何事であれ、ものの真諦を明晰に見とどけるということは、思うほど簡単なことではない。ものに即して沈湎するという悟入の姿勢もあるが、離れて観望し、比較して見る、という会得の仕方もある。本書が、事、文学に限らず、日本的なるもののさまざまを語って、すべてがかくも明晰であるのは、無類の西欧的教養に支えられた、その比較文明論的視点の正しさを物語るものでもある。現代が生んだ最高の西欧的知性による最高の日本文化論がここにある。