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平山書店のレビュー

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掲載レビュー全609件
 
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で
水村美苗/著
筑摩書房
税込価格  1,980円
 
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おすすめ度:
e-honにレビューを上げるようになってから来月でまる五年になる。当初は現代文学を対象としていたが、いつしかロングセラーや古典作品に傾いて、一年ほどになるだろうか。それは、そこに表現されている人間的なものの豊かさにおいて、比べようも無いほど高みに達していることを確信したからだ。この一年のあいだ、漠とした恐れ=負の予感に襲われ続けた。それは、日本現代文学の行く末についてである。本書はそのような思いをひっそりと抱いている人に向けて書かれたものだ。この本は日本文学および日本語を論じた書として、文中の表現様式そのものがきわめて文学的であり、それゆえ読み手の心を痛切に打つ。著者は日本語の豊かさを、直接論じることによって、また自ら文学的に表現することによって、いわば二重の方法で伝えようと試みたのだ。その企てが成功しているかについては申し上げるまでもあるまい(のり)
(2009年11月09日)
逆軍の旗
文春文庫 192‐11
藤沢周平/著
文藝春秋
税込価格  556円
 
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 明智光秀が主人公の作品です。連歌をたしなむ教養人、あの有名なく「時は今 雨が下しる 五月哉」にともに連歌の会に出席してた、和尚が明智光秀の心の在りように異をかんずる。信長によって秀吉の毛利攻めに加勢するように命ぜられ、深夜、側近のみにしか本能寺へ向かうことを知らせず、亀山城を出る。右へゆけば摂津、左へゆけば京という峠、老ノ坂を左へゆく場面が圧巻。あとがきで書いてるが筆者が興味ある人物として明智光秀を取り上げたと、史実と物語を調べてゆくほど、ますます明智光秀という人物の謎が深かったと告白してる。ここに藤沢周平の明智光秀像である。他の短編三作品もおもしろい。 (2009年10月29日)
ビジネスマンのためのクオリティ・リーディング 読書の質が仕事と人生を変える
創元社ビジネス
三輪裕範/著
創元社
税込価格  1,540円
 
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読書の質を高めるための前提となるもの、それは読書の明確な目的だ。これは生きてゆく上での基本的考え方や興味の傾向と言い換えてもよい。だが実際、若い人にとっては読書の目的を見つけるのはそう簡単ではないだろう。それでも継続して読書を続けて欲しい。いつしかその蓄積が肉体の容量の限界を超え、過剰なものがあふれ出す飛躍の瞬間を迎えることだろう。本書はその後のフォローアップ方法を具体的に例示した好著である。(のり)
(2009年10月27日)
チッチと子
石田衣良/著
毎日新聞出版
税込価格  1,650円
 
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出版業界の人にもお奨め。
おすすめ度:
4年前に妻を自損の交通事故でなくす。それ以来子育てしながら、小説を発表し続ける生活。10年間初刷りだけで、そこそこの作家としての地位。そんな時突然直木賞候補作家になる。圧巻は候補になってから、決定までの1と月余りの心の揺れの描写である。作品の後半部は妻の事故が自殺だったかもしれないと主人公が悩み仕事にも身が入らなくなる。偶然息子がみつけた死の数日まえのDVDに妻のビデオレターが。内容が未来を確信し
屈託のない笑顔に、鬱屈してた思いが吹っ切れ主人公が心底作家活動に没頭してゆく。
親子の絆、主人公を取り巻く女性たちがそれぞれのキャラクターで絡まり、心温まる作品となっている。 (2009年10月26日)
闇の傀儡師 上
文春文庫 192‐8
藤沢周平/著
文藝春秋
税込価格  597円
 
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 興味のあるものを手当たり次第に読むのを濫読と言われる。読書子は今年の1月(いちがつ)から振り返ってみても、それほど多い読書量とは言いかねる。何かしら筋の通った読書傾向を自分でも作りたいと思い、商売柄、読書好きと言われる又は玄人といわれてる人が好んで読んでる、藤沢周平の本をすべて読むことを心がけた次第である。この作品もストーリは大変興味深い。徳川の将軍職を継ぐ世子を阻止しようとする八嶽党、その党のいわれなど
また、どの作品にもいえることだが、背景描写のすばらしさ、登場人物の書き方、リアリティさ、あらためて読書子が申し上げるまでもない。 (2009年10月15日)
闇の傀儡師 下
文春文庫 192‐9
藤沢周平/著
文藝春秋
税込価格  597円
 
