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渕書店 BOOKSTORE FUCHIのレビュー

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掲載レビュー全104件
 
かがみの孤城
辻村深月/著
ポプラ社
税込価格  1,980円
 
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as strong as possible.
おすすめ度:
学校のリーダー格真田の嫉妬により集団的な迫害を受ける主人公こころは、不登校で閉じこもる自室の鏡からオオカミの仮面を被っている少女が取り仕切る「城」へと誘導される。そこにはこころと同じように心を痛めた不登校の中学生達が集められている −。斜に構えた読者ならば、この物語設定から彼らが仲間となりそれぞれの解決へと向かうという流れを予想するはず。その読みに基本的に誤りはないかもしれません。しかし本作はそんな単純な構造でだけで出来てはいず、いくら読者の察しが良くとも「城」に集められたみんなの関係が明らかになる後半の展開は読めない。強さと限界、現実の過酷さ。友情と理解者、大人の力。つながり。優しさ。愛ー。孤立したこころを通してそれらが切実に読者に迫ります。ファンタジー要素の濃い本作ですが、リアルな心理描写が読者の感受性に訴える共感と肯定感の強い力はファンタジーから地上へとのラインを持つものです。前半からは予想できない終盤の主人公こころの成長。作品読了後読者が得るのは希望という概念です。本屋大賞受賞。 (2018年08月23日)
キレる女懲りない男 男と女の脳科学
ちくま新書 988
黒川伊保子/著
筑摩書房
税込価格  858円
 
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人類がヒト科を地球から絶やさぬため、必ず読むように!!
おすすめ度:
某メーカーの人工知能プロジェクトで働いていた著者。本書では男女の脳の持つ特徴を明らかにし取扱説明書(トリセツ)にしてしまう。なぜ「キレる」?なぜ「懲りない」?そんなもの互いへの関係不全も「トリセツ」があれば大丈夫!・・とばかりにユーモアを込め、毒と薬。著者によれば男女の脳の構造には「脳梁」という右脳と左脳にニューロンを連携させる器官の太さに歴然と違いがあり、それは思考に影響を及ぼす。基盤が違うのだから考え方も違う。すれ違う。クラッシュしても当然・・ということで、それをわきまえず各々の脳に従うだけでは、”彼、彼女の脳(トースター)はどうして、私の求める答え(パン)が焼けず(ご飯)ばかりできるのか?”・・理不尽な問いを立てざるを得ない。ならば割り切ろう。トリセツでお互いのトースター(脳=考えかた)の扱いを覚えよう。うまくいくはず・・。ブラック。ただ、本書には別の面への視点がある。30年ほど前に法制化された男女雇用機会均等法に際し、著者は脳構造を知る者として現代日本の課題の一つ「少子化」への危惧を覚えた。女性は男性型にできてしまっている合理化社会でサバイバルするために女性的な脳を捨てざるを得なくなり、結果として女性の脳だからこそなし得る「猥雑と例外のかたまり(本文)」の子どもを育ててゆく力も消えてゆくだろう、子育てとはそもそも例外だらけの不合理なものであり、合理化されてしまう脳にそれが耐えられるはずがない。というわけだ。30年後の今の状況がそのため生まれてるのかどうかはなかなか証明できないと思われるが、一要因として読者も無視できないかも??ー 読んでいただくためにフォロー ー 著者からの本書でのメッセージは、男女が各々が持つ脳の力を大事にすれば、社会、家庭の場面でそれぞれ適切な力を発揮できる、それこそ大事ということ。曰く、徹底的に合理化されている社会に女性が不向きというわけでもなく、女性的な脳は組織の能力向上のためには不可欠。そもそも、完全な割り切りなど不可能。だから同一性障害の脳を取り上げ「最強の脳(本文)」かもしれないとももらす。さて、女性は大丈夫。では、育メンにおける男性の脳の可能性はどうか?・・そこは書かれていない。ブラック。 (2017年10月09日)
六人の男たち なぜ戦争をするのか?
世界の絵本
デイビッド=マッキー/作 中村こうぞう/訳
偕成社
税込価格  1,320円
 
