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平山書店のレビュー |
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掲載レビュー全609件 |
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直木賞作家、朱川湊人氏の作品。今回のはものすごく怖いホラー短編集である。何がそんなに怖いのかといえば、表題の「水銀虫」という言葉。人の心に巣くって体中を這いずり回り、やがて無数の穴を空けてしまうという。この虫が至るところで登場する。”いたずらの虫”、”癇の虫”、”泣き虫”など、人の心の動きを表す言葉として、一般的にこの”虫”という言葉はよく使われるが、それらはいずれも負のイメージであることは間違いない。この「水銀虫」は『死にまつわる負の衝動』とでも言ったらよいだろうか、それは自殺願望となったり、人肉食であったり、近親カップルの逃亡の果てとなって表れる。封じ込められていた衝動が爆発するかのごとく、水銀虫の空けた穴から狂気が外に漏れ出すのである。受賞作では、ホラーの中にもノスタルジーを交え、柔らかな印象を与えた著者であるが、この作家の原点は別の処にあったのだと気付かせられる1冊である。(ノリ) (2008年01月27日) | ||
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サスペンステラー、永井するみさんの作品。女性の歪んだ愛情を描いた1冊。ヒロインの雑誌記者は、若い女性の轢死事故を取材中、再び発生した事件ともとれる死亡事故をきっかけに、二つの事故に共通する女性の存在に気付く。テンポよく淡々と進む事故の記述が、犯人の冷酷さを連想させかなり怖い。作品の性格上、具体的な内容に言及できないのが残念であるが、信念めいた愛情の前では、他人を害する罪悪感が何の阻止力ももたないものだというところがよく表現されていると思う。信念や愛情も、行き過ぎれば狂気となる。げに恐ろしきは諸刃の刃、女性の愛情かな、という1冊。(のり) (2008年01月27日) | ||
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推理小説史上に残る傑作、天藤真氏(1915-1983)の『大誘拐』をご紹介したい。かつてあるミステリガイドブックにおいて、池上冬樹、松坂健、西上心太、川出正樹、村上貴史、青木千恵、吉野仁の錚々たるメンバーたちがもれなく最高点をつけた唯一の作品がこの『大誘拐』だったのである。魅力的な登場人物、他に例を見ないオリジナリティ、予想もつかない展開、テンポのよいスムーズな話の流れ、結末の意外性と動機のもっともらしさ。まさに傑作の要素を全て備えた完璧な作品と言ってよいだろう。岡本喜八監督で映画化されたのをご存知の方もいらっしゃると思うが、活字で読むほうが断然いい。人間のもつ想像力が限界まで引き出されるのを感じ取ることが出来るだろう。それは、すべての読書人にとって究極の到達点なのである。(のり) (2008年01月23日) | ||
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著者のジェフリー・フォード氏は1955年生まれのアメリカ人作家。創作ジャンル的にはミステリと幻想文学に属する。1997年の長編『白い果実』は批評家から激賞され、同年の世界幻想文学大賞を受賞することになる。この作品は、奇しくも同年生まれの伝説的幻想作家、山尾悠子さんが翻訳を手掛けたことで話題となり、わが国でも読書界から大きく注目された。さて、この作品は1893年のニューヨークが舞台。主人公の肖像画家ビアンボが謎の貴婦人から、姿は隠したまま彼女の語る話だけから想像して肖像画を描くという奇怪な依頼を受けるところからこの物語は始まる。彼女の話は奇抜だが、物語はきちんと時系列に沿って進行してゆくので、すいすい読める。友人のフェンツとともに、シャルビューク夫人の正体を探ってゆく謎解きも楽しめる。ミステリとしても上質の1冊。(のり) (2008年01月23日) | ||
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著者のジュリアン・シモンズ(1912-94)は、イギリスの推理小説家。また、ミステリ評論家として、そしてシャーロック・ホームズの生みの親である、コナン・ドイル研究家として非常に有名な人物である。作風は謎解き主体の本格ものとは異なり、犯罪者の視点から、事件のきっかけ、計画、実行、その後に至るまでの心理状態をつぶさに追うことを得意とした。本書もそのピカレスク小説的な傾向が顕著であり、気弱なショボイ中年男性が、計画的犯罪を計画、実行し、次第に精神に変調をきたしてゆく様をユーモアを交えて描いている。この作品が書かれたのは1967年であるため、かなり時代を感じさせるものもあるが、その巧緻な物語性は現代のわれわれにとっても十分耐え得るものである。(のり) (2008年01月23日) | ||
