「うん、硬いところだね」(本文より)

藝大は音楽を志向する音校と美術のそれの美校とに分かれているがどちらの学生もバカみたいな受験競争率を通過した人々。つまり芸術のエリート達。とにかく【ならでは】の金言が本書のあちらこちらに、いえ、全面に散りばめられています。
(2016年12月08日)
書店主フィクリーのものがたり
ガブリエル・ゼヴィン/著 小尾芙佐/訳
早川書房
税込価格  1,836円
 
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本を読む人の、本を読む人々の本
おすすめ度:
とある島に一軒ある小さな本屋アイランドブックスのオーナー、フィクリーが核となるラブストーリー。ラブストーリーというと男女のそれを想像するかもしれないが、それ以上の、人間が抱くであろう多くの愛を感じさせる作品である。いくつものエピソードが絡まりつつもその感覚は一貫している。

物語そのものは淡々と描かれるのだが多くの不幸を持っている。交通事故、捨て子、海への身投げ、養女・・・だが物語は大きくは騒がない。淡々としている。それは登場人物たち誰もが一定の教養と知性を持った大人であるからだ。そしてそれは、言い切ることはしたくないが本書のステージである<本>というものの周辺、或いは中心に彼らが居るからではないかと推測される。シニカルに物事を見るがそこに必ず知性と教養が加わり棘をユーモラスにする。運命論を読者は疑うが、このように世界がまとめられると本書にそれを感じない人は少ないのではないだろうか?特に鈍感であるこの読者は第一部の顛末にしばしページをめくる手を止めてしまった。

人生は深みを増すごとに哀愁を帯びるが、それは必ずしも悪いものではないことを本書を読み思った。 (2016年11月22日)
コんガらガっちどっちにすすむ?の本
ユーフラテス/さく
小学館
税込価格  1,296円
 
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この本は発明かもしれないぞ。
おすすめ度:
この本はもはや発明と言ってしまいたくなるほどの豊かさを持っている−。なんて大げさだがコドバで説明すればいたってシンプル。レビューとしては卑怯ですが主人公の「いぐら」(なんでも「いるか」と「もぐら」がこんがらがってできた生物のよう)の前に道の選択があり、読者が「いぐら」を担って選んでゆくうちにどんどん場面が展開してゆく・・・ありそうでなさそうな本。「すごい、すごい」とおもわず口走ってしまった大人読者。次第にこんがらがって多くのシーンを一度に楽しむことにもなる。そう、この本の面白さは主人公のネーミングに全て集約されている。これでも?これでも?と選択によってこんがらがってゆく世界。タイトルもこんがらがっている(読者が気づけばいいと思います)。う〜ん、レビューではこの本のおもしろさは伝わらないな。ただ、「閃き」を求める大人読者、元々「閃き」だらけのこども読者、同次元で楽しめるよう‘発明”された本、てなふう。 (2016年11月05日)
すてきな三にんぐみ
世界の新しい絵本
トミー=アンゲラー/さく いまえよしとも/やく
偕成社
税込価格  1,296円
 
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粋(いき)な絵本だなあ、と思いました。
おすすめ度:
1ページ1ページの絵がフレームに入れたくなる絵画のよう− シックなんだけど、ポップ。 夜な夜な金銀など高価なお宝を馬車に乗ったお金持ちをおどし手に入れては自分たちの住処にため込んむどろぼう三にん。ある夜、馬車をいつものように止めると乗っているのは不幸が待ち構えている小さな女の子。無邪気なその子は三にんぐみに盗まれた方が「おもしろそう」と・・・。そこから始まるどろぼう三にんぐみの孤児集め。何も彼らは孤児たちを痛い目に合わせるわけではありません。何しろ最初に盗んだ女の子をふかふかのベッドに休ませるほどのやさしさがあるんですから。ラストページ、映像をほのめかすのみで、読者の想像力を刺激させるところがかなりニクいです。
(2016年10月29日)
エルマーのぼうけん
世界傑作童話シリーズ
ルース・スタイルス・ガネット/さく ルース・クリスマン・ガネット/え わたなべしげお/やく 子どもの本研究会/編集
福音館書店
税込価格  1,296円
 
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こどもよ、読みたまえ!中年にはわからん。
おすすめ度:
とてつもないロングセラーの名作なわけですが・・・正直どこが面白いのかさっぱり分からなかった中年真っ盛り(笑)。空を飛びたいという夢を持つエルマーに親切にしたねこがりゅうが島にいると・・・。そこでサイとかライオンとかイノシシとかをリュックサックに詰めたものを意外な方法で使いごまかしてりゅうまでたどり着き、ハッピーエンド的になるのですが−。唯一おかしかったのはリュックに詰めたものや途中で見つけたみかんなどの数のいいかげん(?)さ。「その数量に意味はあるのか?」と(笑)。う〜ん、やっぱり分かんないです。こどもよ、読みたまえ!中年にはわからん。
(2016年10月02日)
たんていネズミハーメリン
ミニ・グレイ/さく 灰島かり/やく
フレーベル館
税込価格  1,404円
 