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「戦争」をシンプルに見つめると・・
おすすめ度:
平和に暮らすことを求める6にんの男から始まります。初めは平和に暮らしたかっただけ。そのはずが、一度かねもちになると自分の 財産の 心配をはじめ だし・・・という戦争がどのようにして起こり最後はどうなっていったのかを描いた本です。戦争がダメだということが分かっても人の欲が大きくなると他人のことを考えにくくなるのだろうかと考えさせられる絵本です。 文責 「リトル本屋」リトラー 松田美琴 (2021年10月19日)
コンビニ人間
村田沙耶香/著
文藝春秋
税込価格  1,430円
 
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人生それぞれ。何が悪い?ゴーゴー!!
おすすめ度:
幼い頃「合理性」という基準で粗暴な行動を起こすなど問題児であった主人公。カウンセリング等も受けたようだが周囲の人間から「治らない」と心配される。いわゆる障害、とされるが知能にそうしたところは全くない。情緒障害とも違う。「合理性」こそが彼女を動かし自分ではどう他人と違うのか分からない。そこにコンビニという「合理性」の塊のような環境が現れる。その環境の中に入ってマニュアルに従っていれば、まとも、普通、正常であるとなんとなく他人から見られることを知り自分でも納得がいくというわけだ。『ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ(本文)』。そこに新しい価値観を突きつけてくる人間が登場する。「婚活」のためというわけのわからない理由で入ってきた35歳の男。縄文時代に自分の不甲斐なさの言い訳などを求めている屈折したさえない男だがこの男と主人公のやりとりがたまらなくおもしろく読んでいてのけぞる。一体二人で何を言い合っているのだろう?と笑いが止まらない。しかし、彼の「指示」に従うことで主人公の周囲が彼女を「仲間」と見做しだす。二人は同棲する。そして主人公はコンビニ店員に自分らしい人間の原型を求めた生き方の「方法」のようなものをを崩される・・・。

主人公の周囲に対する冷めた温度感は読者を妙に安定させる。彼女の生きざまを「障害」とみる見方もあるし、彼女の周囲はそう考えるわけだが−。読み終えた後、主人公が意気揚々と人生を歩んでゆく姿が見えた。何が悪い?ゴー、ゴー!!

(2016年09月04日)
いいね!
筒井ともみ/さく ヨシタケシンスケ/え
あすなろ書房
税込価格  1,100円
 
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このレビューをみつけたあなたにも、いいね!
おすすめ度:
この本は様々な視点のものをいいね!とほめています。一つ一つの内容に主人公がいて共 感できるいいね!や新しい発見となるいいね!など自分の考えを交えながら読むと本をコ ミュニケーションをとっているような感覚になれます。この本を通して世の中の小さいこ とにもポジティブな目を向けることが出来るようになりました。いいね!という言葉を使 えば明るく前向きに自分になれます。このレビューをみつけたあなたにも、いいね!
 文責 「リトル本屋」リトラー 松田美琴
(2021年10月15日)
ガムのようせい
お笑いえほん 1
笑い飯/作 川崎タカオ/絵
岩崎書店
税込価格  1,650円
 
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あきれるほどのハイセンス・・に、違いない!?
おすすめ度:
ガムを吐き捨てた少年の前に現れるガムのようせいによるおもしろおかしい突っ込み感満 載の絵本です。漫才師「笑い飯」が内容を作っておりまるで漫才のような少年とガムのよう せいの掛け合いに思わず笑ってしまいます。個性のある不思議な絵本を求めている方にお すすめの一冊です。 文責 / 松田美琴@「リトル本屋」リトラー (2021年09月27日)
僕は自分が見たことしか信じない
幻冬舎文庫 う−15−1
内田篤人/〔著〕
幻冬舎
税込価格  796円
 
