NetGalley 会員レビュー
おすすめ度 ぶちのめされた。感想がまとまらない。物語の中に、当事者として入り込んでしまって抜け出せない。誠実。というのは、こんな筆致のことを言うのだと思う。細部まで考え抜かれたプロットで、自己満足な語彙が少しもない。自分が書いたものが、だれかを傷つけないように、けれども本質を突くことができるように。物語の細部に張り巡らされた思いやりと怒りと絶望。それでもそこに希望を見出すとしたらそれはどこなのかと手繰り寄せていく本当に本当に細いけれども確かな糸。誰かを傷つけてしまうとき、自分自身はそれに気づかない。せめてそのことを忘れずにいたいと思う。でもそれはとても覚悟がいることだ。発売されたら、この本を広める。
おすすめ度 これまでの作品とは一線を画す異色の社会派サスペンスだが、随所に散りばめられた胸に刺さる言葉の数々は過去最高頻度で、ズシンと心に響くテーマの重さの反面、よくぞここまで書いてくれた、ほんとそれ!という共感で満たされた。老女の死体遺棄事件を発端に、次々と明るみになる関連事件を取材する主人公の女性記者。仕事も家族とも上手くいかず悩める彼女が、事件の真相を追う過程で気づき変化してゆく心情が激しく切なく胸に迫る。愛情の隙を突いて巧妙に騙され犯罪に巻き込まれていった、社会的被害者とも言える女性たちの姿が浮き彫りになるにつれ、その"紙一重"を分かつ"もしもあの時"を考えさせられる。
おすすめ度 事件記者を辞め、蟠りを残したまま実家に戻った主人公の心が、地元で発見された白骨死体事件で再び動き出す。事件との、人との向き合い方に悩みながらも、寄り添う事で真相に迫っていく、歪な人の繋がりを描いたサスペンス。今までと違うジャンルの中に、しっかりとこれまでも積み重ねてきた著者のマイノリティに寄り添う気持ちが滲んでいた。強さとは何か、弱さとは何か、自分の物差しの歪みに気付かせてくれる物語。偏りのない多角的な視点で描かれる事で、登場人物との距離が近付き、事件の本質がクリアになっていく度に痛みが伴う。フィクションとは思えない、実在の事件ルポを読んでいるようなリアリティに息を呑むほど読み入った。派手な展開で纏めずに、その先の救済から再生にもスポットが当たっている所に、温かい希望を感じられた。 上記レビューの提供元:NetGalley(株式会社メディアドゥ) NetGalleyとは、本を応援するWEBサイトです。 |
商品内容
要旨 |
北九州の山中で発見された白骨化した遺体。あなたは誰?どんな人生を送ったの―。本屋大賞作家の新境地となるサスペンス巨編。 |
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出版社・メーカーコメント
本屋大賞作家の新境地となるサスペンス巨編 声なき声が届くなら、今度こそ記者を諦めない。『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞後、『星を掬う』『宙ごはん』で同賞に3年連続ノミネート。人間ドラマを中心に執筆してきた町田そのこさん、初のサスペン巨編! 北九州市の高蔵山で一部が白骨化した遺体が発見された。地元のタウン誌でライターとして働く飯塚みちるは、元上司で週刊誌編集者の堂本宗次郎の連絡でそのニュースを知る。遺体と一緒に花束らしきものが埋めれられており、死因は不明だが大きな外傷はなかった。警察は、遺体を埋葬するお金のない者が埋めたのではないかと考えているという。遺体の着衣のポケットの中には、メモが入っていた。部分的に読めるその紙には『ありがとう、ごめんね。みちる』と書かれていた。遺体の背景を追って記事にできないかという宗次郎の依頼を、みちるは断る。みちるには、ある事件の記事を書いたことがきっかけで、週刊誌の記者を辞めた過去があった。自分と同じ「みちる」という名前、中学生のころから憧れ、頑張り続けた記者の仕事。すべてから逃げたままの自分でいいのか。みちるは、この事件を追うことを決めた−−。 【編集担当からのおすすめ情報】 「ミステリーを書きませんか?」その一言から始まった作品です。当初、数行だったプロットに大きな変化が起きたのは、2023年4月、ノンフィクションライターの宇都宮直子さんへの取材でした。お話を聞いていたはずの町田さんが、突然あふれ出るものを止められない様子でストーリーを語る姿は一生忘れません。2時間の濃密な時間を過ごした後、書き上げたプロットは100枚を超えていました。 好評だった「STORY BOX」の連載に書き下ろしのラストを加えるだけでなく、大幅な加筆・改稿を重ねて完成しました。サスペンス巨編とうたっていますが、さまざまな人生を送る人々の感情を余すことなく描く町田作品であることは違いありません。多くの方々に読んでいただけたらと思います。