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2007年6月20日の参議院本会議で、いわゆる”犯罪被害者法”が賛成多数で可決された。これは損害賠償の手続きの簡素化、公判記録閲覧への配慮、そして犯罪被害者の訴訟参加の道を開くものとして、その成立を大いに歓迎したい。しかし、この新制度の恩恵を受けるのはあくまで刑事裁判の場合に限られる。少年法により14歳未満の者は刑事的に罰することはできない。本書で表れる時代(少年法の対象となるのは16歳未満)とは多少進歩しているものの、現在、犯罪被害者にとって少年保護の壁は厳然と存在するのだ。公開の場で審判が行われないこのことは、加害者についての情報を得ることができないと同時に、被害者の感情も世間から閉ざされてきたことを意味する。本書は、10年間に及ぶ丹念な取材により、被害者のその後の人生を追った貴重なドキュメントである。事件についての論評は控えながらも、心を貫くような被害者の悲痛な肉声が生々しく、読み手に与える衝撃はあまりにも大きい。(のり) (2008年01月23日) | ||
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直木賞作家、三浦しをんさんの受賞後第1作。ボロアパートに住む十人の大学生たちが箱根駅伝を走りきるまでの出来事を綴った、極上のスポーツ青春小説である。陸上長距離経験者は二人のみ、素人同然の他の八人が過酷なトレーニングにより目覚ましい成長を見せる。走るためのモチベーションはメンバーの個性さながら人さまざま。それが、成長して行くにつれ、母校や地元商店街を巻き込んでの一体感に昇華してゆく過程は、身の震えるほどの感動である。”ランナーズ・ハイ”、走りを極めた者のみが到達できる境地。そして読書における、よき書に出会った者のみが体感できる恍惚の高み。みなさん、ぜひ彼ら十人とともに、箱根の山を駆け抜けてみてほしい。(のり) (2008年01月16日) | ||
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本格ミステリ作家として、手堅い仕事を続けている石持浅海氏の推理短編集である。今回のは”対人地雷”がキーワード。社会性のあるテーマが幅を与え、また閉鎖空間のトリックに定評のある著者の才能がいかんなく発揮されている作品である。意外な知識が得られたり、新たな発見があるのもまた愉しい。さらに、本書には著者の処女作が収録されている。処女作には作家のすべてがつまっていると云われるが、この一作もエレベーターの中での本格密室ミステリー。他の作品と比べてみれば、当時に比べ作品の厚みが全く違うことに気付かれるであろう。確かに石持浅海は進化している!そう実感できる1冊である。(のり) (2008年01月16日) | ||
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ホラーとの融合という独特の作品をミステリ界に放つ道尾秀介氏の作品である。今回の”闇”は精神病。心の病という精神作用による幻覚や妄想が現実世界と交差し、恐怖を演出してみせる技はさすがである。また、家族物語、友情物語としての性格も盛り込まれ、物語に奥行きを与えているのもよし。単なる怖い話で終わらないところが著者の作品の魅力のひとつといえる。安定した実力を備え、高品質の作品を発表しつづける著者の活躍に目が離せなくなりそうだ。(のり) (2008年01月14日) | ||
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著者のポール・オースター氏は1947年生まれのユダヤ系アメリカ人作家。推理小説の分野で、1980年代半ばに発表した「ニューヨーク三部作」で大きく評価される。近代文学の秩序性、独創性、簡潔性等といった特徴のアンチテーゼとしてのポストモダン文学的な香りが濃厚に漂う、著者独特の手法で書かれたものである。本書はいわゆる推理小説の形をとってはいないが、前述した彼の文学上の特徴が明瞭に現れた作品である。飼い犬の目から見た世界が、飼い主との別れ、新しい家族との出会い、また元の飼い主への思慕行動などを通じて描かれる。その表現は妄想、夢、時間の逆行など通常のわれわれの意識の下ではとまどいの連続である。だが、これは犬の世界なのだと気付くと、この実験的な作品が急に興味深く思えてくる。嗅覚で生きる動物と人間とでは同じ場所にいても感じる世界は違う。同じ人間同士でも物事の受け取り方が異なることがままあるが、それでも一通りの秩序が維持できているのは奇跡に近いことだと感嘆せざるを得ないのである。(のり) (2008年01月14日) | ||
