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平山書店のレビュー |
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掲載レビュー全609件 |
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郷愁はしばしば罪作りないたずらをする。いったん心に火がつくと、忘れていた年月を埋め合わせるかのごとく、人は何かに衝き動かされるような行動をとることがある。遠い昔の記憶をたどり繋ぎ合わせる作業はしばしば時の経つのを忘れさせる。この作品の著者である小池真理子さんもその例外ではないようだ。ある長編作品の打ち合わせで、同席した編集者が自分と同時代に仙台に住んでいたことを知り、この街について語りあい盛り上がったバーでの一夜が、本作執筆の強い動機になったという。かつて暮らしていた街並みや店、映画館などについて、思い出を共有する人と語り合う愉しさはたまらない。しかし、ほとんどの人は、やがてそれぞれが自分の住処へと帰ってゆき、こたえられない愉しみの時間はそこで終わる。ところが、作家というものはその愉しさを持続させながら執筆し、最後には永久に文学作品として世に残すことができるのだ。読書子はつくづく思う。作家とはなんと羨ましい能力の持ち主なのだろうと。われわれは、普段読書中に作者の執筆中の心境など想像するべくもないけれど、この作品についていえば、はっきりと共感を感じるのである。この後『恋』、『欲望』と続く小池真理子さんの三部作。その劈頭を飾るにふさわしい1冊である。 (のり) (2007年06月30日) | ||
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生活の中にお茶を取り入れてる著者のオシャレなライフスタイルをエッセイ風に書かれた本である。エッセイ風といいながら、しっかりと実用書の面も兼ね備えている。玉露や紅茶、中国茶の入れ方。ケーキ、アップルパイ、パンなどお菓子つくり方がそれぞれの項目、見開き1ページ写真とともに、文章も簡潔にまとめられていて大変見やすく出来ている。お茶を入れるとき、お菓子をつくるとき、ページを捲らなくてもできる。本の作りての工夫が見て取れる。それがとりもなおさず著者の意向だとおもった。うしろのページにはティータイムの花、テーブルクロスやテーブルについてエッセイ風に書かれてして、読後の豊かな気持ちを一層際立たせる。読み終わったあと涼風が心の中を駆け抜けた。 (2007年06月27日) | ||
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2002年みずほ銀行在職中に『非情銀行』で作家デビューした著者江上剛作品のご紹介である。経済小説家としてすでに 確個とした地歩を築かれている著者の作品は、在職中に培った様々な経験に基づいた金融マンたちの生活描写に秀でたものがある。さて、今回の作品は金融庁の主任検査官と民間銀行の広報次長の兄弟が主人公。兄が弟の勤める銀行に検査に行くことから物語りは動いてゆく。引き当て金不足を隠蔽しようとする銀行側と、その闇に挑んでゆく金融庁側のやりとりは、現場経験者ならではのリアリティに満ちている。銀行の実権を握っている弟の上司の専務を中心に、銀行側は必死の抵抗を試みる。本書の特色として、攻防を繰り広げる両方の側の人間が対等に描かれていることである。単純な善悪の観念を超えて、それぞれの仕事を懸命にやりとげる姿勢といったものが、人間味豊かに表されているところはとても好感が持てる。組織の一員として、自分の意に反する仕事に取り組まなければならないサラリーマンの苦渋をあますところなく浮き彫りにし、多くのサラリーマンに共感を呼ぶであろう1冊である。 (のり) (2007年06月18日) | ||
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吉田修一は特異な作家である。その女性の性格描写の芸は、名を伏せて作者を問われた人に書き手を女性だと信じ込ませるまでのリアリティを含んでいる。というのが一般の読著の受ける印象であると思うが、著者はそのことに拘泥することはない。この作品も、すべて「ぼく」の目から見た女性という形で描かれており、一読して作者が男性だとわかる。著者はすべての男性を代表して堂々と女性について述べているのである。その率直さがとても好ましい。本作では11人の異なる女性像が描かれるが、よくもここまで描き分けられるものと、読み手にとってはそれが感心せずにはいられない。この意味で、著者は男性の読者に対しては納得できる共感を、女性に対しては男性から見た女性像の直球勝負のメッセージを投げかけたものといえるだろう。本作は『野性時代』に連載された作品を単行本化したものである(のり) (2007年06月12日) | ||