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透徹したあのまなざしは語るー
おすすめ度:
この本は、現役を引退されて、現在はサッカー解説者やスポーツキャスターとして活躍され ている内田篤人氏が現役時代に出版された本である。内田篤人氏はサッカーにおいて華々 しい経歴の持ち主である。また、試合後のインタビューなどでは、いつも飄々としている印 象を私は持っていた。しかしながら、その活躍や姿の裏には、怪我や様々な選択をしていく 中での葛藤や非常に熱い想いがあったことをこの本を読んで知ることができた。この本を 読んで、内田篤人氏の考えに触れ、このような生き方もあるのだと大きな学習になった。  ※ 文責/ 増田ちえり@「リトル本屋」リトラー
(2021年09月26日)
神様の御用人
メディアワークス文庫 あ5−5
浅葉なつ/〔著〕
KADOKAWA
税込価格  693円
 
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狐の可愛さに惹かれて・・
おすすめ度:
私は、表紙に載っている狐が可愛かったからという理由でこの本を読み始めた。ただただ狐 がもふもふしていて可愛いなと思っていたのであるが、実はこの狐が神様であり、物語に大 きく関係しているということを知って驚いた。どのように主人公と関係しているのかは、実 際に本を読んでからのお楽しみである。私は本を読み進めていくうちに、人間と御用を頼ん でくる神様との関係に笑い、感動してしまった。この本はシリーズ化されているため、主人 公と狐神の信頼関係、また物語の中で現れる日本の様々な神様に注目して読み続けたいと 感じた。  ☆☆ 文責 「リトル本屋」リトラー増田ちえり ☆☆ (2021年09月23日)
パンク侍、斬られて候
角川文庫 ま24−3
町田康/〔著〕
角川書店
税込価格  704円
 
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ケタケタと笑ううち顔色を失くす! 町田康・・こわっ
おすすめ度:
この世は条虫(サナダムシ)の胎内。条虫の肛門から外に出て、真正・真実にいたる手段として腹をふる。取り憑かれた宗教集団腹ふり党。狂騒的な音楽が鳴り響き、家並みが破壊され、商家は略奪にあい、放火は続き、血と暴力であふれ死が横溢される。壮絶異次元の時代劇!!・・と、書くと怖いのか、それとも笑いなのか、というところですがー。それはともかくとして、物語中にみる俗塗れで上わべだけの名士たちを中心とした登場者たちによる「思考脱線」「言葉遊び」「ナンセンス行動」に見るこのできる町田的エスプリセンスだけでも読む価値はありそう。主人公は掛十之進。自らを腹ふり党エキスパートと偽り、腹ふり党が現れた際の用心棒になると黒和藩家老内藤に自分を売り込む。内藤は宿敵大浦を貶めるため掛を採用し、なぜだか流れでまんまと大浦は左遷。左遷先は猿回しをするさるまわ奉行・・。万事この調子。だから、そのため、読了するまでこの物語の奥に眠る狂気の全容は見えない。腹を振り続ける狂徒と化した庶民と猿軍団との殺し合い。人はなぜだか宙に浮かび、爆発!むちゃくちゃ笑える。さらにはテーマそのものであった腹ふり党そのものが・・。クレージーな町田脳にしか書けない町田ワールド(ここは読んで下さい)。腹をふる。腹をふる。腹をみんなで一斉に振る。そしてこの不条理世界の中でキラキラと輝く純朴で可憐な謎のヒロインろんと掛との恋の行方は?(ここも読んで下さい)。さあ、Let’sトライ!ザ・町田康ワールド!笑いに彩られたミラクルな世界へ行きましょう!妄想の果て、真実の世界へ!!いやいや・・。町田康さん、こわ。そして、すご。 (2018年09月18日)
「家栽の人」から君への遺言 佐世保高一同級生殺害事件と少年法
毛利甚八/著
講談社
税込価格  1,870円
 
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正直者の最後の祈り
おすすめ度:
人気漫画『家栽の人』原作者の絶筆。2015年著者は癌のため他界。