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おすすめ度:
最初は敵方であった八嶽党が抹殺される運命と知り、主人公は今度は味方につく。
剣のみちを極めたもの同士の真剣1での勝負シーンの描き方は躍動感、息づかいまでも感じられる。読後感は余韻を残し満足感み満たされゆくのを感じた。 (2009年10月15日)
純粋理性批判 上
岩波文庫
カント/著 篠田英雄/訳
岩波書店
税込価格  1,210円
 
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今日、薬師神社の境内に腰を下ろし本書を読み返してみた。ただひたすら読書にふけっていると、ふとキツツキの存在に気が付いた。読書子の気配が消え、自然と一体化していたのだろう、至近距離でキツツキが嘴を樹に打ちつけているのが見えた。読み終えて満たされた。いま、このことを痛切に感じている。お断りしておくが、それは何も難解な書に挑み、成し終えたことによる達成感の獲得などという小さな次元の話ではない。本書でカントは人間の認識能力の限界というテーマに取り組み、見事それを示してみせた。そして何よりも、その先に遥かに広がる知性の地平線を−われわれ人類の途方も無く大きい可能性を−示したのだ。感性、悟性、理性の順に記述が進められ、それは本作品の上(感性、悟性)、中下(理性)の仕分けにぴったり該当する。理論哲学から実践哲学(倫理学のこと)への橋渡しまで体系的に記述されており、そしてさらに『実践理性批判』へと続いてゆく。でも個別の内容紹介をするのはよそう。限られた字数で書き尽くせるものではないし、いまさらそのことで読者が増えるとも思えないからだ。ここではただ次のことを述べるにとどめよう。人間の根源に触れたときの喜びというものは、何にも代え難い心の深奥から生起する知的快楽である、そしてその体験を自分の身に投射して自己を再構成することで、人間に深みが生まれるのだ、と。
 手元の本に読み始めの月日が書いてある。「11/16」だ。約10ヶ月かけて上中下3巻を読み終えた勘定である。3巻で3000円にもならないから、本著作には安価で長期にわたって楽しめる良さもある。しかし正直、書店的には★5つ付けるのはセツナイのであるが。1961年初版から現在58刷。これからも読まれるであろう著作と思う。(
のり) (2009年09月28日)
経済成長という病 退化に生きる、我ら
講談社現代新書 1992
平川克美/著
講談社
税込価格  814円
 
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おすすめ度:
久々の”大当たり”本である。はっきり言おう。本書は新書のレベルを超えている。われわれはまず最初に、この貴重な1冊を手軽に読むことの出来る幸運に感謝せねばなるまい。昨日、朝の散歩中に読むための本として、店晒しとなっていたものを何気なく手に取った。まさに僥倖である。さて、内容に移ろう。著者は経済成長は善、そしてそのこと自体が前提となっているいまの世相に疑いを提示する。切り込む分野は、正義、マスコミ、教育、雇用問題、国際社会及び人口問題、はてはリーマンショックから食品偽装事件まで、非常に多岐にわたる。しかし、本書の優れたところは、単なる懐疑論に終わらないところである。ところで、あまりにもゆっくりとそれは起こるため、個々の状態は認められるとしても、人間は変化の感覚それ自体は知りえない。このことは、マルセル・プルーストが主著『失われた時を求めて』のなかで触れていることだ。とすれば、われわれにとって必要なのは、原因の断罪による自己との切断ではないことはお分かりいただけよう。なぜなら変化そのものが知覚出来ない以上、その事件でわれわれが受ける印象というものは、特殊な一例にすぎないからだ。したがって、個別の事象を見つめる姿勢はどうあるべきか、むしろ事件どうしのつながりに目を向け、そのつながりに肯定的な意味はないかと探り、そして何よりその事件と自分との同質性に視点を移すことだ、と著者は纏めている。潔く人間の限界を悟った上での哲学的提言。その限界の見極めと主張が過不足無く調和しているのが素晴らしい。新書にしておくにはあまりにも著者に対して失礼ではないか、とさえ思えてしまう。だが、あえて新書で出したその奥ゆかしさを読書子はいたく気に入ってしまったのである。 (2009年09月03日)
ロビンソン・クルーソー 上
岩波文庫
デフォー/作 平井正穂/訳
岩波書店
税込価格  1,210円
 
