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平山書店のレビュー |
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掲載レビュー全609件 |
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著者の鏑木蓮さんは、1961年京都市生まれ。シベリア抑留者たちの間に起こった殺人事件と現代によみがえらせるという壮大なスケールの本作で昭和30年から続く権威あるミステリー作家の登竜門、江戸川乱歩賞を受賞した。読売新聞のインタビューによると、著者の父親もシベリア抑留者だったという。その父のことを調べているうちに抑留者の方々をテーマにした作品を描いてみたくなたのだと著者は語っている。「受賞作も乱歩的な人間の情念を描いた。彼が主張したように、トリックと芸術性が両立する作家になりたい」と著者の言葉に、 現代によみがえった乱歩を感じさせる新しい注目の作家である。(のり) (2007年10月29日) | ||
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著者の朝比奈あすかさんは、現代高学歴社会の弊害を浮き彫りにしたこの作品で、2006年第49回群像新人文学賞を受賞した。主人公29才の凛子は東大を卒業して一流企業に就職というエリートコースを歩んできた女性である。その彼女が仕事上のつまずきから結婚を選択し退社するものの、主婦としての生活への切り替えにも踏み切れず、過去の栄光を諦めきれない日々が綴られる。一般に高学歴の人ほど選択の幅は広く、チャンスも多い。女性の場合はさらに結婚や出産が加わるから、どの道を選ぶか迷いは尽きない。選択の幅を広げる努力と、選択した道でうまく生き抜いて行く能力とは全く別物なのである。高学歴社会が逆に現代女性の生き方を難しくしている現状を見事に綴った佳作である。今後どのようなテーマで書いて見せてくれるのか、注目したい作家の一人である。(のり) (2007年10月29日) | ||
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2006年に刊行された『隠蔽捜査』で吉川英治新人文学賞を受賞してから、まさに目覚しい勢いで著作が刊行され続けている著者の今野敏氏は、1955年生まれというから作家としては大分遅咲きの部類である。しかし、現在最も売れている作家の一人であることは疑いの余地がない。今回の作品は、既刊『曙光の街』の続編にあたるもので、ファンにとってはたまらない1冊であるといえる。このシリーズの魅力は、捜査側の公安刑事とヒットマンが事件を通じ、友情とまではいかないがお互い相手を憎からず思う気持ちを通わせあうところにある。立場は正反対ながら誇り高い同じプロフェッショナル同士、相手をリスペクトする部分がウケているのだろう。同様の作品には、読書子の好きなグレッグ・ルッカのボディガード、アティカスシリーズがある。こちらもかなりの人気シリーズであるので、本書が気に入った読者諸氏は是非にご一読をお勧めしたい。(のり) (2007年10月25日) | ||
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2004年『対岸の彼女』にて直木賞受賞以来となる長編作品である。下町の酒屋「谷島酒店」の夫婦とその四人姉妹の日常を描いた作品である。近所の大型ショッピングセンターの開店に気を揉む父、祖母の入院の世話に忙殺される母、昔の恋人と付き合いはじめた既婚者の長女、大学留年中の二女、デビュー作で文学賞受賞したものの次回作が書けずにいる三女、そして物語は大学浪人中の四女の目を通じて語られる。不安定な立場にいるからこそ、心の待避場所が必要だと四女は気づく。それが最も適しているのは一つ屋根の中で暮らした家族なのだということを教えてくれる1冊である。(のり) (2007年10月23日) | ||
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2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞を受賞した著者の受賞後第1作である。本作は1999年小説雑誌に発表された作品を元にした書下ろし小説であるが、ストーリーに関する引き出しの豊富な著者の過去の佳作が、こういった形で読むことが出来ることを本当にうれしく思う。さて、今回の作品は倒叙ミステリーの形式をとっているが、実際は、甘やかされて育てられたわがまま息子と折り合いのつかない姑という問題を抱える家族の物語である。息子が犯した殺人の罪を実の母親に着せようとするという、なんとも親不孝な夫婦の姿を通じ、現代の家庭の病根を浮き彫りにする。追い込まれた夫婦の心情に共感する読み手は少なくないだろう。それがまた、やりきれなさを呼び起こすのである。(のり) (2007年10月23日) | ||