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向田邦子(1929年-1981年)さんは東京都出身の脚本家、エッセイスト、小説家。1000本以上の脚本を手がけたほか、エッセイ、小説の分野でも活躍が知られており、1980年、短篇の連作『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』で第83回直木賞を受賞した。また、エッセイでは後世に伝えられるべき名作『父の詫び状』(新潮文庫)を筆頭に、今も多くの人を惹きつけてやまぬ作品が出版されている。この作品についてはNHKでテレビドラマ化され、また高倉健・富司純子・坂東英治のキャストで映画化(降旗康男監督)もされており、いまさらながら内容を紹介するのも気が引けるので、山口瞳氏の評を紹介するに留めたい。「・・・私は向田邦子が自分の死期を知っていたように思われてならないのである。・・・『あ・うん』は彼女にとって畢生の事業であり、どうしても書きたいテーマであったに違いない。そうやって、傑作が生まれた」(文庫版解説より)(のり) (2008年01月06日) | ||
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最近、保守系の論壇では、この『武士道』という言葉をよく見かけるようになった。日本人のアイデンティティの拠り所として、再評価の動きが急である。著者の新渡戸稲造は本書を著すきっかけとなった出来事について次のように述べている。ベルギーの著名な法学者の家で歓待を受けた折、会話が宗教の話題におよび、「宗教がないとは。いったいあなたがたはどのようにして子孫に道徳教育を授けるのですか。」と質問され愕然としたという。そのことについて、妻と質疑応答を繰り返した末、この著作は生まれたという。著者は幕末の生まれであるから、封建時代の武士の教育を受けて育った。道徳とは人から躾けられて身に付くものである。当時を振り返ると、読書子の子ども時代にはしっかり授業があった。また、親から与えられた日本の偉人伝記の読み物が、幼い心にとっても尊敬と感動の心を育ててくれたように思う。いま、この著作が見直されているのも、裏返せば道徳心の継承が無くなりつつある実態を反映したものであるといえ、いまさらながら恐ろしい時代になったものだと思う。(のり) (2008年01月06日) | ||
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ミステリ史上に輝く傑作『時の娘』で名を残し、夭逝したジョセフィン・テイのデビュー作である。グラント警部初登場となる作品。『時の娘』については、近日レビューする予定である。作品の性格上、中身について具体的に触れるのは避けておくが、この作品を本格ミステリと呼ぶのは少しためらう部分もある。むしろエンターテイメント作品としての性格が濃厚な作品と申し上げ、無責任なようであるが、あとは読者の判断に任せたい(のり) (2008年01月06日) | ||
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原題は、SOCIAL CLIMBING from NORTHWOODS PULP。本の紹介に入る前に、本書の性格を知るうえで役立つと思われるため、e-hon本書のページにある”パルプ小説”について、ひとつ説明を加えておきたい。パルプ小説とは、いわゆるパルプ雑誌(Pulp)-安いざら紙を使った読み捨ての本-に載っているような小説のことである。大衆小説の中でも一段低くみられており、”三文小説”と呼んだほうが通りがよいかもしれない。異様な力強さと凄みのある泥臭さを感じさせる1冊。著者はこの作品がデビュー作で、1947年生まれというから、かなり遅咲きの部類である。これまでに様々な職業を遍歴しており、これが本作の主人公キースの人物造形にも影響しているようだ。続編があるようなので、次回の邦訳を期待したい。 (2008年01月06日) | ||
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女性の視点から多くの魅力的な作品を描き出す平安寿子さんの作品である。今回は、恋愛も仕事も中途半端なヒロインが、親と離れ、自立している叔母と暮らすことになってから人生に向き合ってゆくようになるまでの顛末を描いた物語。不器用にしか生きられないヒロインのるかに対する、著者の平さんの目は優しい。るかを叱咤する叔母の姿は、平さんのるかに対するエールそのものにみえる。まるでわが子のようにヒロインのるかを見守る著者の愛情が感じられ、読んでいて思わず頬がゆるむような1冊。(のり) (2008年01月06日) | ||