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『ロビンソン・クルーソー』誰もが一度は耳にしたことがある題名だろうし、また内容を知っている人も多いだろう。本書の魅力は尽きないが、とりわけ無人島でのサバイバル生活に強い記憶を持っている人は多かろうと思われる。しかし、古典としての価値という視点から見るならば、本作品が18世紀英国産業革命以前の中産階級の「理性」の典型を表わしている点に意義を見いだせよう。ここでは18世紀頃のイギリス、すなわち産業革命を挟んだ前後での人びとの「理性」のあり方を検討しつつ、現代日本のわれわれにとってこの作品のもつ意味を考えてみたい。
 まず、当時の中産階級の人は技術的な裏づけのある生活の手段をもち、そしてそれに対する報酬が期待できた。すなわちこの時代の「理性」というものは、”勤勉にはその度合いに応じた報いがある”という合理的な考え方である。ロビンソンが発揮したあくなき冒険心もこの考えが根底にあったと読める。努力した者が報われるという公平な社会を理想とする近代合理主義を見ることができよう。
 さて、この「理性」は、産業革命以後にはどのように変化したか。押さえておくべきその大きな点は、機械化により生産に熟練した技術を必要としなくなった市民層が生まれたことである。このことは、勤勉の報いに対する確信を弱めてゆく契機となった。いわば確固たる自己の基盤をもたない「大衆」が発生したのだ。移ろいやすい大衆に社会が左右されてゆく危険性を、スペインの哲学者オルテガは『大衆の反逆』のなかで指摘した。
 しかし、われわれは産業革命以前の社会に戻ることは出来ない。戻れないとすれば、われわれにとってこの作品の意義はどこにあるのか。それには、われわれがこの作品に感動する、その一番の部分に答えがあるだろう。無人島での勤勉な努力、それに対して自然が報いることに感動する。道具も機会も無い状態から、最後はささやかながらも植民地としてしまう。そこに無一文から財を成す典型的な成功者の原型を見るのだ。現代においては努力して報いられる、その単純な喜びを得がたくなっている。そして現代人の不幸はこのことにありそうだ。何時の世も努力してもどうにもならないことがあることは否定しない。だが、あえてそのことを認識したうえで、勤勉への確信を失わない、この考え方も現代で自分を保つための一つの選択でありうるのではないだろうか。 (2009年07月31日)
誇りと復讐 下
新潮文庫 ア−5−29
ジェフリー・アーチャー/〔著〕 永井淳/訳
新潮社
税込価格  825円
 
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貴族に変身して出獄した主人公を待ち受けるのは、御祖父から受け継いだ世界有数の切手コレクションを叔父との争い。スイスのプライベートバンクの描写など重厚になっていて、読んでいて十分納得させられる。大金持ちになり有罪に陥れた4人を一人一人を今度はおとしいれてゆく。成りすましがばれ今度は脱獄の罪で又起訴される。作者の緻密な論理によって構成されてゆく文章には感心させる。裁判で繰り広げるやりとりも見物。 (2009年07月18日)
誇りと復讐 上
新潮文庫 ア−5−28
ジェフリー・アーチャー/〔著〕 永井淳/訳
新潮社
税込価格  869円
 
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おすすめ度:
事件の発端は比較的簡単な内容である。酒場でのいざこざから殺人事件へと発展した。
目撃証言が限られれば、事件が捏造され罪もない人が刑をうける。英国は陪臣院制度をとっている。いかに検察、弁護士が良い印象を与えることが出来るか。細かいテクニックも描かれている。20数年の刑を宣告される。本当の殺人仲間の一人の男が刑務所に入ってくる。そして真実の証言を引き出すが、証言した状況が公正でないと証拠採用されず無実の罪は晴れない。同じ房の貴族の男が囚人がサッカーのテレビ観戦が許された時間帯、サッカーの試合に興奮した騒ぎの中でシャワー室で殺される。状況的に主人公が二度目の公判でも有罪になり絶望して自殺したと断定さてる。主人公が貴族に成り代わる、出獄する。期待をもたせ下巻に続く。 (2009年07月18日)
一茶 新装版
文春文庫 ふ1−42
藤沢周平/著
文藝春秋
税込価格  924円
 
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日本人にとって最もよく知られている俳人の一人、小林一茶の半生を描いた作品。「無能無才にして此一筋につながる」著者は芭蕉の言葉を引いて、一流の俳人になるべく努力を重ねる一茶の心境を表現する。だが、愚直でひたむきな印象を与えるこの言葉の裏には、生なましい現実が横たわっていた。日々の糧にも不自由な一茶は、弟を半ば騙すようにして、父親の遺産を奪い取る。われわれはごく安易に道徳や倫理を持ち出し他人の批判をするが、現実はそれでは済まないのだ。日々生き延びる見通しが立たないところでは道徳や倫理は脇へやられる。そこにあるのは、ただ生活のための切実な願望である。しかし、一茶は人生の最後まで俳句を詠むことを貫いた。そして、それを生き抜くための糧とした。人生には努力してもどうにもならないことがある。それでも自分の本分を守って生き抜くのが人間の生き方なのではないか、と読書子は冒頭の芭蕉の言葉を振り返り、そう思うのである。 (のり) (2009年06月25日)
もの思う葦
新潮文庫
太宰治/著
新潮社
税込価格  539円
 