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好奇心360度全開の子どもに読んでもらいたい!
おすすめ度:
最初のページをひらいて予想外の出来事に遭遇したって感じで戸惑ってしまった。だけど、たぶん、ですが、子どもの360度ひらいてる好奇心はそれを大人と違って喜ぶのでは?大人の読者は本書の混沌としていつつ統一感のあるページの数々を子ども程に楽しめない?たぶん。残念。
ねずみハーメリンが町中のなくし物をした人達を手伝ってあげる。何しろハーメリンは屋根裏部屋にあるタイプライターで文章が書けるねずみだ。でも、掲示板に貼られたハーメリンという署名のなくし物の答えの紙でしかみんなハーメリンを認識できない。ハーメリンていったい誰?ということ。それでお礼をしたいと掲示板にパーティーの招待状を貼る。ハーメリンはおめかししていざ会場へ・・・だけど。
1度は読者を悲しみに落としてしまう物語。でも最後はハッピーエンド。読み終えるとなんだか知らないけれど幸せな気分!ハーメリンに会いたいな。
(2016年09月24日)
また、同じ夢を見ていた
住野よる/著
双葉社
税込価格  1,512円
 
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本作は、「プリンと一緒だ」。
おすすめ度:
おませな女の子の主人公は同年齢の子どもとは遊ばず自殺未遂を繰り返しているらしい女子高生のいるビルの屋上や娼婦らしい女性の部屋や本好きのおばあさんの家を訪ねたりして放課後の時間を過ごす。物語の終わりまで彼らが誰だったかは本当にはわからない。いや、それにしてもわからない。ミステリーとは違う、ファンタジーとも違う、小説の中の言葉を使えば「不思議」。

「人生って虫歯と一緒よ」
「ど、どういう意味?」
「嫌なら早めにやっつけなきゃ。(本文略)」

目の前のことがらを、スヌーピーのピーナッツシリーズのように片づけてゆくかしこさを身につけている彼女。小学生の暮らしぶりを小学生が獲得し得る言葉で描くとこうなるのだな、と。たとえば自分の中に湧いた悩みを「黒いもの」としか表現できない(もしくはすごく的確に表現できてるのかもしれない)。しかし、その彼女も授業で宿題となった「幸せとは何か?」という問いには簡単に答えを出すことができない。それが本作の大きなテーマになっていると思った。

エンディングに何か大きなものが待ち構えていると感じつつも、いつ終わってもいい、そんな相反する気持ちで中盤以降読み進めていった。なにしろ、「人生はプリンと一緒(本文)」なのだから。 (2016年09月20日)
ビロードのうさぎ
マージェリィ・W.ビアンコ/原作 酒井駒子/絵・抄訳
ブロンズ新社
税込価格  1,620円
 
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絵本でなくちゃ読者に100%以上届かないはず。
おすすめ度:
・・・なんでもない作り話のような気もするのですが、だからこその普遍性。絵にも好き嫌いを超えたものがあると思う。読み終えた後、表紙の絵をじっと見てたら自然と心がざわついた。「絵本」でなければそう簡単には読者に届かないお話。すごい。というか脱帽。やられた。いろんなメディアで2007年ナンバー1になった名作です。
(2016年09月14日)
おちゃのじかんにきたとら
ジュディス・カー/作 晴海耕平/訳
童話館
税込価格  1,512円
 
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トラが家庭訪問してきます。
おすすめ度:
なんでだ?!突然のトラの訪問をおかあさんはことも無げに受け入れる?!・・なんて無粋な読者。ー ソフィーの家のおちゃのじかんにトラが来た。え?・・・いんじゃない、自由ってそういうところあるからさあ。人間と比べれば当たり前だが大食漢のトラ。肉は食わないがサンドイッチ、パン、ビスケット次々とソフィーが差し出すものを平らげ最終的に水道の水を飲み干す・・・ってどんなイマジネーションだ!くっ、表紙がまず愛しい。

名作と呼ばれる作品に対して恐れ多いが、個人的にはオチは要らなかったなあ。家になくなった食べ物を求めにレストランに家族ででかけるシーンにジーンときた。でも、やさしい心を持った子どもにはラストシーンが必要で、おやすみなさい・・・。