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数々の著作の映像化(『東京湾景』、『春、バーニーズで』等)で、世間にもその名を知られている人気作家の著者である。著者の名をドラマ原作者として記憶に留めている方も多かろうと思われるが、人気作家としての一面を理解するため、著者が2002年に芥川賞と山本周五郎賞をダブル受賞していることは覚えておいたほうがよいだろう。これら純文学と大衆小説という対極に位置する2つの賞をともに得た事実は、著者の幅広い芸を示すとともに生み出す作品の広大な可能性をも示唆しているといえよう。 さて今回ご紹介するのは、各地の「温泉」を舞台に展開される男女の姿を切り取った、5つの掌編からなる作品である。表題作『初恋温泉』は、仕事も家庭も順調に見えた矢先、別れ話を切り出した妻とその現実を受け入れることが出来ない夫の姿を描いた一編。他の掌編も粒ぞろいである。(のり) (2007年06月12日) | ||
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著者の香納諒一氏は1963年横浜生まれ、早稲田大学第一文学部卒業後、編集者として逢坂剛氏の担当だった時期がある。1990年、第7回織田作之助賞入選。1991年、「ハミングで二番まで」で第13回小説推理新人賞を受賞し、1992年、『時よ夜の海に瞑れ』で単行本デビュー。1999年『幻の女』で第52回日本推理作家協会賞を受賞した。で骨太のミステリ作品が多いが、青春小説も手がけるなど作風は幅広い。 さて、今回紹介する作品は分量、内容共にてんこ盛りの1冊。2段組で600ページ弱の圧倒的なボリュームもさることながら、登場人物たちの背景が異様に濃密。少年猟奇事件の犯人だった弁護士、11歳で米兵を殺害し台湾へ逃れたプロの殺し屋、娘を事故で亡くした刑事、この三人が軸となり物語は進む。ばたばたと主要人物が死んでいき、緊張のうちに犯人に迫ってゆく後半はまさに圧巻。殺伐とした殺し合いのなか、ラブストーリーも織り交ぜられており、殺し屋と刑事の人生観についても上手に描き出している。対極にいる両者がほのかに共感を感じあうあたりは終盤の読みどころといえよう。著者はこの作品で2007年「このミステリーがすごい」第7位を獲得した。(のり) (2007年06月10日) | ||
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著者の大崎善生氏は1957年札幌市生まれ。早稲田大学を卒業後日本将棋連盟に奉職し、長らく編集者としての人生を歩んできた。最初の著作は2000年、ネフローゼと戦いながらA級棋士のまま20台の若さで亡くなった天才棋士の人生を綴ったノンフィクション『聖の青春』である。いきなりこの作品で第13回新潮学芸賞を受賞。翌年には将棋連盟を退職して専業作家の道へ進み、無名の奨励会員を題材に書き綴った、『将棋の子』で第23回講談社ノンフィクション賞を受賞した。当時、編集者から将棋棋士を題材としたノンフィクション作品の執筆依頼が引きもきらない状態だったが、著者は表現の自由を追求したいとのことから小説家へと転進を決意し、2001年、著者初めての小説作品である『パイロットフィッシュ』で第23回吉川英治新人文学賞を受賞、作家デビューを果たし現在も数々の小説作品を世に贈り届けている。 さて、ここまで著者の履歴を紹介してきたのには理由があって、著者の執筆動機と深い関係があるからである。それは、一言で表現すれば”実体無きものの顕在化”であり、著者は、内なる観念を文字化することに大きな意義を感じているようだ。読み手に感動を与えたいなどといったことには興味が薄いようにも見える。本書のような私小説といった形での作品には、その姿勢が最も如実に表れているといえよう。表題作『優しい子よ』についても、いわゆる「泣ける小説」作品であるが、最近食傷気味のこのジャンルの作品群とは一線を画していることに気づく。そこにはやみくもに感情を煽り立てるような嫌らしさはみじんもない。それでもなお泣けてくるというのは、控えめな小説職人大崎善生氏の姿が読者の心に届いたことの証しではないのかと思う。(のり) (2007年06月09日) | ||