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それまでは競馬関係の著作が多かった著者の柴田哲孝氏だが、2005年下山事件という社会的大事件を題材に虚構を交えて描いたミステリー『下山事件最後の証言』で日本冒険小説大賞と日本推理作家協会賞を同時受賞し、一躍注目されるようになった。今回の作品は、人間の頭部を握壊させる未知の生命体が登場し、米軍の謀略というショッキングな仮説のもとに描かれたSFチックなミステリー作品である。物語の興味はその生命体の正体へ集中するのだが、生物学的な考証不足が気にならなければ、周囲の人物造形の確かさもあり、最後まで興味を失わずに読了できよう。後半部核心に迫るにつれ、最終形がある程度予想できてしまうことをマイナスとみるか、それとも読者の期待に応えたプラスとみるかは評価が難しい。それほど、結末に至るまでのこの生命体を巡る登場人物たちのドラマが魅力的な一冊である。(のり) (2007年10月23日) | ||
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妻の小池真理子さんとともに直木賞夫婦作家である著者の、恋に迷う中年男性の心の機微をとらえた8つの短編集。著者のことを語る際にどうしても意識せずにいられないのが妻の小池さんである。彼女の作品はいい意味で予想を超えた裏切りが鮮烈な印象を残すことが多く、読み手に対するアピール度強烈なものがある。対してこの藤田氏の作品はといえば、あくまで落ち着いた、それでいて艶のある文章が心に染み入り、登場人物たちの息づかいを身近に感じる錯覚さえ覚えさせられる。人の迷いは尽きることはないが、とりわけ人生の最盛期を過ぎかけた中年男性にとってのそれは、残された時間との戦いである。挫折を味わった男が、恋に心ときめかせながらも現実に折り合いを付けてゆく姿を描いたこの作品、ふと「人生は妥協の産物である」といった言葉が頭をよぎるのである(のり) (2007年10月19日) | ||
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かつて日本財団に在籍し、発展途上国の援助活動を通じ諸国の貧困のありさまをつぶさに見てきた著者のエッセイ集である。曽野綾子さんの著作は、本人が実際に体験した事実が元になっているだけに、われわれ日本人の読み手にとっては、世界の想像を超える貧しさを目の当たりにし、わが身の恵まれた環境に申し訳ない感情を抱かせる。しかし、当の途上国自身も国としての矜持は存在しないようで、提供した支援物質は権力者の利益となり、目的通りに役立つ保証はないらしい。このような有様だから貧困は一向に改善しないのである。道徳は将来の暮らしに目安がたつ場合に存在すると著者は語る。いま、わが国では格差社会が問題となっているが、本著作で繰り返し語られる途上国の貧困とはあまりにも次元の違うことに気づかされ、読書子ははこの問題をもっと別の視座でとらえるべきという思いがするのである。(のり) (2007年10月19日) | ||
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織田信長が女だったという大胆な虚構のもとに描かれた驚愕の異端小説である。著者は西洋史の研究者だったこともあり、これまでヨーロッパを舞台とした歴史小説を手がけていたが、本作はこれが始めての日本歴史の小説である。主人公(ヒロイン)信長の人物造形は、われわれ男性のイメージする女性像から大きく外れることはなく、ほぼ想定内の人物像であったことは、男性の描く女性像の限界でもあったと思う。そういった意外性というものには欠けるものの、史実に沿ったストーリィと女信長としての歴史の引きなおしは、濃厚な心理描写とあいまって物語のおもしろさを存分に楽しませてくれる。この小説ではヒロインが身も心も捧げる明智光秀が真の主人公ともいえる存在で、どこまでも女性に誠実な男性として描かれているが、読書子のような男性の読み手にとっては、ヒロインよりもむしろこの明智光秀の方に心惹かれるものがあったのである。(のり) (2007年10月08日) | ||
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まさに時代が要請したスマッシュヒットであった『佐賀のがばいばあちゃん』の著者、島田洋七さんの最新作。本作は、著者の親友「北野武」氏との25年間にわたる交流を綴った作品である。佐賀のがばいばあちゃん4部作から一貫して感じるように、著者の他者に対するかかわり方には尊敬と感謝が根底にあり、そのことが読み手をとてもいい気持ちにさせてくれるのである。(のり) (2007年09月28日) | ||
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著者、稲葉利彦氏は中国一百貨店と言われた中国伊勢丹の社長を勤めた方である。中国人の特性を知りそれを上手く使いこなせば、中国で成功できることを実証した本である。中国では面子を大変重んずる。この面子の使い分けは、日本人にはややもすれば苦手なところがあるが、そこのニュアンスが理解でき、実践出来れが中国ビジネスの 必要条件がマスターできたといって良いだろう。も一つ中国理解のキーワードは中華思想ではなく、自華思想(?)である。日本人が中国で生活していくうえでストレスを減らす知恵として知っておくに越したことはない。ところかまわず大声を出して携帯電話で話したり、数々・・・ その根底に流れている自華思想をしていれば納得もゆく。中国を知るうえで是非お奨めの一冊です。 (2007年09月28日) | ||