漫画原作者という顔のいっぽうで、ノンフィクション、ルポライターの顔を持つ著者。多分野に渡るフィールドワークの力が、本書においては自身の少年院の篤志面接官活動等を通し、少年の非行犯罪、それを規定する少年法についてを曇らない眼で書き起こさせる。ライフワークとなっていたであろう思想のさらなる追求。そしてその過程で末期がんの宣告を受ける。

病床で書かれた部分があるのは明らかなため、本書は企画段階と異なるものとなっていったように想像できる。執筆中、佐世保の同級生殺害事件が起こる。

後半部分は事件の加害者少女への手紙というかたちで書き続けられる。思春期より自分が生死に怯えていたことをさらけだし、少年の頃のカエル殺しに始まり、祖父の死、同級生の死と、身近に起きた死を回顧しながら、自らに迫る死を想い、その さなか、贖罪の一つの有りかたを指し示しながら少女へ鷹ようで柔らかい視線が注がれてゆく。そこに、不遜だが幻想的な安らかさを覚える読者もいると思う・・。

「いつもお前は笑ってばかりいるな(本文)」とかつての仕事仲間に言われていた著者。人間が持ち得る善で故人は存在していたのでしょう。
(2016年03月29日)
世界でいちばん美しい
藤谷治/著
小学館
税込価格  1,650円
 
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美しく、せつなく、正しい小説。
おすすめ度:
生きてれば或いは大作曲家になったかもしいせったくん。だが、大人になってすら文字を指で押さえながら本を読み、電車の乗り換えも危うい幼な子のようー。彼の人生を作家になった僕、私である親友島崎君が書き、語る。読み終え、人の正しさとは何かがわかったような気になる。

少年の頃より音楽を志す二人だが、僕は、才能に見切りをつけ道半ばプロを諦め、せったくんは家の事情で音楽の道を閉ざされることになる。だが、二人が音楽を愛することに変わりなく、二人の友情もまた同様である。せったくんの音楽的才能の豊かさを語るエピソードと邪さの微塵もない美しい人間性、彼に惹かれ自然に集まる人々の善たるものにふれ暖かな気持ちになる。

せったくんの純粋無垢さは後半に登場する津々見勘太郎の醜さとの対比で一層輝きを放つのだが・・・・。

美しい。切ない。という形容は本作に誰もがつける気する。だけど繰り返します。筆者はあえて正しいという言葉を使いたくなった。 (2015年06月13日)
とのさま1ねんせい
長野ヒデ子/作・絵 本田カヨ子/作・絵
あすなろ書房
税込価格  1,430円
 
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とのさまのくせに1ねんせいになるのをいやがるな!すでに変−。
おすすめ度:
なぜ、とのさまが、今度1ねんせいになるのか?ひげを生やしてるのに、大きなお城を持っているのに、けらいもたくさんいるのに?さらに、このとのさま、あそび好き。お手玉、昆虫採集、けん玉などなどで毎日遊びふけっている、とのさまのくせに・・・。でも、このお話においてそれが、なぜ?とは、どんな読者も、ましてやこども読者はけしてしない。できない。そうなのだからしかたない−。とのさまは、あそびができなくなると思ったのだろう、1ねんせいになるのを嫌がる。けらいたちは、なんとかしてとのさまを説得しようとするのですが、とのさま、逃げる逃げる。逃げるのもとのさまにとっては追いかけっこにすぎないらしい。では、どうやってけらい達がそんなとのさまを1ねんせいになるように仕向けるか?そこがたまらなくおもしろく、この、あっけらかんとしたコミカルな様子を伝えるのはむずかしい・・・。1ねんせいに上がるとのさまのために、うわばき入れやぼうさいずきんという入学定番グッズに、けらいたちが「とのさま」という縫いこみをしたりする場面などおもしろすぎる。笑ってしまう。でも、全編通しておもしろすぎるから言い足りない思いでいっぱいになる。そもそも絵が笑える。笑える絵。というか、絵が笑ってる。なので、爆笑するには読むしかないわけです。 (2018年06月16日)
ボクたちはみんな大人になれなかった
燃え殻/著
新潮社
税込価格  1,430円
 