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著者の大島真寿美(オオシマ・マスミ)さんは1962年名古屋市生まれ。1992年『春の手品師』で第74回文学界新人賞を受賞。単行本デビュー作は、すばる文学賞最終選考に残った縁で1992年に集英社から出版された『宙(ソラの家)』である。初期は少女を主人公にした青春小説を多く手がけていたが、最近は大人の女性を主人公にした作品も発表しており活躍の場を広げつつある。 さて、今回とりあげる作品は、18歳の美和が主人公。何の展望もないまま、「平和になる」ために高校を中退した美和は様々なアルバイトを経験するが長続きせず、結局お金に困り祖父の経営する銭湯で働き始める。そこで様々な人々と出会う美和だが、相変わらず本人には切迫感などまるでなく脳天気。しかし、美和の友人のライターを追いかけたびたび銭湯に出没していた編集者とふとしたことからつきあい始めたことをきっかけに、自らの能力に気付き、夢を持つようになる。この作品の登場人物たちにはいやみがない。ありふれた光景の中に隠された心遣いを丁寧に掬いあげる技量は、戦慄を感じるほどあざやかだ。特に女性の描き方は秀逸。この作品で星一つ落とした理由は男性の描き方に尽きる。美和の恋人があまりにも好人物すぎてリアリティという面では物足りなさを覚えるのである。恋人との別れの情景はつまびらかにされてはいない。良い意味でのクドさというか粘着力の発揮を今後の作品に期待したいと思う。(のり) (2007年06月09日) | ||
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著者の永井するみさんは1961年東京生まれ。東京芸術大学(ピアノ科)中退後、北海道大学農学部を卒業、コンピューター関係の仕事を経て作家業に入る。そして1996年に『マリーゴールド』で第3回九州さが大衆文学賞、『隣人』で第18回小説推理新人賞、『枯れ蔵』で第1回新潮ミステリー倶楽部賞を連続受賞し作家デビューを果たした、新進のミステリー作家である。 さて今回は、同じブランド子供服「プリムローズ」を身に着けた少女が連続して殺されるという異常な事件を扱った作品である。理想のブランドを追求してデザイナー社長をもり立て、「プリムローズ」の企画・営業を一手に仕切る女性日比野晶子を軸に、この子供服ブランドに翻弄される女性たちの狂気を臨場感たっぷりに演出している。最終、洋鋏を手に単独で犯人に立ち向かう晶子の心に宿る狂気に、読者ははっと気づかされる。何かを守ろうとするときの女性の強さを見事に描き出した作品である。(のり) (2007年06月09日) | ||
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2005年12月の『砂漠』上梓以降、繰り出す作品にいつもの冴えが感じられない印象のある著者は、今回の作品でもその感を払拭できなかったようだ。軽快な台詞回しは確かに面白い。だが全体の構成を見るとかなりほころびが目立つのである。危険が迫っていることを感じながら、その闇カジノを誘拐の人質留置場所にする犯人の行動はなんとも解せないが、その理由についての説明はない。また、終盤で登場する「成田」については、主人公たちを敵のカジノに案内する重要な役目を負っているのだが、その登場の仕方には伏線もなく唐突な印象を拭えない。ストーリーのつじつまあわせのために設定された人物ではないかと疑念さえ抱いてしまう。テンポのよい会話で読者を取り込み、全体の組み立ての不備を煙に巻く今回のようなスタイルは正直言って好きではない。過去の素晴らしい作品を憶えているだけに厳しいレビューをつけさせてもらったが、読書子はこの著者の実力はこんなものではないと信じている。ここで壁を突き抜けるかどうか、著者の真価が問われている時期にあるのだと思う。(のり) (2007年06月03日) | ||
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太平洋戦争を米国兵として戦った日系2世たちを描いた、著者渾身の大長編である。敵国である日本人の血を受け継ぐ日系2世たちに寄せられる敵意や蔑視は凄まじい。彼らは自らが米国人であることを証するため、戦いに参加する道を選択する。国家の危機 をわが身の苦難と受止め、共に一丸となって立ち向かう気概は、今、われわれの国に欠けていると言われて久しい。著者は「人はなぜ戦うのか」という重いテーマに取り組みこの大作を上梓した。戦後の歴史認識の様々な立場を超え、この問題を人間の普遍的な 命題として正面からとらえ描ききったこの作品は、まさに一読に値するといえよう。また、この下巻になると戦闘場面がメインとなるが、実際の戦闘における心理描写も精細でリアリティに富み、読者の心を捉えて離さない。上下巻合わせて1200ページを超える大長編だが、ぜひ手にとって読んでいただきたい作品である。(ノリ) (2007年06月02日) | ||