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秋田県能代市出身小嵐九八郎氏の書き下ろし小説である。江戸の花火業界を舞台に描かれるこの作品の世界は、まさに江戸花火の歴史そのものといってよい。それまで船から”立てて”いた花火を、より高く上げるために地上から”打ち上げ”ることをはじめたのが、この作品の主人公玉屋市郎兵衛である。「たまや〜、かぎや〜」でおなじみの掛け声は、江戸花火の人気を二分した花火屋の『玉屋』と『鍵屋』に由来する。玉屋は鍵屋から独立した後発の花火屋であるが、その人気は先発の鍵屋をしのいでいたとさえいわれている。後年、失火が元で取り潰しの憂き目にあう玉屋であるが、その短い命を花火に例え、花火職人清七の一代記に仕立てた著者の技量には恐れ入る。綿密な資料を下敷きにした本書は、花火の歴史ガイドとしても格好の教材である。ちなみに、わが大仙市大曲では、毎年八月に全国花火競技大会が開催され、人口3.9万の地域に75万人を超える観客を数えている。NHKBSでも生中継されるので、ぜひ一度ごらんになっていただきたい。 (のり) (2007年09月09日) | ||
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読者の皆さんは、つい最近、テレビでこういう報道があったのを憶えていらっしゃるだろうか。ある鉄道会社のポスターに、障害者で手助けの必要な方は、電車に乗る2日前までに事前に連絡して欲しいというものがあり、これが、ある団体から障害者の移動を妨げるものとして鉄道会社に抗議があり、ポスターが撤去されたという事案である。読書子の受けた感想はここでは述べないが、納得された方もいれば、ニュースとして報道されるほどの内容なのかと疑問を持った方もいただろう。著者の曽野綾子さんの経歴は申し上げるまでもないが、クリスチャンとしての立場から、様々なエッセイや評論、小説を発表されている。本書のエピソードの中で、毎年、盲人や車椅子の方とボランティアの方たちと聖書の勉強を兼ねて海外へ旅行した時の事が書かれている。そこでは、健常者の方が、盲人や障害者が明るく生きることに立ち向かっている姿を目にし、尊敬を感じる一方、障害者たちは健康な人にお世話になることへの感謝の念を持っている。この尊敬と感謝があるから、旅行はいつも楽しい印象を持って終わるのだという。著者の曽野さんは感情論が嫌いな方であるから、本書の内容は現実に立脚した極めて有用なものとなっている。その意味で、著者は、空虚な理想論にとらわれがちな現代を生きるわれわれ日本人にとり、貴重な書き手といえよう。(のり) (2007年09月03日) | ||
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前作『県庁の星』が25万部を超える大ヒットを記録し、映画化もされた作品の著者として知名度も着実にアップしている桂望実さんの作品である。前作の大ヒットから今回の作品が出版されるまで約10ヶ月の間隔があったため、一発屋で終わる作家の一人かなぐらいの印象しかなかった。しかし、この作品は書き下ろしなので、この潜伏期間、著者は静かに次回作の執筆を進めていたわけである。今回の作品は、自分探し系のすっきりとした味わいのある1冊である。(のり) (2007年09月02日) | ||
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6人の直木賞作家たちが、ワインをキーワードに紡ぐ絶品のアンソロジー。世界で最も古い酒のひとつであり、最も広い地域で飲まれている酒でもあるワインは、古くは儀礼用として使われていた時代がある。われわれの間でも、特別な日を選んでワインを飲むようなことがあるが、それは何も今、ここに限ったことではないのである。さて、本書に登場してくる6種のワインも、それぞれのドラマを持っている。例えば、篠田節子さんの『天使の分け前』では、人質ならぬ”ワイン質”をとられたフランスの大統領が、ワイン惜しさに相手国との約束を取り消してしまう顛末が描かれる。実はこの犯人、このワインの提供者なのである。一民間人が国家元首を手玉にとるありさまは 荒唐無稽な筋立てではあるのだが、妙に納得させられてしまう強烈な個性と歴史がワインにはある。数ある酒の中でもっともドラマに適しているのが、本作品集のテーマであるワインだという思いを強く感じた。(のり) (2007年09月01日) | ||
