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裸々虫記

講談社文芸文庫 ふA17

出版社名 講談社
出版年月 2025年11月
ISBNコード 978-4-06-541396-8
4-06-541396-6
税込価格 2,420円
頁数・縦 266P 16cm

商品内容

要旨

虫とは漢和辞典によれば動物の総称。獣は毛虫で、鳥は羽虫、亀の類は甲虫に。毛にも羽にも甲にも包まれていない人間は、裸虫、となる―。一九八〇年代なかば、高度経済成長から安定成長に移行した日本社会で起きる、様々に奇妙な出来事。豊かさに向かい蠢いてきた人々が、すでに翳が覆っているのに目を背け躁ぐ姿を、作家の視線は鋭く射抜く。躁ぎの奥底に潜む本質を浮かび上がらせ描く、エッセイの極致、二十四相。

目次

無言の電話
隣の信長
虚栄のはて
一寸前は小児
火の用心、紳士たち
転びやすき男たち
サドの潤み目
分裂と分別と
徳政令、いまひとたび
ウスザケとマチガイと
日高くして、道は詰まり
午さがりの振れ
ネクタイとシャンデリア
往ね、往ね
淵への静かな行進
あぶな虫
いつまでも若く
物忘れと知ったつもり
個性の行く末
大部屋としもたやと
とりとめもなきもの
われらは聖人以上か
もしも無常迅速を
ロックを突っ張り

出版社・メーカーコメント

日本は高度経済成長も終わっていたが、反面で国際的な責務を果たせと要求されるようになり始めた時期、奇妙な事件や出来事がメディアで賑やかに報じられていた。ふと目に留まったものを手がかりにして、古井由吉の思考と文章はうねるように展開する。純文学の代表的な作家と目され、代表作となった長篇小説『槿』により谷崎潤一郎賞を受賞して間もない古井由吉が小説雑誌で連載を始めたものが、単純な時事エッセイに納まるはずはなかった。日常の底に埋もれている人間の「業」を言葉によって鋭くえぐりつづけるものとなった。なお、「裸虫」とは人間のこと。「裸」を重ねて「裸々」とし、「ララ」と訓むことですこしでも人間の営みを楽しく書いていこうという試みだった。

著者紹介

古井 由吉 (フルイ ヨシキチ)  
1937・11・19〜2020・2・18。小説家。東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了。大学教員となりブロッホ、ムージル等を翻訳。文学同人誌「白描」に小説を発表。1970年、大学を退職。71年、「杳子」で芥川賞受賞。黒井千次、高井有一、坂上弘らと〈内向の世代〉と称される。77年、高井氏らと同人誌「文体」を創刊(80年、12号で終刊)。83年、『槿』で谷崎潤一郎賞、87年、「中山坂」で川端康成文学賞、90年、『仮往生伝試文』で読売文学賞、97年、『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞。長年競馬を愛好したことでも知られる。また、東京・新宿の酒場において2000年11月から10年4月まで10年あまり計29回、毎回ゲストを招いて続けた朗読会でホスト役を務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)