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「汝等己を愛する如く隣人を愛せよ」これは、太宰治氏が「最初で最後のモットー」だとした言葉だ。随想の抜粋版である本書でさえ3箇所にこの言葉が見られるから、氏がこの言葉にかなり心を傾けていたことが窺い知れよう。また一方で作家活動の初期、絶望と虚無の内に書かれた表題作『もの思う葦』では、最も信頼するものから裏切られた苦悩の体験を綴ってもいる。それでも氏は人を愛し信ずることを止めなかった。『かすかな声』では「信じて敗北する事において悔いは無い。むしろ永遠の勝利だ」とまで述べている。
 この強さは一体どこから来るのだろう。そんなことを考えてる折、ふと以前読んだ茂木健一郎氏の『脳と仮想』のある一文を思い出した。確かこんな文章だったと思う。「人は他人の心を知ることは出来ない。ただ、共通の幻想を抱くことは出来る。そしてそのことで人間は幸せになれるのだ」
 氏こそ、このことを直感的に理解し最も切実に考えていた作家ではなかったか。『自作を語る』で氏はこう述べている。自らの言いたいことはすべて作品に仮託したと。つまり、氏は作品のみを通じて他人と共通の想いを分かち合おうとしていたのではなかったろうか。小説家としての強い自意識と、自らの弱さを認めた上での謙虚さが、その他の手段を採らせなかったと思われるが、そこがいかにも太宰治氏らしい。
 こうして生誕後100年経っても未だに新刊の文庫本で多くの人が彼の作品を手に取り、読むことが出来る。果たしてわれわれは氏の想いに応えることができたろうか。その答えはそれぞれの心の内にある。本書がいくばくなりとも、太宰治という作家の人となりを知る上でお役に立てばと思い、ご紹介申し上げた次第である。(nori)
(2009年06月25日)
西郷札
新潮文庫 傑作短編集 3
松本清張/著
新潮社
税込価格  935円
 
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西郷札、西郷隆盛を崇める神社のお札か?勘違いされる方もいらっしゃるかもしれない。実際に山形県鶴岡市には西郷神社がある。親藩の大名酒井氏が戊辰戦争で官軍と戦い、敗北後どのような咎めがあるかと思いきや、余りにも寛大な計らいに感激し西郷さんの計らいによると、西郷神社を建立した。前置きが長くなった。西郷札は明治、西南戦争の田原坂で負けもはや政府軍と西郷軍の雌雄が決したとされる頃、宮崎県あたりで出回った、西郷軍の軍票のことである。その西郷札に関する事件が古文書を通して語られる。そこに語られる物語は兄妹の戦争によってもたらされたその後の境涯や、一攫千金を当てようとする山師。兄妹の情に嫉妬して落とし入れようとする高級官僚。などそこには、すでに社会派といわれる著者のタッチが伺われる。最後の結末は読者に委ねる格好になっている。史実か物語かそのはざ間で想像逞しく出来る秀逸。文字も大きく読みやすいようになり。ぜひよんでいただきたい。 (2009年06月25日)
深海魚 暗黒街のモンスターたち
尼岡邦夫/著
ブックマン社
税込価格  3,981円
 
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「ここでいう深海魚は水深200m〜11000mまでに棲む魚を扱っている図鑑。生息する深さを4段階に分けて夫々の魚を分類している。図鑑を見ていて感ずることは、形がグロテスクなものが多いこと、また色が原色にちかいものが多いことである。魚の分類の仕方が、発光するもの、発音するもの、発電するもの、摂餌、等々まだまだこれから解明されていく学問分野であることうかがわせる。日常の喧騒はなれこのような図鑑の世界に浸るのも、最近頻繁に耳にする「癒し」に最適なこと請け合いの本です。
(2009年06月25日)
ムンクの恋
本多哲哉/著
文藝書房
税込価格  1,320円
 
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人間が高みに成長する時には、常に自由な精神というものとは反対のものを含んでいるものだ。本書はハンセン病患者をもつ一家族の生き様が抑制した筆致で描かれる。著者の意識は、孤独や抑圧がむしろ人間を高めるものだという方向にあり、弱い立場を道具として安易に主張することはしないその清廉な潔さが美しい。あのニーチェも繰り返し説いた生きることへの肯定が、いま静かに甦る (2009年06月25日)
思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本
講談社現代新書 1978
郷原信郎/著
講談社
税込価格  924円
 