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すごい。感動したよ!ー誰かに明るく話せる小説ではないにせよ。
おすすめ度:
中年にさしかかった語り手は偶然起こった出来事をきっかけに自分の青春の頃を「社会の数にカウントされてなかった(本文)」不甲斐ない若者として振り返る。彼は工場でベルコンに乗ったエクレアに向き合うだけの鬱屈とした日々を送る中、求人情報誌の文通欄を通じ一つ上の容貌のさえない女性と知り合う。二人は関係を持つが、それは読者には恋愛にはなぜか見えない。「好きな人ってなんなの?って思って生きてきた」と言う彼女の言葉は彼にとってとてもリアルだし、ラブホの浴槽に浸かりながら地球絶滅をため息混じりに願う彼女もまた主人公にとってリアルだと読める。彼女を好きになる彼にとっては、偽りのない本当の自分をさらけ出せる世界でただ一人の人間がその女性なのだ。社会に翻弄され不安でたまらない彼のそばには、そっけないが優しい彼女による慰めが常にある。はかなく寂しいこのラブストーリーは、語り手による自分自身への告白であり、だからこその正直さがある。憂いある青春ではある。だが、読者は安心して読み進めることができるようにも思う。それは若い彼を、恋愛よりも少し大きなもののように見える愛が支える姿が描かれているからだ。物語背景には小沢健二であるとか、WAVE(昔あったレコード店)であるとか、ホットドックプレス(雑誌)であるとか・・その時々の象徴的な固有名詞が全編に散らばっていて、当時を経験した年代が思いを馳せやすい仕かけもある。時の流れが人間の外見や社会的立場を変える一方で内面を変えることがないのなら、その真実はこの物語の中にあるかもしれない。
(2017年09月30日)
書店主フィクリーのものがたり
ガブリエル・ゼヴィン/著 小尾芙佐/訳
早川書房
税込価格  1,870円
 
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物語をつらぬく、本を読む人々のメンタリティー。
おすすめ度:
とある島に小さな本屋アイランドブックスがある。書店主の名前はフィィクリー。孤独であったはずの彼を“きっかけ”が広げるさまざまなかたちの小さな愛がいくつかのエピソードを持って絡まり、大きな愛の「波」としてを読者に伝える。淡々としたトーンの物語、それは読者の感受性に優しさを伝播するのだが、内容には「交通事故」「捨て子」「海への身投げ」「養女」・・・と社会における平凡ではない局面が存在している。繰り返すが、それにせよ物語は大きくは騒がない。淡々としている。登場人物たち誰もが、教養と知性とに優れた大人であるからだと思う。騒がしい出来事をも冷静に、しっかりと、受け止めることのできる力とでもいうか・・。そしてそれが物語のステージである書店、本というものの周辺に彼らが居るからではないのかと読者に想わせる。そして、人生の棘をも静かなものに置き換える上質なユーモアセンス。フィクリーと少女が運命的に結びつけられる流れは読者を感嘆させる。人生の時間が増すごとに哀愁もまた増えるとしても、それが必ずしも悪いものではないことを本書は語る。 (2016年11月22日)
舞台
西加奈子/著
講談社
税込価格  1,540円
 
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ゆがんだ自意識が笑いを誘う。NY滞在の成長物語 !!
おすすめ度:
主人公葉太は太宰治の『人間失格』の主人公葉蔵に自分を照らし合わせてしまう。つまり、巨大な自意識に翻弄される青年。幼少時から他人に笑われたくないと常に周囲に対しての演技に努めてきた。その背後には大御所作家である父の存在がある。父の存在が葉太に自分の非力さ、自分の持つ現実を思い知らす。葉太は常に自分自身を卑下する精神的な抑圧の中、大人になりきれない。そして、それが高じたはて、自意識の化身だろうか、亡霊が見えるようにもなるー。

