• 本

張込み

改版

新潮文庫 傑作短篇集 5

出版社名 新潮社
出版年月 2001年8月
ISBNコード 978-4-10-110906-0
4-10-110906-0
税込価格 880円
頁数・縦 451P 16cm
シリーズ名 張込み

書店レビュー 総合おすすめ度: 全3件

  • 着想の意外性と巧みなストーリー展開

    犯罪を主題にした松本清張の初期の短編集。
    いずれも、着想の意外性にまず驚き、それに引きずられるようにして、読み進められます。
    場面転換がスピーディで合理性もあり、簡潔明瞭な文体は本来短編小説が得意な作家であることにあらためて気づかされます。
    著名な「張込み」や「地方紙を買う女」は然ることながら、とくに「顔」をお勧めします。
    犯罪者の心理描写が見事なうえに、ストーリー展開が巧み。
    読後、思わずひざを叩いてしまいそうなくらいに納得。
    快感が得られます。

    (2009年6月29日)

  • 人生のドラマをぎゅっと凝縮した短編にこそ、たっぷりの読み応え

    長編に誉れ高い清張作品だけれども、濃密な短編もすこぶる面白い。
    なかでも「傑作短編集(5)」のラインナップは、かなりお買い得なセレクション。
    妾の子を始末しろと迫る妻と実行する夫の顛末を描いた「鬼畜」、心中を装って男を殺害しその行方を知ろうと新聞を購入した女の姿を描いた「地方紙を買う女」、暴力夫を殺害した妻に正当防衛が認められ執行猶予が付いた「一年半待て」などなど8編。いずれ劣らぬ犯罪小説である。
    清張初期の作品集なので少々の時代感覚のズレはあるのだけれど、今もなお十分に読ませるのは、そこに人間の深淵が描かれているからだろう。犯罪はもちろん残酷であり、悪人は悪人に違いはない。けれどもそこに彼らの逡巡や後悔、狡さや滑稽さ、怖さを見ると、これが人間のドラマなのだと思わずにいられない。正直かなりぞっとしますよ、これは。


    (2009年6月25日)

  • こういう小説を面白い読物と云うのだろう…

    松本清張の作品は短篇が好き。
    犯人探しでない物語が好き。
    社会の片隅に生きている庶民の人生のほんの一コマが読者の胸に迫ってくる。
    読み終えると、長編では得られない人間の喜怒哀楽が、ストレートに頭の中にいっぱいになる。
    ふーっと一息吐く思いを味わえる。

    「張込み」は、私は30才代で読み、50才で読み、今また読んでみて、最終頁で読者をすっと突放すところに、この作品の良さを発見した。
    これが平成の今書かれていたら形は全く変わっていただろうし、こんなに余韻が残っただろうか。新幹線もない、インターネットもケータイもない時代に書かれているので、物語の流れが程よいテンポで、ひとつひとつ心の中にしみわたる。今もこういう張込みをやっているのだろうか。
    行間から来る想像の気分が心地良い。

    本書の収められている「顔」「声」「地方紙を買う女」「鬼畜」「一年半待て」、いずれも社会の底辺に生きる人間の、ふとした人生のつまづきとか汚点が、一生を支配する姿を、たくまずして読者の心の中に共感と、そして余韻を残すものばかりである。

    こういう小説を面白い読物と云うのだろう。そこから読書は始まる

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    (2009年6月25日)

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