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柴崎友香さんの作品を過去に遡って3作目。今回のは4つの短編が1冊にまとめられている。異様に現実感のある風景描写、そして何気ないけれどごく自然な会話の流れのバランスが見事にマッチしている。見た風景と感じた空気を言葉にする確かな力量を感じさせる文章である。それと、”なかちゃん”という男子が登場するのだが、通読して初めて分かるちょっとした仕掛けが施されている。いわゆる狂言廻しで、話の本筋とは関係ないけれど、彼の一日の出来事が順番を変えて隠されている。また、柴崎さんの作品に登場する主人公は、みなどこかで繋がっているというが、それを探してみるのも彼女の作品の楽しみのひとつであるといえよう。(のり) (2007年12月31日) | ||
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本作は彼女のデビュー作を含む単行本1作目となる作品である。柴崎友香さんの作品を過去に辿る試みも一応の区切りを迎えた。われわれは、視覚、聴覚、触覚など、外界から刺激を受けるとそれが心に影響を与え、作用する。彼女の作品ではその経過が現実以上の目まぐるさで、じつに細かく描かれている。普通われわれは常に外界からなんらかの刺激を受けているから、その変化を意識することはない。無意識を言語化するといった意味において、柴崎さんは特異な書き手であるといえるだろう。しかし、その特異さもふだんわれわれが認識することのない世界のことだけに、気付く人が少ないことも事実である。彼女の最近の作品を例にとってみれば、街の描写にそれがよく表れているだろう。視覚=街の風景、聴覚=雑踏のざわめき、触覚=肌で感じる空気、これらの知覚がもたらす精神作用が、現実に実在するその街を歩いている時以上の感じ方をもって描かれている。彼女の作品を読み、眠っていた夢の記憶を呼び出されたかのごとく、奇妙な現実感を体験された方も多いのではないだろうか。なかなか受賞には恵まれない著者であるが、これからの活躍を見守っていきたい。(のり) (2007年12月31日) | ||
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注目の女流作家、柴崎友香さんの単行本2冊目の作品である。カップルのドライブツアーに同乗した二人の男友達。道中、男は彼女に惚れてしまうが、「どこかよくわからない場所で、何時だかよくわからない真夜中に、ぼくは何度目かの失恋をした。」お話。彼は写真家として、また音楽家として評価されている立場にありながら、プータローのような生活をしている。柴崎さんの作品には、このような情けない若者がよく登場する。そして、道筋を示さない結末の付け方も特徴的。人生においてみればほんのわずかな時間の出来事を切り取って言葉にしてみせる技は秀逸で、多分、人生を劇的に変えるわけでもない一瞬の出来事にも、ドラマを見いだすことのできる確かな観察力を持っている作家なのであろう。 (のり) (2007年12月31日) | ||
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本作は2006年、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。また、2007年に第23回織田作之助賞大賞受賞、第136回芥川賞候補となった作品である。当時の芥川賞選評にはこうある。「大阪のミナミという街の今を克明に描写しつつ、喫茶店でウェイトレスをしている28歳の女性の、かつてのミナミの写真になぜか執着する日常を描いて、柴田氏は非凡な才を見せている」(宮本輝)。同様に宮本輝氏が推したのは、青山七恵さんの『ひとり日和』であった。結局受賞の栄誉は『ひとり日和』の上に輝くこととなったが、著者がこの作品で見せた才能は受賞作に引けをとらず多くの読者に颯爽とした印象を与えるだろう。(のり) (2007年12月31日) | ||
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本作は2006年、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。また、2007年に第23回織田作之助賞大賞受賞、第136回芥川賞候補となった作品である。当時の芥川賞選評にはこうある。「大阪のミナミという街の今を克明に描写しつつ、喫茶店でウェイトレスをしている28歳の女性の、かつてのミナミの写真になぜか執着する日常を描いて、柴田氏は非凡な才を見せている」(宮本輝)。同様に宮本輝氏が推したのは、青山七恵さんの『ひとり日和』であった。結局受賞の栄誉は『ひとり日和』の上に輝くこととなったが、著者がこの作品で見せた才能は受賞作に引けをとらず多くの読者に颯爽とした印象を与えるだろう。(のり) (2007年12月31日) | ||
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