初めて訪れたニューヨーク。しかし、彼が歩くと本来ニューヨークが持つであろう魅力は自意識に投射され、葉太の内部へで変形され、いびつにしか映らない。ニューヨークにてニューヨークにいない。いてもいないニューヨーク。そんな感じだ。どこにいても自分しかいない。そこにはあるのは演技だけ。

以上の主人公のありようは作家の無骨なスケッチのような文体≠フような率直な筆致で描かれることで滑稽さを持ち、読者を笑いに誘う。だが、読者を笑わせる主人公の苦悩≠烽サれと並行して読まされることになる。そのうち、彼に対する読者の笑いは同情の方へとどんどん導かれてゆく。クライマックスは言語の通じない見知らぬ街ニューヨークで、全貴重品の入ったバッグを盗まれるというハプニングから起こる。29歳にして「自分」になりきれない主人公の節目。
(2015年02月03日)
はみがきあわこちゃん
ひまわりえほんシリーズ
ザ・キャビンカンパニー/作・絵
鈴木出版
税込価格  1,430円
 
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あわわわわと、泡を吹く読者。この色彩!イマジネーション!!
おすすめ度:
ある日、あわこちゃんはいつものように朝、歯磨きをしている。と、すると、なぜだかいつもと違う現象が起きる!!なんと、あわこちゃんの口から歯をゴシゴシ磨いて出たあわが、マンガのセリフみたいな感じで溢れ飛び出してきてしまう・・・。ぶくぶくぶくぶと、それは広がり大きくなってゆき、街まで飛び出し、街を海のごとく覆ってしまう。さらにさらにと読者のイマジネーションを喜ばせる予想外の光景が展開される。まったくページをめくる手を止めてくれない。泡が海なら当然海につながっている。ほんものの海にあわに乗って出てしまうあわこちゃん。クジラがばったり!結末はここでは避けましょう。何よりこの作家(夫婦で二人でチームになって描いているらしい)の一番の特徴は色、だし、絵具のデコボコが見える筆致だし、セリフまでを筆で描くという絵本の隅々までにおよぶ作品の全体のようすだし、・・・まあ、読者の批評はどうでもいいとしひとまずおいても、読む人は、それぞれのことばを使ってこの作品をほめると思う。1ページごとが部屋に飾れるような完成度。少しむずかしく本書を語れば、絵本の要素、まるごと、を使っての表現(ことば、本そのものの大きさとカタチ、色、筆致、レイアウト、セリフ、物語構成・・・etc)が、これまでに触れたことのない新鮮さを持って読者を迎えてくれると思う。むずかしく言わなければ、あわこちゃんの口から飛び出して街に広がり海に同化するあわみたいにすごいのである。
(2018年04月20日)
草間彌生、たたかう
ワタリウム美術館/企画 草間彌生スタジオ/協力・監修
ACCESS
税込価格  2,530円
 