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いま、日本の社会を覆う閉塞感は、法令を遵守することが自己目的化してしまっていることが原因と著者は説く。例として出された食の「偽装」問題では、真実はマスコミの報道とは全く異なっていたことが明らかにされており、とても興味をそそられた。ところで、民法学の最高権威であった我妻榮氏は、その名著の誉れ高い『法律における理窟と人情』において次のように述べている。法律家の任務とは、常識と人情が法律論の一般的確実性を崩さずに通るようにすることだと。ここで、一般的確実性というのは、いわゆる杓子定規と先生が呼んだ、本書でいう法令遵守の意味である。その任務を守る方法として挙げているのが、法律の立法理由にさかのぼって考えるべし、というものだ。著者が事案の背景や事情を顧みない法的処理に危機を感じ、本書を著した理由は、おそらく我妻先生の言葉がなおざりにされていることも背景にあるのではないだろうか。いまの日本を、泉下の我妻先生は何と思うのだろう。いまご紹介した2冊は、ぜひセットで読んでいただきたい本である。(のり) (2009年06月25日)
国富論 1
岩波文庫
アダム・スミス/著 水田洋/監訳 杉山忠平/訳
岩波書店
税込価格  1,353円
 
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ケインズ、マルクスなどすべての経済学理論はこの書から発したと言われる古典中の古典。『国富論』といえば、重商主義批判とか国家の富の概念が重要視されがちであるが、その本質は地に根ざした人間学といえよう。例えば、公費で職業教育を行うと(書中では医師や弁護士などの知的職業)、その職業に就く人が増え、自分の資金で教育を受けた人びとの分け前を減らすことになるという例が出されている。”努力した者が報いられる”このことは誰でも分かる公平な社会の理想であるが、それを脅かす危険を鋭く指摘しているのは真に興味深い。装飾のないモノトーンの世界。けれども古典は読むたびに発見がある。それがあるから何時の時代も読者が途切れることなく伝えられてゆくのだ。 (のり)
(2009年06月25日)
日本人とユダヤ人
角川oneテーマ21 A−32
山本七平/〔著〕
角川書店
税込価格  880円
 
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ユダヤ人の視点から日本人を対象化してその本質を論じた名著の復刊である。とりわけ、日本人がどのような政治思想を基にして、現実の政治を運営していったか、その特徴を最もよく表わしているとして著者が挙げたのが、恩田木工の『日暮硯』(ひぐらしすずり)である。延々10ページにわたって同書の本文を引用している力の入れようからわかるように、本書で著者が最も重要と考えた論点の一つであることは疑いが無いだろう。そこには「人間的」「人間味あふるる」といった意味の「人間教」ともいうべき一つの宗教的規範が確立しており、日本人とはこの宗教を奉ずる一大教団であると述べている。このことは、宗教的祭儀と政治との二権分立を夢見ながら果たせなかったユダヤ人と対比することにより、際立って日本人の独自性を浮き彫りにする。文章は少々難解の部類に入るだろうが、未読の方ぜひご購入いただき、目に付いた箇所に傍線を引きながら読み進めていっていただきたい。二度三度と傍線部分を読み直すたび、また新たに傍線が増えていく。そういう一冊である。(のり)
(2009年04月26日)
人類を救う哲学
梅原猛/著 稲盛和夫/著
PHP研究所
税込価格  1,430円
 
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経済発展を善とする進歩主義に警鐘を鳴らす対談集。内容は多岐にわたるが、とりわけ文学について語った部分が気に留まったのでご紹介しよう。梅原氏は近代以降の自然主義文学がもてはやされることについて疑問を提出している。人間の醜悪な姿を描いた作品が傑作として評価されることへの懐疑である。だが、このようないわゆる純文学が一般受けしているかといえば、そうではない。読まれているのはむしろ大衆文学であり、その大衆文学は、かつて自然主義文学が登場する以前、文学のテーマだった「善」を描いてきたのだ。例えば、藤沢周平は立身出世や金儲けといった価値観に従わず、市井にあって一筋の道を貫いた人間を描いた。いまだに彼の作品に支持者が多いことは、古来からの道徳観というものが人を惹き付けておく何かをもっていることの証左ではないだろうか。「人間の人格を発達させることが文明の究極の目的である」と述べたのはアレキシス・カレルであるが、その言葉に耳を傾けず欲望の赴くまま突っ走ってきた人間が手にしたものはいったい何だったのか、本書がこのことを考え直してみる契機となれば幸いである。 (のり)

(2009年04月26日)

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