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平山書店のレビュー

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掲載レビュー全609件
 
八月の路上に捨てる
伊藤たかみ/著
文藝春秋
税込価格  1,100円
 
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おすすめ度:
2006年第135回芥川賞受賞作。著者の伊藤たかみ氏は1971年兵庫県生まれ。1995年早稲田大学在学中に『助手席にて、グルグル・ダンスを踊って』で第32回文藝賞を受賞し作家デビューを果たす。直木賞作家、角田光代さんの夫である。受賞歴からは純文学作家としての顔と、大人から子どもまで幅広く楽しめる作品の書き手としての二つの顔を覗かせる器用な書き手である。この受賞作については世間の評判も含めて論評は尽くされた感があるので、ここでは触れないが、純文学作家の中では比較的分かりやすい文章を書く部類に入るだろう。受賞歴にひとつ区切りがついたいま、今後どのような方向を目指すのか、注目される作家である。(のり) (2007年11月24日)
チンギス・カン “蒼き狼”の実像
中公新書 1828
白石典之/著
中央公論新社
税込価格  836円
 
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著者の白石典之氏は、1963年群馬県生まれ。筑波大学大学院、モンゴル科学アカデミー客員研究員などを経て、現在新潟大学助教授。専攻はモンゴル考古学の気鋭研究者である。考古学の世界では文献と物証、二通りのアプローチ法があるという。そのうち、主に発掘による物証側からの解明を試みたのが本書の狙いである。一読していま、われわれが抱いているチンギス・カン像というものは、後世の人々がつくりあげたイメージであることが分かる。質素な食事、そして飲酒は毒と戒めるような堅実な人柄だったようだ。文献で立てた仮説を発掘で裏付ける、この両面からの手法は、考古学のみならず現代の人間理解の場面にも必要なことなのでなないだろうか。(のり) (2007年11月24日)
名もなき毒
宮部みゆき/著
幻冬舎
税込価格  1,980円
 
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2007年 第41回 吉川英治文学賞受賞作。もはや紹介するまでもないが、著者の宮部みゆきさんはミステリー小説の大家。このところ時代小説の著作が続いていたが、2005年に上梓された『誰か』以来、現代小説を再び描き始めた。今回の作品は、この『誰か』に登場する大企業の社報編集員杉村を主人公とした作品であるが、両作品の間にストーリー的な関連はあまり無い。さて、本作品は普通の暮らしに潜む「毒」をテーマにしたものであり、主人公杉村の満たされた家庭と加害者達の恵まれないそれという、対照的な姿が特徴的である。物語は杉村の視線で語られる。事件の当初、杉村は加害者の心理にまで理解が届かないが、自ら被害を受けることで人間の「毒」の存在に気づき始め、次第に本来の事件の真相へと近づいてゆく。このあたりの話の構成力はさすがに素晴らしい。幸せに満たされた人間とそれを求める者の対照の妙、強烈な存在感をもつ社報編集部の問題アルバイト原田を狂言廻しに仕立て、人間の「毒」を浮き彫りにする手法の鮮やかさ。まさに手だれの一品。じっくり鑑賞していただきたい1冊である。(のり) (2007年11月22日)
劫火 4
激突
講談社文庫 に28−7
西村健/〔著〕
講談社
税込価格  1,100円
 
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シリーズ最終章、オダケン、銀次、一徹の三人がついに集結。舞台を都庁に移し、ロシアンテロリスト達との死闘が繰り広げられる。訓練された戦闘マシンのテロリスト達を、一介の民間人の三人がばったばったとやっつけていく姿はまさに痛快の極み。この愉しさを誰でもいいから伝えたい衝動を堪えながら読み進める至福のひととき。とりわけ、超人的な馬鹿力の持ち主である一徹の攻撃シーンは、その愚直なまでのストレートなアタックにたまらなくスカッとする。読書子のイチオシキャラがこの一徹。殺伐とした戦闘の最中、ユーモアを感じさせる愛すべき人物である。エンターテイメントとしては最高の出来。自信を持っておススメしたい作品のひとつである。(のり) (2007年11月22日)
劫火 3
突破再び
講談社文庫 に28−6
西村健/〔著〕
講談社
税込価格  806円
 
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さて、このシリーズも後半戦に突入。今回の目玉は、大喰らいの巨漢探偵(身長165cm、体重165kg)”一っちゃん”こと大文字一徹。小倉の広岩親分から預けられたのは9歳の子ども。だがこの子ども、銀行コンピューターシステムを構築した父親から託されたある物を持っている。システム侵入の鍵となるこの持ち物を狙い、”日本伐採”作戦の命を受けたCIAのエージェントがマークする。このエージェント、いつのまにやら一徹たちの飲み会の輪に取り込まれてしまい、彼らへの親近感からか自分の使命を忘れそうになったり、恋人の下へ帰国することばかり考えていたりと、けっこうドジな仕事ぶりは笑える。これら個性豊かなキャラが集結する東京では、一体何が起きるのか?興味は尽きない1冊である。(のり) (2007年11月18日)
劫火 2
大脱出
講談社文庫 に28−5
西村健/〔著〕
講談社
税込価格  806円
 