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偏愛ゆえにでいい。「草間彌生は、凄い。」と言いたい。
おすすめ度:
今や、自身の美術館すら持つ日本屈指のアーティスト草間。彼女は幼い頃より目の前に常時ドット(水玉)が見えるという強迫に苛まれ続けた。創作の根源にまずそれがあるー。本書は、そんな草間氏における、ニューヨークでの活動と名声を伝えるもので、作品、本人の写真、フライヤー、批評記事、当時を回顧する本人のコメント、文章などを収めるコンパクトなもの。時は、美術界のメジャーシーンがパリからニューヨークへと移る節目。戦後の暗い世相もあり、閉ざされた少女時代を過ごした彼女の胸にあったのは、遠い世界に住む人々との、作品を通じての心の交流への渇望であった。アメリカの有名女性画家との文通を機にして、取り分け保守的だった家柄で猛反対する母親を8年に渡り説得して出国。年齢28。ファンなら喜ばないはずはない貴重な一冊だと思うが、作品は知れど、若き草間氏の写真を見るのは初めてという読者は、今のクールさとは別な、タイトなかっこよさに打たれると思う。寝ても冷めてもアトリエで、「網目」「水玉」を描いていたために、それがキャンバスからはみ出し、家具や床、壁、そして自分の体にまでそれを描いてしまう。その過程で幾度も救急車に載せられ、病院から「また、あなたですか?」とあきれられたという。その他も興味深いエピソードが多く読める。彼女の個展に遊びにきたウォーホールが、「ワーオ、ヤヨイ、これ、なーに?」「素晴らしい」と叫び、その後、シルクスクリーンで刷ったポスターを天井や壁一面にびっしりと埋める作品を発表したくだり。彼の作品作法の一つである「常同反復」がどこから出てきたのか考えさせられる(草間氏は「(ウォーホールによる)真似だった」と語るが)。やがて表現は、時代に拮抗する政治色やタブーの解放という色合いを帯び、当時のニューヨークでブームとなった「ハプニング」でアメリカ社会における存在を決定的とするのだが、日本ではスキャンダラスなものとしてしか受け入れられない。まさに芸術家としての人生しかありえないだろうと思わせる草間氏の若き日の「生の格闘」の刻印。表紙に写る少女の面影を残す草間氏はなんらかの眩しいものに負けじと一点を見つめている。その先に今の草間彌生があるというわけか?しかし、本書は2011年に刊行されたにも関わらず未だ初刷のみ。つまり、日本ではまだまだ草間彌生はゲテモノ扱いなのである。
(2018年04月14日)
深読み日本文学
インターナショナル新書 016
島田雅彦/著
集英社インターナショナル
税込価格  836円
 
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スマートでポップな文学論+α。と、「深読み」する。
おすすめ度:
近代文学を中心とした日本文学論。ポップな感覚でスパスパと作家と作品が論じられる。日本文学の母胎を『源氏物語』として、本書の深読みは始まる。光源氏を「天皇に見立てる」宗教学者中沢新一の読みを援用し、それは藤原氏による政治戦略であり、はては 〜『源氏物語』は天皇のためのポルノグラフィーであったとも言えるでしょう(p28)〜。と・・。まあ、言いきり?ザッと食い荒らすと、『枕草子』は「ガールズトーク(本文)」。樋口一葉は自由民権運動の最中フィクションの中で社会的弱者を解放した作家。漱石など近代文学作家達の作品は、日本の近代化において「自我と超自我が苦闘した歴史」であり(ちなみに村上春樹の「超自我」に当たるものはアメリカだとする)、ライトノベルのキャラクターと「西鶴、近松などの江戸時代の本の挿絵」に類似性を見、世界に愛される谷崎潤一郎にいたっては、冒頭の『源氏物語』から日本文化に通底してゆく「色好み(本文)を西洋的解釈で作品に昇華した圧倒的なスケベ(本文)」となる。また、『日本風景論』『代表的日本人』『武士道』『茶の本』が近代国家成立に不可欠なナショナリズムの土台となったとか(ナショナリズム=人類の麻疹というアインシュタインの言葉もサラリとふりかけてる・・)、疑念なく中上健次が近代文学を終わらせたとバシリ!と決める。あまりの豪速球に熱心ではない読者のミットにも収まる。さらに、現代文学の世代間確執という主題を「父親殺し」と表現したりと、とにかく過激にせよわかりやすい。シニカルとユーモアが混じる軽快なトーンが説得力を持ち「文学」を伝える。もろもろと書き出してもしかたがないのだが、最後に『農業革命』『産業革命』に次ぐ、人類の歴史における第三の革命である(らしい)『情報革命』の中でどんな文学が生まれてゆくか?人工知能と人間の対峙は?という点まで行き、本書は終わる。終わるのだが、本書を読み終え「あれれ・・」と思ったのは、本書が文学論でありながら、日本を主題とする「エッセイ」という印象があることで、そういう角度で本書を見渡せば、日本の「文化」「伝統」「国際的位置」「社会構造」などが、著者視点でスパスパなのである。ポップ表現と知性の間柄が本書でなんとなくだが分かる。 (2018年03月23日)
中をそうぞうしてみよ
かがくのとも絵本 knowing how
佐藤雅彦/作 ユーフラテス/作
福音館書店
税込価格  990円
 