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2006年第13回松本清張賞受賞作品。著者の広川純氏は、1946年京都市生まれ。会社勤務を経て、1986年に保険調査会社へ転職し、1988年に独立する。本作は選考委員会全会一致で文句なしの受賞となった作品である。全編を通じ、ぶれない、安定した筆致に、著者の実力が窺われる。明らかに見える状況の中で、わずかな齟齬から真実をあぶり出すあたりは感心の一言。元保険調査員ならではの目の付け所といえよう。幼児に対する臓器移植の壁という社会性の高いテーマも織り交ぜ、家族の苦悩ぶりも丁寧に描かれている。終盤、状況が二転三転するたびに、軽い失望感と同時に真実への猛烈な渇望を感じ、ご馳走のおあずけを喰らわされているペットの気持ちが分かるような思いがしたものである。 (のり) (2007年08月30日) | ||
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著者の帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏は1947年福岡県生まれ。精神科医として医療にたずさわるかたわら、堅実に小説を書き続け、1995年に精神病院とその患者たちの姿を描いた『閉鎖病棟』で、第8回山本周五郎賞を受賞した作家である。人間のわずかな心の動きさえも逃さずしっかりと受け止め文字に綴る著者の真面目な姿勢が、多くの良心的な読者を得ている。今回ご紹介する作品は、ある独裁国家とその現状を憂える勇士たちの物語。話は指導者に招かれた医師の目を通じて語られる。独裁国家で高位の職に就き生活と地位を約束された者たちが、あえて命の危険を冒してまで起こす行動は、まさに「ノーブレス・オブリージュ」精神の発露にほかならない。高い地位や身分に就いている人には、それに伴う重い義務と責任があるというこの言葉はヨーロッパで生まれたものであるが、わが国でも武士階級や明治維新から戦前までの篤志家という形で存在していた。戦後政策により身分制度が切り崩されてゆく中、この精神は一般にはなじみがないものに堕ちてしまったかにみえる。しかし、本書のようにドラマティックに提示されれば、共感する人も多いのではないか。それほどこの精神は人を感動させるものをもっているといえよう。参議院議員選挙が間近に迫ったいま、この作品に描かれる出来事を自分の国に置き換えて考えてみるのも意義深いことであると思う。 (のりぼ) (2007年07月16日) | ||
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小池真理子さんの三部作、『無伴奏』、『恋』に続くラストを飾る1冊。平成10年度、第5回島清恋愛文学賞受賞作である。性的不能者の美青年と、身体的快楽のみの不倫に溺れるかつての同級生だった図書館司書との恋愛を描いた作品。性と肉体をテーマに究極の愛の姿を見事に描ききった。この三部作を通じ、著者はバランスを欠いた関係のゆくえについて、三つの異なる状況を描いてきた。 そのいずれもが、関係する者の死という形で結末を迎えることになったことを見ると、あらためてこのテーマの重さが認識される。死をもってしか終わらせることのできなかったほどの恋愛は、結局、人間関係の究極を意味するものではないか。この三部作に描かれる三つの話それぞれが、結末に至る不可避な一本の流れでつながっているところが共通しており、人間のもつ可能性の限界について、ひとつの形を提示するところに著者の狙いがあったといえよう。小池文学の頂点を極めるこの三部作、初刊行から10年経ったいまも、全く色あせることなく読み手の心を打つのである。 (のり) (2007年07月07日) | ||
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著者の石山茂利夫は、本新聞記者ならではの卓越した取材力と手を抜かない真摯な情熱を武器に、 これまで国語辞書という地味なテーマに取り組んで数々の著作を発表してきました。本書は関係者の証言を基に、 書き変えられた原稿、異常な語数削減など、辞書出版にまつわる秘密を追った労作。その驚愕の事実 は従来の辞書のイメージを根本から覆すほど。厳格さの中に日本語の持つ特質のあいまいさが窺われ辞書に対する 親しみが湧く一冊です。(のり) (2007年06月27日) | ||
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平成7年度、第114回直木賞受賞作。著者43歳の時の作品である。この回は受賞者が二人出たが、ちなみにもう一人が5月末に他界された藤原伊織氏である。本作品は小池真理子さん三部作の第2番目にあたる。作家として最も脂の乗っている時期に書かれたものだけに、素晴らしい出来栄えである。幸福な三人の関係が、新たな闖入者によりバランスを失い崩壊してゆく筋立ては、三部作最初の『無伴奏』と共通したものがある。全編通じて流れる虚無感、ささいなエピソードですら結末との連携を失わない構成力は見事。殺人を犯す主人公に対し共感すら抱かせてしまうほど真に迫る描写は、まさに読書の愉しみを実感させてくれる。ごく普通の人間が人を殺すとはどのような状況だったのか。虚構とはいえ異常なまでのリアリティが脳に衝撃を与える。その衝撃を耐えて最後までたどり着けた読者には、著者から素敵なラストプレゼントが待っている。絶対おすすめの1冊である。(のり) (2007年07月01日) | ||
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