• 本

西郷札

改版

新潮文庫 傑作短編集 3

出版社名 新潮社
出版年月 2003年10月
ISBNコード 978-4-10-110904-6
4-10-110904-4
税込価格 935円
頁数・縦 479P 16cm
シリーズ名 西郷札

書店レビュー 総合おすすめ度: 全2件

  • 松本清張というと長編で少しとっつきにくいイメージがあったが、本作は長いものでも60ページ、短いものなら20ページほどの短編ばかりでサクサクと読み進められる。
    表題作の「西郷札」では、この短編の中によくこれだけ詰め込んだなというほど様々な思いを抱いたたくさんの人が出てくる。
    お金欲しさに全財産を投げ打ち絶望を迎えた人や、妻を愛するあまりその義理兄をも憎悪し騙した人。周りに振り回されるような形で罪を被らされ最悪な状況に立たされた人。
    どの人もそれぞれに人間らしく温かいところや醜いところがあって、物語の展開はもちろん、その心の動きも気になり、あっという間に読めてしまった。
    終わり方は読者の想像に・・・という感じだが、文脈からそれとなく想像できてモヤモヤすることはないが不思議な気分になる話だった。
    厚めの本だが、すぐに読めてしまうので一度手に取ってみてほしい。

    (2009年6月25日)

  • 西郷札、西郷隆盛を崇める神社のお札か?勘違いされる方もいらっしゃるかもしれない。実際に山形県鶴岡市には西郷神社がある。親藩の大名酒井氏が戊辰戦争で官軍と戦い、敗北後どのような咎めがあるかと思いきや、余りにも寛大な計らいに感激し西郷さんの計らいによると、西郷神社を建立した。前置きが長くなった。西郷札は明治、西南戦争の田原坂で負けもはや政府軍と西郷軍の雌雄が決したとされる頃、宮崎県あたりで出回った、西郷軍の軍票のことである。その西郷札に関する事件が古文書を通して語られる。そこに語られる物語は兄妹の戦争によってもたらされたその後の境涯や、一攫千金を当てようとする山師。兄妹の情に嫉妬して落とし入れようとする高級官僚。などそこには、すでに社会派といわれる著者のタッチが伺われる。最後の結末は読者に委ねる格好になっている。史実か物語かそのはざ間で想像逞しく出来る秀逸。文字も大きく読みやすいようになり。ぜひよんでいただきたい。

    (2009年6月25日)

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おすすめコメント

時代小説の第1集。西南戦争の際に薩軍が発行した軍票をもとに一攫千金を夢見た男とその破滅を描く「西郷札」。江藤新平の末路を実録的に描いて、同じ権力機構内にいるものの軋轢、対照的な勝敗を浮びあがらせた「梟示抄」。幕末に、大名、家老、軽輩の子として同じ日に生れた三人の子供が動乱の時代に如何なる運命を辿ったかを追及した「啾々吟」。異色の時代小説全12編を収める。