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想像力爆発のために周到に用意された写真絵本
おすすめ度:
おもしろい。そして制作者の、この写真絵本にこめた深い意図を感じる。とても言葉でまとめ上げることなど読者の力では不可能。或いはいくらでも本書を評することはできるが、多分そのスキームをするするするするといくらだって360°の方向へとふらふら逃げていくに違いない。〜イスに打ち込まれイスを支えてる釘がイスの中にどう打ち込まれているか?針山に突き刺さっている針がどのように針山の中に突き刺さっているのか?ブタの貯金箱の中でコインはどのように眠っているか?・・・等々、ページをめくるごとに登場するモノの中身を、想像してみろという問いとその答え。とてもシンプルなQ &A集。人が目に見えないものを想像する力をひそかににくすぐる。読者は、これを奔放な想像力を持っているであろう子供が読めば、本書の答えとは全く異なる別の答えを、大人が納得せざるを得ないものとして提出しそうな気がする。そして、微笑ましく思いそうだし、驚愕しそうな気もする。これは製作者側も意図できない、いわば想像力爆発の瞬間との出会い。仮にそうだとすればそれは読者が本書を語ることができるはずはないのである。
(2018年03月02日)
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること
講談社現代新書 2431
河合雅司/著
講談社
税込価格  836円
 
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数字に炙りだされる酷薄の日本!夢をとじて、夢をはじめる。
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本書は、まず、いかんともしがたい数字(「内閣府報告書」「国土交通省」「経済産業省」「国立社会保障・人口問題研究所」「国勢調査」等に拠る)をもとに、人口減少が招く日本の未来像を描きだす。ぼんやりしてるといつのまにか現実に、というインパクト。2018年から6年後に3人に1人が65歳以上(「超・高齢者大国」)、死亡率が出生率の2倍となるのも2024年・・ごく数年後の現実が時間とともにー。さらにどうなる?どうも今のままでは地方衰退、東京一極集中、日本の疲弊は止まりようがないよう。いずれにせよ読者それぞれが暮らす地域に起きるとされる負のイメージは相当にシビア。逃げ場などないという印象。第二部で展開されるのは、そんな負のイメージを払拭すべく著者が挑んだ「処方箋」の提示だが、人口減少→労働力不足を問題視した回避手段として、外国人労働者、AI、女性、高齢者という読者などもよく見聞きする問題解決のためのキーワードをあげるも「4つとも決定的な切り札とはなり得ない(p159)」と、それらが持つ難点を説き、浅はかな期待の表面を掘り下げる。では?と読者が困りはてるところに、本書が書かれた動機とも思える直球をよこす。変えねばならないのは人口減少化ではなく、マンパワーを要する「発展途上型ビジネスモデル」での成功イメージにこそあり、それを「戦略的に縮める」という方向に転換すべき、と。年齢定義の変更、居住・非居住エリアを決めることでのインフラ節減、都道府県の地理的線引きにとらわれない飛び地合併での財政担保、大学連携型CCRC・・・ページをめくる手を幾度も止めさせるアイデアが続く。本書を読んでいくと地方創生という言葉の意味も再考する必要性があるように思う、それがただ単に中央を追うという思い込みのものであればだが− 。何はともあれ日本がどう変容してゆくことが幸福なのかを読者自身が見つめ直す契機となる可能性を持つし、著者によるドラスチックな変革方法を全て受け入れることだけが正しいのだという読み方をする必要もないとも思う。つまり、受け取り方は読者次第だと思うが、この、相当に困った未来予測は警鐘となり、現実を律し想像力を育むという点で功績を持つものだと思う。  
(2018年02月05日)

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