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著者の真保裕一氏は1961年東京生まれ。動画会社に勤務のかたわら書き上げた『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞した。その後1995年織田祐二主演で映画化され話題にもなった『ホワイトアウト』で吉川英治新人文学賞、翌年には『奪取』で山本周五郎賞を受賞し、一流作家の仲間入りを果たした。綿密な取材力をもとにした写実的な作風には定評がある。今回の作品は、太平洋戦争を舞台とした日系二世の若者たちの群像ドラマである。この上巻ではアメリカで産まれた日系二世の若者たちが、戦争をきっかけに自らのアイデンテティを求めて、それぞれの生きる道を選択し戦いの場へと踏み出す過程が描かれている。自分たちのルーツである日米の間の戦争により、若くして自らの立場の選択を求められ苦悩する姿はまさに上巻の読ませどころ。この3人が後半どう絡んでくるのか、続きが気になる出来栄えである。 戦争中の記述については、著者の取材力がいかんなく発揮されており、日米双方について事実に基づいた的確な内容となっている。分量も相当なもので、上巻だけで600ページを超え、著者の力の入りようがうかがい知れよう。(のり) (2007年06月02日) | ||
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暗黒社会を舞台とした小説の書き手として知られる著者の馳星周氏は1965年北海道生まれ、以前『本の雑誌』において本名である坂東齢人の名で書評を書いていたこともある文芸評論家出身の作家である。1996年『不夜城』でデビューして以来、毎年 コンスタントに著作が刊行されている。今回の作品も今まで同様の作風で、かつてのバブルの寵児から転落し、暴力団に使われる身となっている宮前をはじめとする3人の敗残者の一発逆転を狙った大勝負を描いたものである。この作品も含め、著者の敗者に 対する視線は厳しい。彼らに光をあてるどころか、もがき苦しみさらに深い泥沼に嵌ってゆく姿を淡々と刻んでゆく。最後のほうでは大金をめぐる裏切りが相次ぎ、主人公が誰なのかわからなくなるほど話が入り組んでしまい、焦点がぼやけてしまった感があ る。自分の成功のために組んだ3人の仮そめの団結が、利害の衝突により無残に崩れ去る様にむなしさを感じ、打ちのめされた一冊である。(のり) (2007年05月21日) | ||
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独自の世界観をもつ推理小説家として、また推理作家貫井徳郎氏の妻としても知られる著者の連作小説である。前作「ささらさや」で見せてくれた爽やかな小説世界は、その姉妹編である本作品にも引き継がれ、前作の読者にとっては懐かしい登場人物たちとの再会が愉しい。要旨は宝文堂さんが丁寧なレビューをつけてくださっているのでそちらを参照していただきたいが、感心したのはこの作品が本格推理の構成をとっていることである。それぞれの連作短編に散りばめられた伏線が、最終章で見事に結実する。作品の軸は、照代と久代ばあちゃんの不器用な二人。この二人が次第に心を通わせてゆくと同時に、秘密めいた出来事が次々と起こってゆき、読書欲をいたく刺激される。読後、いつまでもこの余韻から醒めなければいいのにと、心から思わせるものがある1冊。(のり) (2007年05月20日) | ||
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この下巻では、天下を手中にした秀吉が自らの後継者のため苦悩し、次第に心を蝕まれてゆく様子が描かれる。秀吉と淀の方との間に産まれたとされる男子が、実際は秀吉の実子ではなかったという説は歴史上の噂話としてよく知られている。本巻の後半では このことにまつわる陰謀を軸に、策略で世を渡ってきた男が他人の策により取り返しのつかない過ちを犯すという人生の悲哀がなんとも痛ましく感じられる。中小企業でいえば、後継者に恵まれないワンマン社長といった姿と重ねてみることができそうである。しかし全編通読してみて、目新しい虚構が目に付くものの、秀吉や信長といった歴史上の人物たちの従来からの人物像を変えるまでには至らない。前作に比べ印象が弱いのは、ストーリーが重なる部分が大きいところによるのだろう(のり) (2007年05月19日) | ||
