書店レビュー
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- 平山書店 (秋田県大仙市)
鴎外の作品は、初期の”ドイツ三部作”で編まれた雅文体と呼ばれる独特の格調高い文語調のイメージがあるためか、とかく難解さをもって膾炙されている。とはいえ少し説明を加えさせていただくと、この三部作の背景となったドイツ女性との恋愛事情は、彼の人生の中で唯一、宿命に逆らおうとした重要な出来事だった。その結末がついてから直後に書かれたドイツの回想作が、練りに練られた凝った文体で彩られているのは、鴎外自身の思い入れが強すぎたため、このような形にならざるを得なかった、と読むことはできないか。
さて、話を本作に戻すと、この作品は平明な口語体で書かれた小説らしい小説といえよう。「スバル」に連載が始められたのは明治44年9月。これより約2年半前、鴎外は『追儺』という作品である「断案」を示していた。それは「小説とは何をどんな風に書いても好いものだ」という当時としては革新的な立場の表明である。すなわち、読者が楽しめるかどうか、また社会や人生の役に立つかどうかは小説にとって問題とはならず、書くことは個人の自律的な営みであることに、革新の意義があった。先に小説らしい小説、と述べたのはそういう意味においてである。(2010年3月2日)
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商品内容
要旨 |
貧窮のうちに無邪気に育ったお玉は、結婚に失敗して自殺をはかるが果さず、高利貸しの末造に望まれてその妾になる。女中と二人暮しのお玉は大学生の岡田を知り、しだいに思慕の情をつのらせるが、偶然の重なりから二人は結ばれずに終る…。極めて市井的な一女性の自我の目ざめとその挫折を岡田の友人である「僕」の回想形式をとり、一種のくすんだ哀愁味の中に描く名作である。 |
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