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2巻目は無類の体力の持ち主、サンカの末裔、志波銀次が主役を張る。政府の追跡をかいくぐり、古都金沢の街中を駆け巡る銀次。しかしそこに、かつて銀二に兄を殺された凄腕の冷酷テロリストが絡んでくるから事態は二転三転ややこしいことに。息も就かせぬノンストップアクション、本巻はまさに追いかけっこの醍醐味を存分に堪能できる1冊。このシリーズ巻を追うごとに面白くなってくる、そんな期待感たっぷりの巻、どうぞお楽しみくだされ。(のり) (2007年11月18日)
劫火 1
ビンゴR
講談社文庫 に28−4
西村健/〔著〕
講談社
税込価格  785円
 
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著者の西村健氏は1965年福岡県生まれ。1996年『ビンゴ』で作家デビューし、今までアクション性の強いエンターテイメント小説を中心に活動を続けている。今回の出版は、2006日本冒険小説協会大賞受賞作(講談社ノベルス)の文庫化作品である。今回の主要な舞台は北海道の小樽。携帯核爆弾を所持したロシア人テロリストと遭遇した新宿ゴールデン街のバーマスター小田健は、仲間を傷つけられたことからこのテロリスト達を追跡する。この巻のクライマックスは北斗星車中でのバトル。アクション満載の第1巻、その他巨漢の探偵「一ちゃん」、政府からマークされている危険人物の「銀次」など個性的な登場人物たちが脇を飾る。まさに読み応え十分のシリーズ開幕である。(のり) (2007年11月15日)
落語娘
永田俊也/著
講談社
税込価格  1,760円
 
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著者の永田俊也氏は1963年横浜生まれ。2004年『ええから加減』でオール読物新人賞を受賞。同年、講談社から刊行された落ちこぼれ高校映研の活躍を描いた『シネマ・フェスティバル』でデビュー。本作はそれに続く単行本2冊目の作品である。主人公は修行中の前座女性落語家。落語界の異端児と呼ばれる師匠と共に、語った者は死に見舞われるといういわくつきの噺を40年ぶりに上演しようと奮闘するお話である。他の落語家から異端扱いされ、毛嫌いされても崩れない師弟愛は本作の読みどころ。近年落語ブームといわれているが、こういう気持ちのよい作品がもっと注目されてよいと思う。(のり) (2007年11月14日)
大統領の最後の恋
CREST BOOKS
アンドレイ・クルコフ/著 前田和泉/訳
新潮社
税込価格  3,080円
 
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おすすめ度:
著者のアンドレイ・クルコフ氏は1961年レニングラード(現在サンクト・ペテルスブルグ)生まれ。現在はウクライナで執筆活動を行っている小説家である。氏の作品の邦訳はこれが2作目で、最初に邦訳された『ペンギンの憂鬱』は世界20カ国で翻訳され氏を一躍有名作家に押し上げた作品である。さて、本作は前作を上回る出来。ウクライナ大統領の青年期、壮年期、老年期の3つの話が並行して進む。それぞれのエピソードはたいへん短く、全部で216章に分かれている。ところどころ伏線が散りばめられていて、本の中盤以降それぞれの話のつながりが分かる仕掛けになっている。主人公の孤独な内面を浮き彫りにする描写は、グロテスクな東欧の風景と相まって読み手に強い印象を与えるのである。600ページを超える大作だが、短いエピソードの連なる形式をとっているために読みづらさは感じない。むしろ、3つの話がどうつながるのか、逆に興味深く取り組むことが出来た1冊である。(のり) (2007年11月14日)
わたしの知らない母
ハリエット・スコット・チェスマン/〔著〕 原田勝/訳
白水社
税込価格  2,090円
 
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著者、ハリエット・スコット・チェスマンは、現在アメリカ・カリフォルニア州在住。本作品が3作目の小説で、初の邦訳となる。認知症をわずらう老婆の頭の中は時空を越えてさまよう。その言葉を追ううちに、読み手は老婆がナチスの迫害により両親と妹を奪われたことへの深い悲しみを抱いていることを知る。老婆の認知症はかなり進行していて、思考は乱れ言葉は失われつつある。それでいて文章が受け入れやすい感じを与えるのは、全体を流れる暖かな風景の描写や、それぞれ個性あふれる孫娘たちの描きわけが優れているからだろう。認知症という状況のなかで、記憶とは、家族とはこんなふうに頭の中に浮かんでくるものかと、迫真の描写の数々。こういう素晴らしい書き手を発掘した白水社の皆さんと、美しい訳文を仕上げてくれた原田勝氏に深く感謝する次第である。(のり) (2007年11月11日)
ボトルネック
米沢穂信/著
新潮社
税込価格  1,540円
 