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今から2年前、75歳直前で出版された「信長の棺」が、これが著者のデビュー作ながら15万部を超えるベストセラーとなったことは、まだ記憶に新しい読者もいることだろう。著者は長らく経営実務に携わり、そこで培った経験から中小企業経営者の成功の過程が戦国武将の出世の姿と重なることを実感した。そしてそのことが著者の作品を貫くテーマとなっているようだ。さて、本作品は羽柴秀吉を主人公に、この武将が本能寺の変をきっかけに天下の覇者として成り上がっていく姿を通じて、その内面の変化を浮き彫りにする。上巻はストーリー的には前作の焼き直しであるが、成功の過程で秀吉の心に矛盾が生じてゆくさまが胸に迫る。自らを貴族の末裔だと信じ、無益な殺生はせぬとの矜持が、権力を引き寄せるにつれて音を立てて崩れてゆくあたりが本巻の読みどころである。 (2007年05月19日) | ||
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著者の関口尚さんは1972年栃木県生まれ。映画館の映写室でアルバイトを続けながら、小説を書き始める。2002年『プリズムの夏』で第15回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。青春小説を得意とする。今回の作品は著者3作目となる渾身の書き下ろし。本作品で先頃、大人も子供も楽しめる作品に贈られる坪田譲治文学賞を受賞し。トライアスロン大会に挑む3人の中学3年生の友情を感動的に描いた作品。真っ直ぐな子供たちの姿が新鮮。主人公の優太は考える。「なにかをやり遂げることで身につく強さは、いつか大人の歪みをはね返す力になる。友だちを救う力になる。」不器用でショッパイけれど、ひたむきな姿が読み手の心を激しく揺さぶる素晴らしい小説。どの年代の人にも自信を持ってお勧めできる作である。ぜひご一読を。(のり) (2007年03月18日) | ||
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著者の河治和香(かわじ わか)さんは1961年生まれ。2005年『秋の金魚』で小学館文庫小説賞を受賞しデビューした。本作品は2作目となる。幕末から明治にかけて鍼一本で生き抜いた、気風のよい男勝りの女鍼灸師おしゃあの一生を描いた一作。見どころは瀬戸の船乗り庄八との恋模様。ある日、ボコボコに殴られておしゃあの元へ担ぎ込まれた男が庄八であった。船乗りゆえに江戸へは半月ほども戻ってこない。男を待つ身の複雑な女心を江戸の風俗とともにあざやかに謳いあげる。おしゃあを取り巻く脇役たちも華やかだ。庄八を担いできたのがのちの安田銀行の創業者となる善次郎、将軍の侍講にして明治のジャーナリスト成島柳北など、目まぐるしく移り変わる時代の流れに沿って彼らもその職を変えてゆく。明暗激しい激動期の世の中をたくましく生き抜いた市井の人々を主人公に、人生の機微を活写した筆力は2作目とは思えない出来栄えである。今後要注目の新進作家である。(のり) (2007年03月18日) | ||
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著者の小路幸也(しょうじ ゆきや)氏は北海道旭川市生まれ。札幌の広告制作会社に14年間勤務したのち、2002年『空を見上げる古い歌を口ずさむ』で第29回メフィスト賞を受賞しデビューした。現在北海道に在住し執筆活動をしている。さて、今回の作品は下町の老舗古本屋を舞台に繰り広げられる楽しい家族の物語。四世代同居の仲のよい家族の姿は読むだけで、読者の心を暖かくさせてくれる。古本屋にカフェが併設されているという設定も、本好きにとってはこたえられないものがある。まさに理想郷ともいってよい環境が読書家の心をくすぐって、満足感いっぱいの読書時間を与えてくれる素晴らしい一冊。ダイナミックさはないが、ツボを押さえた構成はすぐにでもテレビドラマに転用できそうである。氏のホームページによると本作の続編も構想中ということだから、しばらく目が離せなくなりそうである。(のり) (2007年03月18日) | ||
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2003年の大ヒット作「博士の愛した数式」の前後に発表された小川洋子さんのエッセイを単行本化した一冊である。その中で、「ゼロ」の発見は、「非存在を存在させる」という矛盾を克服した数学上の素晴らしく画期的な発見であると紹介される。そして数学者と小説家は同じ方向を目指しているのではないか、と小川さんは気づく。小説家も「言葉にならないものを言葉にする」仕事だというのである。「世界は驚きと歓びに満ちている・・・」これは「博士の愛した数式」の帯に書かれた一文である。結局、われわれが小説を読んでいて感じるのはまさにこのことであり、この簡単な真実と数学を結びつけた発見は、小川さんの作品群の中でも、飛びぬけた輝きを放っていると思うのである(のり) (2007年03月17日) | ||
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