次はライオンでお願いします。ー敬愛なる故ジュディス・カー様 (2016年09月09日)
コンビニ人間
村田沙耶香/著
文藝春秋
税込価格  1,404円
 
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人生それぞれ。何が悪い?ゴーゴー!!
おすすめ度:
幼い頃「合理性」という基準で粗暴な行動を起こすなど問題児であった主人公。カウンセリング等も受けたようだが周囲の人間から「治らない」と心配される。いわゆる障害、とされるが知能にそうしたところは全くない。情緒障害とも違う。「合理性」こそが彼女を動かし自分ではどう他人と違うのか分からない。そこにコンビニという「合理性」の塊のような環境が現れる。その環境の中に入ってマニュアルに従っていれば、まとも、普通、正常であるとなんとなく他人から見られることを知り自分でも納得がいくというわけだ。『ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ(本文)』。そこに新しい価値観を突きつけてくる人間が登場する。「婚活」のためというわけのわからない理由で入ってきた35歳の男。縄文時代に自分の不甲斐なさの言い訳などを求めている屈折したさえない男だがこの男と主人公のやりとりがたまらなくおもしろく読んでいてのけぞる。一体二人で何を言い合っているのだろう?と笑いが止まらない。しかし、彼の「指示」に従うことで主人公の周囲が彼女を「仲間」と見做しだす。二人は同棲する。そして主人公はコンビニ店員に自分らしい人間の原型を求めた生き方の「方法」のようなものをを崩される・・・。

主人公の周囲に対する冷めた温度感は読者を妙に安定させる。清々しくて心地いい。社会学的見地から読めばまた別の読みかたも生まれるのであろうがそんな読み方はしなかった。彼女の生きざまを「障害」とみる見方もあるし、彼女の周囲はそう考えるわけだが−。読み終えた後、主人公が意気揚々と人生を歩んでゆく姿が見えた。何が悪い?ゴー、ゴー!!

(2016年09月04日)
私の消滅
中村文則/著
文藝春秋
税込価格  1,404円
 
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書かれていないかもしれない小説というイメージ。
おすすめ度:
いやおうなく暗くて大きな波に背中を押されるように読者は物語世界に入り続ける。

物語は精神分析を骨格にして込み入った構造を持ち、読者は簡単にはその輪郭を得ることがむずかしいと思う。作者の意図したようには読めなかった読者であったかもしれない。しかし、そうでなくても作品全体を覆う印象は明らかで、一様に暗い。読んでいる最中その文章に全く陽があったってない感じ。いや、もしかしたら注意深く読めば読むほど登場人物達が誰なのか分からないように作者は仕掛けているのかもしれない。つまり謎解きなど要らないのかもしれない。切れ切れに組み込まれた事象から読者がそれぞれ物語を組み立て作品から得る何らかを感じればそれで本作品は価値を持つのかもしれない。それはともかく、後半に向かって歯を食いしばって読み、読み終えた後、深い溜息を漏らしてしまった。そして、ある読者にとってはこの暗い痛々しい物語が救いとなるかもしれないと思った。もちろん理解できなくてもいいし作品から離れている方がいい、のかもしれない。
(2016年08月27日)
きつねとねずみ
こどものとも傑作集 5
ビアンキ/さく 山田三郎/え 内田莉莎子/やく
福音館書店
税込価格  972円
 
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おもしろいんだけど、こどもが読むとおもしろさの質が違うはず。
おすすめ度:
ねずみと、その天敵のきつねのユーモラスなやりとりが描かれています。大人の読者は生死をかけているような彼らの攻防をユーモアを使って描いていることに硬い頭が「何をこどもは考えるだろう?」と思うばかり。でも、おもしろいんです。 (2016年08月21日)
リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険
トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳
ブロンズ新社
税込価格  2,376円
 
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必ず長い間残ってゆく絵本だと信じます。
おすすめ度:
本書は絵本という枠組みでは収まりようのない豊穣な内容を持った本。児童書ともいえるし大人が斜に構えて読むような内容でもない。スケールが大きい。

一匹の図書館好きのネズミが様々な困難を乗り越え仲間のいるNYへ行くため、海を越える飛行機を作り出す。絵のすごさ。それを思い知らされた。言葉をいくつ重ねればこうした表現が生まれるであろう、そんな迫力で次々とページはめくられ、読者は感嘆の声を上げねばならない。情感たっぷりで精密にしてクールな色合い、タッチ、構図。まるで映画を観ているような錯覚に陥る。

ネズミの孤軍奮闘ぶりは読者を勇気づけるに十分。そして、知識が知恵となるプロセスを教えてくれる。本書は必ず長い間残ってゆく絵本だと信じます。 (2016年08月11日)

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