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著者の米澤穂信(よねざわ ほのぶ)氏は1978年岐阜県生まれの推理作家。若者を主人公にした青春ミステリ−ものを多く手掛けている。今回の作品は、福井の東尋坊で気を失い、目覚めるともう一つの世界に居ることに主人公男子高校生が気づくところから始まるSF的なミステリ小説である。内容は暗く、元の世界には居ないはずの姉を通じ、人間の無力さや嫌らしさを浮き彫りにしていく。落ち着いた筆致は安定感を感じさせるものの、この内容の重さにはややハードに感じるかもしれない。読書子的には苦手なSFものということもあり、読後達成感と同時に軽い疲れを感じた1冊である。(のり) (2007年11月11日)

深谷忠記/著
徳間書店
税込価格  1,870円
 
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著者の深谷忠記(ふかや だだき)氏は1943年東京生まれ。推理作家として数々の著作があるが、最近は名作『審判』に代表されるように社会派ミステリーを中心に作品を発表している。さてこの作品は、社会の害毒ともいうべき憎たらしい人物を殺人事件の被害者に仕立て、「どんな人間にも存在している価値がある」という有名な美句に対する挑戦がテーマとなっている。読書子もこの被害者の生前の憎憎しげな姿をみて、小説の中とはいえこの世から居なくなったらどんなに爽快なことか、と思いつつ読み進めた。しかし、実際事件が起きてみるとひじょうに後味はよくない。テーマの重さ、というのであろうか、読後胸が押しつぶされる思いがしたものだ。結局、これが『毒』なのか。著者の狙いにまんまと嵌っていたようである。(のり) (2007年11月10日)
さよなら、日だまり
平田俊子/著
集英社
税込価格  1,650円
 
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2005年、『二人乗り』で野間文芸新人賞受賞後第1作目の小説作品である。前回の作品では濃密な心理描写で他人の心の内を手に取るように見せてくれた著者であるが、一転して今回の作品は、登場人物のセリフ中心に物語が構成されているのが特徴である。前半は4人のセリフが絡み合い、その親しげな様子が楽しそうに描かれる。その関係は一夜にして一変、夫から一方的に離婚を宣言された妻は、占い師とその女友達の行動に疑問を持ち始める。夫の離婚宣言以降は弁護士を介した間接的なやりとりが中心で、広がる夫婦の距離感に胸の痛む思いがする。何気ない日常に潜むあやうさを巧みな構成力で描いた本作は、ラスト、夫と暮らした部屋を出るとき窓から差し込む冬の暖かい日だまりを思う、そのあまりにも哀しい結末に強い印象を感じさせられた1冊である。(のり) (2007年11月10日)
三年坂 火の夢
早瀬乱/著
講談社
税込価格  1,760円
 
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2006年第52回江戸川乱歩賞受賞作。この歴史あるミステリー小説の新人賞を受賞したのは、本賞2回目の応募で射止めた早瀬乱(はやせ らん)氏である。著者は1963年大阪府生まれ。2004年『レテの支流』が日本ホラー小説大賞長編賞佳作となりデビュー。本書が2冊目の単行本である。物語の舞台は明治時代の東京、学生を中途でやめ、東京から故郷へ戻った兄の不審な死に疑問を持った弟の実之は、一高受験のための予備校通いを口実に上京し。勉強と調査に明け暮れる。坂に注目した着点も斬新で、頻繁に登場する地名はさながら東京ガイドブックのようである。ただし、その豊富な説明がストーリーの流れを鈍重にしてしまった感があり、この点やや読みづらさを感じたことは否めない。最後まで先の読めない展開が、次のページをめくる手にもどかしさを感じるほど夢中にさせるものがあっただけに惜しまれる。(のり) (2007年11月10日)
エバーグリーン
豊島ミホ/著
双葉社
税込価格  1,540円
 
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著者の豊島ミホさんは1982年秋田県生まれ、読書子と同じ県南の出身である。彼女の描く田舎の風景は、なじみ深いものを感じるのでいつも新作を読むのを楽しみにしている作家の一人である。さて、今回の作品は雪深い田舎と東京が舞台。中学校の卒業式で10年後の再会を約束したシンとアヤコが再び出会うまでを描く。シンはアヤコが漫画家として活躍していることを知り、自分も夢だったミュージシャン活動をもう一度再開させようとジタバタしたりする。一方アヤコは生まれてから一度も彼氏と付き合ったことがないこともあり、濡れ場が描けないという漫画家としての壁に直面する。このあたりの情景は、冬、日がさすことのない田舎と、都会に取り残された者が感じる閉塞感をまざまざと感じさせる。この状況をどう切り抜けてゆくのか、詳しくは本文をぜひお読みいただきたい。ほろ苦さが残る再会のラストシーンが待っています。(かま) (2007年11月10日)
町医北村宗哲
佐藤雅美/著
角川書店
税込価格  1,760円
 
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緻密な時代考証による社会制度や風俗の正確な描写には定評がある直木賞作家、佐藤雅美氏の新シリーズ作品である。主人公は侠客あがりの町医者北村宗哲、義に厚い江戸の顔役に一目も二目も置かれている宗哲が、裏社会の人脈を使いもめごとを解決する痛快な物語。頭でっかちで青白い軟弱者というイメージの医者と、対極に位置する侠客との組み合わせは意外性もあってとてもマッチしている。江戸版赤ひげともいうべき子の主人公の活躍に今後要注目である。(のり) (2007年11月08日)
ハナシがちがう!
集英社文庫 た59−2 笑酔亭梅寿謎解噺
田中啓文/著
集英社
税込価格  594円
 
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2004年に集英社から刊行された『笑酔亭梅寿謎解噺』の文庫化である。著者の田中啓文(たなか ひろふみ)氏は1962年大阪生まれ。巻末のプロフィールにはジャズ、上方落語、小劇団の芝居、宝塚歌劇などをこよなく愛す、とあるように本書は趣味人ならではの粋な作品に仕上がっている。読書子と嗜好が重なる部分が多いためか、とても愉しんで読むことが出来た。本当に好きな分野だからこそ、単なる知識の羅列ではない落語への著者の思い入れや優しさが感じられ大変好ましい作品である。個性豊かな芸人たちとの距離が身近に感じられ、落語好きにとってはまさにこたえられない1冊だろう。(のり) (2007年11月08日)
ビア・ボーイ
吉村喜彦/著
新潮社
税込価格  1,540円
 
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著者の吉村喜彦さんは、1954年大阪生まれ。京都大学を卒業後サントリーに入社し、宣伝部でCMのプロデュースなどを手掛けたのち独立、文筆活動に入る。本作品は2作目の小説である。ご紹介した著者の経歴から明らかなように、この作品は著者の会社員時代の経験が色濃く反映されたものといえるだろう。サラリーマンだから意に沿わない異動もある。そんなときその会社でどう身を処してゆくのか、本書は一つの指針となりそうである。失敗を糧として成長しながら、純粋さを失わず夢に向かって邁進する主人公の姿は、あるべき理想のサラリーマンの姿ではないかと思えた。いかに「やる気」を持続させるか、そこに成功の秘訣が隠れているのである。(のり) (2007年11月04日)
二人乗り
平田俊子/著
講談社
税込価格  1,760円
 
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現代詩人、劇作家としての活躍で知られる平田俊子さんの小説作品である。著者はこの作品で2005年第7回野間文芸新人賞を受賞した。姉の嵐子、妹の不治子とその夫の道彦、三人の視点で語られる3編の短編からなる。本書中に頻繁にみられる、登場人物たちが自らの心境を吐露する場面が特徴的である。他人の頭の中を書き写したかと思わせる精細な心理描写は、読み手に真に迫った現実感を与えてくれる。本作品は適度な距離感をもって人物が描かれていたため、むしろ読みやすい印象があった。この手法が著者のスタイルであるとしたら、今後、どのような物語を選び、どのような登場人物を登場させてくれるのか興味は尽きない可能性を秘めた1冊である。(のり) (2007年11月04日)
見えない貌
夏樹静子/著
光文社
税込価格  1,980円
 
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流行作家夏樹静子さんの長編推理小説である。小説の性格上、概要はe−honホームページを御参照いただくにとどめ、このレビューでは本作品の読みどころに絞って紹介したい。母と子をテーマに長年書き続けている著者であるが、本書の朔子が晴菜に示す愛情の描き方はさすがと思わせるものがある。親子の愛も行き過ぎれば時に異常な結果を生むことがある。しかし、もし幸運にもその根底にある事実を知り得たなら、親子愛の生んだ悲劇に心を痛み、一言で歪んだ愛情と言い切ることは難しい。ドラマはわれわれの身近なところに存在しているのである。それにしても本文に登場するメールの文面は生々しい。他人の秘密を覗き見したとき感じる心の高ぶりと、同時に受ける中身の重さと比例する罪悪感とはこのようなものなのだと体感させられる。このリアリティは読み手が最も満足感を得られる部分であり、本作の成立に大きく寄与していることは疑いない。500ページを超える長編だが、読み通すだけの価値は間違いなく保障できる1冊である。(のり) (2007年10月31日)

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